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とばっちり

 更新が遅れてごめんなさい。

 騎士達の剣や甲冑が発する金属の甲高い音が魔の森に響き渡り、それを彩るかのように魔獣のくぐもった咆哮や大魔術による破砕音がその音をグロテスクかつ複雑なものへと変えていく。


 魔の森にある小さな開拓村を戦場(舞台)にして、人間と魔獣との激しい戦闘が続いていた。


 その戦いはいつ果てるとも分からず続き、永劫にも感じられるほど激しいものではあったが、どのようなものにも必ず終わりは訪れる。


 激しい攻防が続く開拓村での戦闘も徐々にその終焉の兆しが見えてきていたのだった。


─────


「”光極剣”!」


「こ、”光極剣”ッ!」


 クリスティンの放つ光の剣を、クリスはかろうじて作り出した光の剣で受け止める。


「ぐっ……きゃっ!」


 だが剣を受け止めたのもつかの間、クリスは死角から仕掛けられたクリスティン()の蹴りを避けることができず、鳩尾(みぞおち)にたまらず喰らってしまった。


 そのまま連続で攻撃されては不味いと、クリスは蹴られた勢いのままゴロゴロと地面を転がり、少し距離を取った上で慌てて起き上がる。


 ここまでの長い時間、クリスは格上のクリスティン相手によく粘ってきたが、ここに来て地力の差なのかジリジリとその受ける傷が増えているように思われた。


 クリスが立ち上がったのを見届けると、クリスティンは諭すように語りかける。


「……ベル、お前はここまで良くやったよ。これは紛れもない僕からの純然たる賛辞だ。だけど僕とお前の姿を見れば、その実力差はもう身に沁みて分かっただろ? だからベル。もう諦めてギブアップするんだ」


 クリスティンの心の中では多少手こずったもののクリスとの間ですでに勝負の決着がついたものと考えていた。


 だが立ち上がったクリスは頬に残る土を無言で(ぬぐ)うと再び構えをとった。


「……どんなに足掻いたところで、僕とお前の実力差は歴然。多少の経験で埋まる程の生易しい開きじゃないとお前もよく分かったと思うんだけどね」


 しぶとく抵抗するクリスに対して、少し不快そうに見つめるクリスティン。


 そんな兄の態度に対して、クリスはフン、と鼻を鳴らして反論する。


「光の魔術は癒やしを本義とする魔術です。換言すれば私をぶっ飛ばして気絶でもさせない限り、私は魔力の続く限り自分を回復させていつまでも兄さんに食らいつきますから!」


 クリスティンとしては格下の妹をさっさと戦闘不能にして、他の戦闘の援護に回ろうと考えていたのに思いの外粘られて少し焦っていた。


 だから最愛の妹には決して洩らすべきではない愚痴を思わずポロリと言ってしまった。


「……ベル。僕は全てお前のためにここまで頑張っているのに、どうしてお前は僕の邪魔を……いや、な、なんでもない!」


 いきなり慌てるクリスティンに対して、怪訝(けげん)な顔をするクリス。


「それどういう意味ですか、兄さん?」


 誤魔化しが効かなそうなクリスの態度に、クリスティンは仕方なく真実を話す。


「……ベル。実はお前は時の女神様の加護によって仮初めに生かされている存在なんだ。だからもしも時の女神様がアルベルトに倒されてしまったら────お前は消えてしまうんだよ」


「!?」


 そして禁断の真実が明かされた。


─────


「あははははは! 私とご主人様の邪魔をするゴミめ! さぁ、逃げ惑いなさい!!」


「こ、こいつマジでヤバいのでアル!」


 銀のキリングドール(シーア)は内心で冷や汗をかきながら、サキが放つ鋭利な氷の弾幕をなんとかギリギリで掻い潜る。


 以前同型機(ミーア)と戦った時には感じられなかったピリピリとした感覚を、シーアは戸惑いながらも感じていた。


(こ、これは……まさか”恐怖”、という感覚でアルか!?)


 するとシーアの心にはカッと羞恥にも似た感情が灯され、それを怒りの感情へと変換した。


「下等な人間風情に……我が恐怖するわけがないのでアルッ!」


 シーアの身体のあちらこちらから内蔵されていた射出口が露出し、一気呵成(いっきかせい)に弾幕が張られる。 


 キリングドール(シーア)が持ちうる最大の攻撃手段である”爆導筒”だった。


 この数多(あまた)の”爆裂”の魔法が込められた魔導兵器は、実体のない霊的な存在以外には確実に致命の打撃を与えるものであった。


 だが───


「ふん! そのような機械仕掛け(カラクリ)が私に通じると思っているんですか! 私のご主人様に対する愛の大きさを……思い知りなさいッ!!」


「……は?」


 瞬間的にサキを取り巻く魔力が膨れ上がり、サキから氷の魔力が全方位に放射される。


 するとサキから放たれたその魔力は氷の短槍に姿を変え、それぞれが空に乱舞するシーアの”爆導筒”にまっすぐと向かっていき、着弾と同時にそれを穿ち抜いた。


 次々と誘爆する”爆導筒”。


 夜空に煌めく打ち上げ花火のように、空一面に爆裂の華が咲いた。


「あ、あ、あぁぁぁぁぁぁッ!!」


 シーアはその時恥も外聞もなく恐怖の叫びをあげた。自分が何を相手にしていたのか理解したのだ。


(こ、こいつは正真正銘の化物なのでアルッ!)


 恐怖に駆られたシーアは、戦闘中であることも忘れて一目散に逃げ出そうとした。


 巨体を這いつくばらせながら、サキから逃げようと慌てて駆け出す。


 だが───


「誰が私から逃げていいと許可しましたか?」


 シーアの眼の前にいきなり厚い氷の壁が迫り上がってきた。


 焦ったシーアは反射的にその機械の身体を使って全力でその壁を殴りつける。


 ガンッ!!


「ま、全く傷つかないのでアルか!?」


 シーアは自分の怪力でもびくともしない氷の壁に対して、思わず驚愕の声を上げてしまう。


「これは”絶対凍結”で作られた氷壁です。そんな物理攻撃で傷なんてつくわけがないじゃないですか」


 冷え冷えとしたサキの声がシーアの音センサーに届く。


 気がつけばシーアの周りは城壁を思わせる氷で覆われていた。逃げ道は、ない。


 カツーン……カツーン……


 魔術の余波で凍った地面が、シーアに近づいてくるサキのゆっくりとした靴音を反射させる。


「ひ、ヒィィィィッ!!」


 進退窮まったシーアは頭を抱えて地面にうつ伏せになった。


 エネルギーを使いすぎたのか、萎々(しおしお)とシーアの身体が徐々に縮まり、小さな少女形態へと戻ってしまった。


 這いつくばったシーアの前で止まる靴音。


「お、お姉さま……わ、我を助けてほしいのでアル……」


 いきなり態度をしおらしくし、命乞いを始めたシーア。


 機械であるシーアは、彼我の戦力差を検討し、白旗を掲げる決断をしたのであった。


 だがこの潔い態度にはもちろん裏があった。


(さぁ、もっと我に近づくのでアル。くくく……近づいてさえしまえば、いくらでも対処のしようがあるのでアル!)


 そして近づいたサキに反応し、ガバリと頭をあげるシーア。


「ははは、引っかかったのでアルな化物めッ! これ……で……?」


 途中でシーアは気づく。自分の意思に反して身体が全く動かないのだ。


 サキは動けないシーアの顔を優しく手のひらで撫でながら微笑む。


「はぁ〜、あなた本当にミーアさんにそっくりですねぇ。つまりあなたもご主人様にベタベタといやらしく尽くすつもりなんですか? ……私というものがありながらご主人様はどうして次から次へと……」


 作り物めいた微笑を浮かべながら暗い瞳でブツブツ呟くサキには、始めからシーアの命乞いなんて耳に入っていなかったのだった。


 流石にこれはまずそうだと悟ったシーアは、今度は本気で命乞いを始める。


「ま、待ってほしいのでアル! 話せば分かるのでア──」


「問答無用」


 サキの一言で一瞬で物理的に凍りつくシーア。


 シーアは凍りつく直前、(これってひょっとして参号機(ミーア)のしでかした事のとばっちりではないアルか?)と思ったが、彼女の嘆きは誰にも届かず、彼女は考えることを止めた。

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