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連携

ちょっと遅くなりました。

「むむ、そこの猫耳娘! 貴様のその顔に見覚えがあるのでアル。確か以前、空から奇襲を仕掛けてきたうちの一人でアルな? あの時はよくも卑劣な奇襲を我らに仕掛けてきたのでアルな!

 今回の我らの奇襲はその意趣返しなのでアル! どうだ、悔しいのではないアルか? くーっくっく!」


 キリングドール(ミーア)と同型の姉妹機であり、白き魔女の従者でもあるシーアが、サキの前でふんぞり返りながら、聞かれてもいないのに自分たちの奇襲作戦についてウキウキとひとり語りしていた。


「私は別に貴方達の奇襲なんて気にしてませんよ? 敵が来るならそれを真っ向からただ迎え撃つだけですから」


「……ふん! 減らず口だけは一人前でアルな!」


 サキのシンプルな回答を聞き、一瞬鼻白んだシーアであったが、すぐに気を取り直して再び薄い胸を無駄にそらしていた。


「……ひょっとしてアルベルト(あの男)は、仲間が動揺しないように敢えて作戦の情報を仲間と共有していなかったのか? 実際奴の策が破れたにもかかわらず奴の仲間には動揺があまり見られない。故に我らの奇襲は十分に効果を発揮せず、村に侵入する前に拮抗状態へと持ち込まれてしまったわけだしな」


 時の精霊がボソリと現状分析を呟きつつ、視線をフェリシアに向けながら淡々と語る。


 もっとも時の精霊はフェリシアではなく、その頭の上に鎮座している神鳥の方を意識しているようではあったが。


「策なんてものは初めから完璧を期待しないものよ。アルベルトはよく未来でも見えているみたいに的確な作戦を実行していたけど、決して彼は万能ではないの。だから彼が失敗したなら彼が次の手をうつまで私達が支えてあげればいい。簡単な話でしょ?」


 横目でサキとキリングドールの漫才を見つつ、時の精霊と会話を続けるフェリシア。


 彼女は一瞬だけアルベルトが戦っている方を見やる。


 ヘルメスと1対1(サシ)で近接戦をしているアルベルト。


 これ以上彼の負担を増やすわけにはいかない。フェリシアはここでキリングドールと時の精霊を倒すと、内心覚悟を決めた。


 彼女は右手を虚空に突き出し、神鳥を呼び出す。


「ヒノちゃん!」


《待っていたぞ契約者よ。我も力を貸そう》


 呼びかけに応じ、その輝くニワトリのような姿を現世に現した神鳥が、契約者(パートナー)のフェリシアにだけ聴こえる声でその意志を伝えてきた。


「……ならば顕現せよ! 神剣”火之迦具土(ヒノカグツチ)の剣”ッ!!」


 瞬間、彼女の右手には消える事のない焔が吹き荒れた一振りの長剣が握られていた。


「……その焔の輝き。やはり貴様は炎の精霊王の分御霊と契約していたのか」


 時の精霊は周囲に魔法球を浮かべ、臨戦態勢をとる。キリングドールもいつの間にか人間形態から銀色の戦闘体へと姿を変えていたようだ。


「サキ、準備はよろしくて?」


 腕を組み、いつの間にか強い冷気を身体に纏っていたサキが無言でフェリシアに首肯してくる。


「では、いざ尋常に……いくわよッ!!」


 フェリシアは神剣を振りかぶり、悠然と待ち構えている敵へと吶喊(とっかん)するのだった。


─────


 数多の魔獣達が人間の匂いを本能的に嗅ぎつけて、食いちぎってやろうと村へと殺到していた。


 例え精鋭のアショカ騎士団全員が村に詰めていたとしても、この血に飢えた無数の魔獣達から村を無傷で守り切るのは絶対に不可能であっただろう。


 だが───


「メアリー! そっちにいきましたよ!」


「分かったわ〜 ……”土砂変形”からの〜”岩石生成”〜」


 リーゼの闇魔法で感覚を狂わされた魔獣達が、面白いようにメアリーが土魔法で作った落とし穴へと落ちていき、さらにその上から岩石を落とす事で土の中に埋葬されていく。


「副長さん! 一定数をそちらに回しましたので、対処をお願いしますよ!」


「分かったわ!」


 リーゼから声をかけられたアショカ騎士団の副長であるメイベルは、仲間の騎士に適切な指示を出し、危なげなく魔獣達を(ほふ)っていく。


(この子達の魔法の技術は本当に凄いわね。高いレベルの土魔法と闇魔法を上手く連携させているわ。卒業後うちに来てくれないかしら?)


 完全な無力化には至らなくとも、リーゼとメアリーの魔法連携によって多数の魔獣が一時的に行動不能となったため、村に派遣されている騎士団は魔獣の物量に押し潰される事なく、十分に村の防衛を維持できていたのだった。


(今のところはギリギリの所で拮抗しているけれど、最後までこれを維持できるかどうかは正直未知数よね……)


 メイベルは油断なく現状をそう分析する。今は上手く対処できているが戦力の層の薄さは如何ともし難く、ちょっとした綻びが致命の結果になりうる問題があった。


 それから暫くは作業のように魔獣を駆除していたが、いくら倒しても湧いてくる魔獣に対して、徐々に配下の騎士達に疲労が見えてきてしまい、メイベルがフォローをする回数が段々と多くなってきた。


「あ!」


 そんな矢先、フォローに回っていたベテランの騎士が、連戦による疲弊から数体の魔獣を取り逃してしまった。


 彼は最終防衛ラインを担当していたため、その背後には無防備な村人達が数多く控えていた。

 

このままでは力なき村人達が魔獣によって蹂躪されてしまう───


「”土竜爪壁”〜!」


 そんな矢先、間一髪のところでメアリーの土魔法が発動して魔獣達の進路が遮られ、魔獣達は土の槍に串刺しとなって絶命していった。


「わぁッ、バカですかメアリーは! 私達の役割を忘れるんじゃありません!」


「あ、しまったわぁ〜 もう魔獣は目の前やわぁ〜」


 メアリーは咄嗟に土魔法を最終防衛ラインへの対処に使ってしまったため、本来の魔獣の攻勢を逸らす仕事に空白が生じてしまったのだった。


 おかげでリーゼとメアリーの前には、無力化できなかった魔獣達が大挙として襲ってきていた。


「これは……」


「流石に……」


 あまりの魔獣の多さに、一瞬絶句してしまう二人。


 だがなんとか防がなければなるまいと、一か八かの大規模魔法の詠唱に入ったところで、彼女達がよく知る頼れる少年の声が耳元に届いたのだった。


「”絶牙……断衝”ッ!」


 一瞬で魔獣達が細切れとなり、血のシャワーを周囲に噴かせている。


「「アルベルトさん!!」」


 片膝をつき、黒い剣を水平に構え残心をしているのは、彼女達が密かに慕っている長身の少年だった。


「なんとか間に合ったな」


 その後もアルベルトは周囲の魔獣を積極的に駆逐していき、騎士団が態勢を立て直す時間を稼ぐのだった。


「アルベルトさん、助かりました!」


「ほんまに美味しいところを持ってきますなぁ〜。惚れちゃいますわぁ〜」


 リーゼとメアリーに褒められこそばゆいのか、プイっと顔をそむけるアルベルト。


 戦闘中とは思えない、穏やかな時間が一瞬だけ現出したが、その雰囲気は冷たい殺気と共に一瞬で霧散してしまった。


「おいおい、つれないな悪役貴族。俺と踊っている最中に他のことなんて考えるなよ」


 その姿を完全な悪魔へと変えたヘルメスが、身体中に魔獣の返り血を浴びながらいつの間にかアルベルトに肉薄していた。


「嘘だろ!? もう復活しやがったのかッ!」


「くくく、俺は何度でも蘇るさ」


 一瞬で余裕の消えたアルベルトは、人間にはありえない速度で振るわれるヘルメスの鉤爪を黒剣でなんとか捌きつつ、騎士団やリーゼ達の邪魔にならないよう、新たな戦場へと移動していった。


 あっという間の出来事にリーゼとメアリーは少しだけ茫然自失としてしまったが、すぐに気を取り直し再び魔獣への対処を続けるのだった。


 そのやり取りを遠目から眺めていた騎士団の副長は、彼女達とは別の事を考えていた。


 少年の流れるような所作が、一敗地に塗れさせられた昔日の蛮族の(たたず)まいとだぶるのだった。


(あの少年…………まさかな)


 流石に考えすぎだと思い、目の前の敵に無理やり意識を集中させるメイベルではあったが、まさかそれが真実だったとは神ならぬ彼女では思いも至らなかったのであった。

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