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もう一つのスタンピード

「あ、遅いよアルくん!」


「心配したのだぜぇ〜」


 対スタンピード用の秘密基地を出発してから数時間後。こっそりと到着した機動演習のゴール地点では、クラスメイトのクリスとエドワードが手持ちぶさたな様子で俺を待ち構えていた。


「いや、悪い悪い。野暮用がちょっと長引いてな。それよりも村が騒がしいが何かあったのか?」


「うん。どうやら魔物達が森で大発生しているみたいなんだ。だから今回の演習は一旦中止で、明日の日の出を待ってみんな速やかに森を離れろってさ」


 いい感じに俺達の活躍が伝わっているみたいだな、よしよし。


 すでにアショカ騎士団の分遣隊はこの村に到着しているのか。中々仕事が早いな。


「お〜い誰か回復魔法が使える者はいないか!? 傷が深いんで誰か手助けしてくれ!」


 村の大きな家から騎士の格好をした男が現れる。ん? 作戦で騎士達に怪我はさせたが、こんなに長引くような怪我はさせてないはずだぞ?


「なんか魔物の大量発生が原因で怪我人や死人(・・)が出たんだってさ。サキさんやフェリシアさん達はすでに向こうの天幕で重症者の手当をしているよ。アルくんも無事に戻ってきたし、私もちょっとあっちを手伝ってくるね」


 そう言って急いで天幕へと駆け出していくクリス。

 今回のスタンピードは、俺達が偽装して起こしたものだ。だからかなり手加減していた。それにもかかわらずこの村には多くの死傷者が運び込まれている……。俺は猛烈にイヤな予感がしてきた。


「ちょっといいかな? 君はリストにあったサルト宰相の身内の方で間違いないかしら?」


「……え、ええ。そうですが」


 俺は天幕に向かったクリスの事を説明しながら村への到着の報告を教職員にしていると、こちら側だけが一方的に見覚えのある女性騎士が俺の目の前に現れた。


お初(・・)にお目にかかります。私はアショカ騎士団にて副長の任を賜っておりますメイベル・ディ・サファードと申します」


 つい数時間前に対峙した若い女騎士が生真面目な感じでこちらへと挨拶してきた。


 まさかこいつは分かっててこっちを揺さぶっているのか!? ダメだ、現状では判断がつかん……。


 俺が内心で焦っていると、その女騎士は神妙な顔のまま、村で一番立派な建物である村長宅へと俺を案内した。


 マズイな。これは最初に謝っておいた方がいいのだろうか。まぁバレてるバレてないにかかわらず、第一印象としてとりあえず謝っておいても損はないよな?


「いやぁ申し訳───」


「アルベルト殿、誠に申し訳ない!」


 俺と女騎士の言葉が被った。お互いが目を合わせ不思議そうな顔をする。


「……あ〜、なんでもないです。ところでその謝罪は何に対する謝罪でしょうか?」


 俺は全力で誤魔化した。


 一瞬怪訝な表情を浮かべた女騎士さんだったが、すぐに姿勢を正して言葉を続ける。


「大変申し上げにくいのですが……貴方のお父上である宰相閣下と第二王女殿下が、森の視察中に行方不明となりました」


「──!!?」


 俺はその意味を一瞬理解できなかった。なぜ親父と王女が……?


「実は今回の機動演習の来賓としてお二人が招かれていたのです。そしてお二人のご意向で我が騎士団の団長を始めとする一部の部隊をもって森の視察に出かけたのですが……どうやら我々が遭遇したスタンピード以外(・・)のスタンピードに遭遇したらしく……部隊は壊滅し落ち延びてきたのは傷深き僅か数名の団員だけでした……」


 なんだそれは……


 俺は激昂しかかる感情を無理やり押し隠し、事態の詳細を聞く。


「どうやらアショカ砦にいた我々だけではなく、森へと視察に向かった別働隊も襲われたらしいのです。そして我がアショカ騎士団の精鋭だった団長を始めとする第一隊が壊滅し、宰相閣下と王女の両名も行方不明……ということです」


 スタンピードの同時発生。それは本当にただの偶然なのか?


「我が騎士団は現在壊滅状態にあり、国境一帯の村落を避難させつつ後方へと集結、援軍の来援を待つという計画です。そしてその後にスタンピード対処と宰相閣下達の捜索にあたりたいと思います。誠に申し訳ないですが優先順位の了知を願いたい……」


 そう言って女騎士はこちらに頭を下げる。


 無能と罵るのは簡単だが、この副長よりも腕が立つという話の隊長がそんなあっさりスタンピードに負けるものだろうか。


 それこそ存在を悟られず奇襲されたりとか───


「……ちょっと待て。なんでそんな動きがあったのに俺達は把握できなかったんだ?」


「アルベルト殿?」


 これはおかしい。俺達は常に本物のスタンピードを警戒していた。それにもかかわらずスタンピードの発生を見過ごしてしまった。


 考えられる理由を、持っている情報から類推する。そして最悪な結論に至った。


「……こちらの裏を……かかれた?」


 白き魔女(ヴリエーミア)一党にもミーアと同等の性能を誇るキリングドールがいた。そしてウィンディに匹敵する闇の精霊もいる。


 もしもこいつらがスタンピードの隠匿に手を貸していたら───


「まずい! 村の周辺を警戒! スタンピードがこちらに来るぞ!!」


 俺は風の魔法で増幅した声で周囲に注意喚起しつつ、叫びながら全力で村の外周へと飛翔する。


「え?」「ご主人様?」「アルベルト!?」「アルくん!?」


 俺は仲間に注意を促しつつ、村の外の気配を探る。そして───


「そこだッ!!」


 違和感のある微量な魔力の揺らぎに、全力で風の砲弾をぶつける。


「にょわぁぁぁぁぁッ!でアルッ!」


 風景が揺らいだと思った瞬間、森の中に蠢くモンスターの大群と共に、金色のキリングドール等の見知った敵の姿があった。


「流石に奇襲は上手くいかんか。流石だなぁ”悪役貴族”よ」


「ヘルメスッ!!」


 悪魔の腕を持つ戦闘狂。”黒鋼(くろがね)”のヘルメス、そしてヴリエーミアはいないもののその眷属の大半がスタンピードと共に集結していたのだった。


 《お前様! 急にそっちからスタンピードの反応が出たのじゃが!?》


 俺の脳裏に、ウィンディの戸惑いの思念が届く。


「ミーアと一緒に全力でこっちに迎え! くそ! やってやろうじゃねぇかッ!」


 目の前には敵・敵・敵の大群集だ。


 そして背後には数多くの非戦闘員。ここで時間を稼がねば確実にみんな死体の山だ。


「ああ、いいなぁこの空気は。実に殺し合い日和だ!」


 一人愉悦に浸るヘルメス。背後からは仲間達が近づいてくる気配がある。


 その動きを見てヘルメスは口許に笑みを浮かべる。


「よし、役者は揃ったか。では第三ラウンド開始だ。お互い存分に殺し合いを愉しもうじゃないか!!」


 ヘルメスはそう言い捨てると、鋭い殺気を纏いながら俺へと真っ直ぐに向かって来るのだった。

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