秘密基地
新年明けましておめでとうございます。
去年は仕事が30日まであって悲惨でした。
今年も明日から仕事デス。
気晴らしにネットで怪文書ばかり書いていて本編が全然進んでいないのはドンマイ。
今年はもう少し投稿間隔を短くしたいですねぇ。
「はぁぁぁ……」
アショカ騎士団の精鋭である蒼の団に所属している先任の男は、吹き出る汗を拭うこともせず、地面に座り込んでため息をついた。
周りを見渡せば同じような姿勢で蹲っている隊員達ばかりだ。
隊員の誰しもが身体中に傷を負っている満身創痍な有様であり、これが数刻前までは王国にアショカ騎士団ありと吟遊詩人に謳われた精鋭騎士団とはとても思えないほどみすぼらしい姿だった。
誰しもがくたびれ下を向いている中、忙しそうに動き回っているのは戦闘時には後方に下がっていて比較的軽症な衛生兵ばかりというのも状況の酷さを浮かび上がらせている。
まさに完敗という言葉でしか言い表せない状況だった。
「結局モンスターの集団暴走には手も足も出なかったなぁ……」
隣の男からの弱音がこもった呟きを聞き、先任は反射的に言い返す。
「力及ばずとも我らは全力で魔物どもを迎え撃ち、幸いにもスタンピードの矛先を変える事には成功したではないか! 何を卑下する必要があるか、結果を誇れ、結果を!」
先任の声には力強い響きがあったが、その内心では全く逆の事を考えていた。
(今回のスタンピード、過去に経験したそれとは明らかに魔物の強さが違っていた。なんというか……魔物どもから知性、というものが感じられたな。それにスタンピードを構成する魔物の中には、少しばかり違和感を感じるような魔物も混じっていた。ドラゴンにゴーレム、そして蛮族の戦士か……まさかあれはスタンピードではなく、何かしら人為的な───)
「先任、無事か!?」
男が推論を重ねている時、背後から突然に声がかけられた。
「あ、副長。まぁこちらはなんとか。……それより副長は大丈夫ですかい?」
先任の背後から声をかけてきたのは、砦の留守を預かっていた副長のメイベルだった。
声をかける先任の声音には気遣いの気配があった。
無理もない。戦闘が集結した後、慌てて捜索に出かけた同僚のオクトー隊員が副長を見つけた時、副長の姿はまさに暴漢に襲われた後のような有様らしかったのだ。
直接見たわけではないが、あのオクトー隊員の狼狽えぶりから考えると、あまり想像したくない事態が行われたと察せられたのだった。
「……ああ、私は平気だ。しかし騎士団の被害は深刻だな。隊員の大多数が何かしらの負傷をしたようだ。……まぁ不幸中の幸いなのは、死亡者や不具者が出なかったことくらいか」
副長の呟きに対し、先任は溜息をつきながらもあえて副長が指摘しなかった不都合な真実について、率直に言葉として継ぎ足した。
「まぁ代わりと言っちゃあなんですが、我らがアショカ砦は──」
「ええ、これでもかって程木っ端微塵ね。……いっそ清々しい気分だわ」
二人は呆然と、完全な廃墟となってしまったアショカ砦を見上げた。
スタンピードは、彼らの護りの要であるアショカ砦を完膚無きまでに破壊し尽くしたのだった。
「あ、副長〜! まだ出歩いちゃダメですよ〜!」
遠くからオクトー隊員の大きな声が聞こえてきた。
「魔法で怪我を治したから私はもう平気だ、オクトー隊員。……ええい、だからそうくっつくな鬱陶しい!」
「だってだって……私の大事な先輩が……うぅ……うぇぇぇぇん!」
副長本人よりもオクトー隊員の受けたショックの方が大きいようだった。
オクトーは、彼女が敬愛している先輩が謎の蛮族の慰みものになってしまったと誤解しているのであった。
当然副長本人は蛮族の放った謎の技で気絶させられた事は自覚しており、別に無体な扱いを受けたわけではないとオクトーに説明済みなのだが、オクトー本人が副長が襲われたと思い込んでおり、その勘違いを訂正することができないでいた。
とりあえず副長はその鬱陶しい後輩を引き剥がすことはを諦め、部隊を預かる副長として今後の予定を考えるのだった。
「しかしこれで|コンティンジェンシープラン《危急時対応計画》を発動しなければならなくなったわ。まさかこんな事態に陥るとは正直配属されてから一度として考えた事もなかったわね……」
「俺もです、副長。危急時対応計画は事前に読んだことがありましたけど、まさか実際に適応される時が来るとは思ってもみませんでしたよ」
先任は再び大きな溜息をついた。
まさか彼自身も自分が生きている間に、いわんや現役の間にこの砦が陥落するなんて夢にも思っていなかったのだ。
「……全部隊に通達。当騎士団は現時刻をもってアショカ砦を放棄。各部隊は衛生兵による治療を受けたあと、戦闘序列を維持したまま割り振られた最寄りの村を経由し、脱出する村民と一緒に定められた防衛拠点へと直ちに転進なさい!」
応!! と力強い返事を返しながら各団員は、治療を終え身軽になった部隊から順次撤退を開始したのであった。
砦無き今、防衛戦は熾烈を極めるとは思うが、各員の奮起に期待したいところだった。
「初戦はこちらがやられてしまったけど、まだまだ闘いはこれからよ。人間の底力、魔物どもに見せつけてあげるわ!」
メイベルは一人、意気盛んに気炎を上げるのだった。
─────
「はぁ〜、やっと終わったな。ウィンディもミーアもお疲れ」
俺はスタンピードに偽装した俺達3人+風の精霊達を森の中へと撤退させた後、事前にミーアに用意させておいた森の中の隠し砦にて休息をとっているのであった。
この秘密の砦は丁度スタンピード発生予想地とアショカ砦との中間地点にあり、スタンピードの進行予測ルートの通過点に位置していた。
「しかし流石ミーアだな。周囲から見つかりにくいのにこんなに壁が堅牢で、しかも温泉までついてやがるとは! 流石古代魔法帝国の遺産だぜ!」
俺はこの秘密基地感満載の場所に大変満足していた。
精々掘っ立て小屋程度だろうと高をくくっていたら、文字通りの地下要塞が出来上がっていたのだから驚きも一入だった。
更に凄いのは地下を掘削して温泉を引っ張ってきており、風呂まで完備している点だった。ミーアという古代の最強ゴーレムが実はチート満載だと知った瞬間であった。
「いやぁ〜褒められると照れるデスねぇ〜。周囲の壁は即席用の鉄筋コンクリート製デスし、一応砦の四方には対空対地両用のアクティブフェイズドアレイタイプの魔導レーダーなんかも設置しているデス。蛮族や魔物どもの奇襲なんて絶対に受けないデスよ!」
言ってる事はちんぷんかんぷんだが、とりあえず凄い設備を備えた建物というのはよく分かった。
なんでも暇な時にデータベースに残っていた古代の地下施設とか廃墟を漁って色々と魔道具や材料なんかを掻き集めていたらしい。
……なんか本当に悪の秘密結社の謎の基地みたいになってきたな。
「さて……これで作戦の初期段階は終わった。アショカ砦が陥落した騎士団は、危急時対応計画に基づき、近くの村民をまとめあげて後方へと避難するだろうさ。あとはここで”本当”のスタンピードの発生を警戒し、スタンピードが確認されたら後は一気にこちらの機動打撃戦力で叩けば作戦は終了だ」
俺は蛮族に偽装するために身体中に塗りつけたペイントをゴシゴシと洗って落としながら呟いた。
今回考えついた作戦はシンプルだった。
ウィンディとミーアに相談した結果、ミーアの持つ野戦築城のスキルとウィンディの持つ風の王の権能を駆使し、俺達だけでスタンピードを抑えこもうという案だった。
その際後顧の憂いを断つ意味を込めて、村民と騎士団には事前に下がっていてもらおうという事で今回の予防的奇襲プランが出来上がったのだった。
「しかしお前様大丈夫かの? 女騎士に顔を見られたじゃろ? 後でバレて大変な事にならんかのぅ?」
ウィンディが心配そうにたずねてくる。なお、こいつの心配は別に俺の命の話ではなく、俺が実家から追い出されて自分がぐうたら生活できなくなる事を恐れての発言だった。
この駄精霊はすっかり人間の文化に染まってしまったな。こんなに人間の文明に毒されておいて今更精霊界に戻れるのかよ。
「まぁ、派手にペイントしてたし見られたのは一瞬だったから大丈夫だろ、多分。……しかし久しぶりに大暴れしたから疲れたなぁ〜。……ってよく考えたらなんでこいつらは精霊界に帰らないの?」
なぜかミーアが作り上げた人工的な温泉には、多くの風の精霊達がぎっちりと入っていた。
暖かい温泉に浸かり、みんな寛いだ表情だった。
「あ、言ってなかったかの? 今回は特例で女神の助力によってペナルティなしで風の精霊達がこっちにおるんじゃよ。まぁ、あと数日分はこちらの世界に留まれるだけの精霊力を事前に与えられておるから兵糧の心配はせんでええよ」
世界の命運がかかっているだけあり、女神も相当ムリをしてくれているようだった。俺も頑張らないとな。
「とりあえずウィンディとミーアはここで警戒監視を頼む。俺は一度今回の機動演習のゴール地点に行って今後のスケジュールを確認してくるから、その間の留守はしっかり頼むぞ」
俺の発言を受け、ウィンディはその薄い胸をドーンと叩く。
「任せるのじゃ! ワシはこの温泉で部下の精霊達を顎でこき使って、まったりと待っておるのじゃよ〜」
それをジト目で見ながらミーアが半眼で敬礼してくる
「……まぁご主人。何かありましたら連絡するので気にせず行ってほしいのデス」
俺の中でウィンディとミーアの序列が入れ替わったのを感じるやり取りだった。




