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アショカ騎士団

 野外広域機動演習が開始されてから、今日で四日が経過していた。


 本日は、クリスとエドにゴールである開拓村へと向かわせた後、俺自身はとある目的のためにウィンディとミーアを引き連れてクリス達とは別行動をとっていた。


「ええと確かここらへんの地域に展開していたはずなんだが……お、見つけたぞ!」


 森が拓けて視界が多少通るようになると、俺達がいる場所からそれなりに離れたところに、周囲の森とは不釣り合いな立派な砦が見えてきた。


 高さのある櫓からは森の周囲をよく見渡せて、実戦時にはかなりの防御効果が期待できそうなしっかりとした防壁を持っている質実剛健な建造物だ。


 この砦こそは我がフレイン王国の国境最前線地帯に構えられた、護国の盾とも吟遊詩人に唄われたこともある、難攻不落の砦たるアショカ砦であった。


 この魔の森はとにかく非常に広大な面積を誇っており、エクスバーツ共和国やラ・ゼルカ法王国が、それぞれ勝手に国境線を引いてもなおお互いの国境が接しないような地域であった。


 基本的に各国の国境線は、魔の森の外縁部に設定されていたため、それぞれの国境が直接隣接することはなく、各国間の摩擦はほとんど起こっていなかった。


 ただし魔の森自体が数多くの危険なモンスター群を内包していたり、太古より森を住処としているどこの国家にも属していないまつろわぬ部族が時々人里を襲撃してきたりと、決して問題がない地域というわけではなかった。


 そのためフレイン王国では、国境線付近で発生した問題へと迅速に対応するため、実戦を意識した部隊をここに常駐させて、数々の難題に対処してきた。


 それがここアショカ砦であり、そこを護る精鋭の国境警備騎士団、通称”アショカ騎士団”がそこに駐屯していたのであった。


「さて……2人とも準備はいいか?」


 俺はゴソゴソと懐から仮面を取り出して顔につけた。そして左右に控えるウィンディとミーアに声をかける。


 ウィンディの姿はいつもの幼女姿ではなく、精霊力によって緑色の竜の姿となっていた。またミーアについても戦闘用の黒いキリングドールの姿に変わっている。


 なお、俺も顔のマスクだけではなく、身体中に怪しげなペインティングをしたり、適当に調達してきた蛮族風のルックスにキメていたのであった。


「……なぁ、お前様。本当にやるのかのぉ?」


 ウィンディが小声で俺に問いかけてくる。どうやら今回の作戦についてあまり気乗りはしていないらしい。


「もちろんだ。これが一番俺の期待する展開になる確率が高いと思うしな」


「そうかのう〜? もしもこれがバレたら、文字通りワシらは指名手配犯になってしまうんじゃがのう〜」


 ウィンディがなんかがっくりとしている。


「御主人! どこまでやっていいデスか!? ちょっくらい人間どもを殺しちゃってもいいデスか!?」


 一方のミーアは、テンション高めな感じだった。基本的に今の人類が大嫌いなコイツは、今回の作戦で人間を攻撃できる事が嬉しくて嬉しくてしょうがないのであろう。


「多少の怪我をさせるのはありだが、殺しはなしだ。それよりもお前はその無駄な腕力で砦をぶっ壊す方に専念しろ。そっちのほうがお前には向いている」


「任されましたデスよッ!」


「じゃあワシはそろそろ眷属共を呼び出すぞい。……どうなっても本当に知らんぞい」


 ウィンディはため息を吐きつつ精霊王の権能を行使し始める。続々と姿を現す風の精霊達を横目で見つつ、俺は背中に括っていた巨大なメイスを構えた。


「安心しろ、ウィンディ。砦に攻め寄せるのはあくまでもまつろわぬ民の蛮族戦士と、森のモンスター達、だからな」


─────


 同時刻より少し前。アショカ砦の物見櫓では、2人の女性兵士達が暇そうにしていた。


「はぁ〜。ここんとこ暇ですよねぇ、先輩」


「オクトー隊員、しっかり気を張りなさい! このアショカ砦こそは我がフレイン王国の北の護りの(かなめ)、常在戦場の精神が重要なのですよ!」


「先輩、口ではそんな立派な事を言ってますけど、そこに置いてある茶菓子がそのカッコいい台詞の全てを台無しにしてますよ〜」


 ここアショカ砦はフレイン王国でも最果ての要塞だ。いくら国境最前線の基地だからといって、そうそう頻繁に敵が現れるわけではない。


 血風吹き荒ぶ蛮族の戦士達がこの地で暴れ狂っていたのも今は昔の話であり、彼らによる文明世界への襲撃頻度は年々減ってきており、ここ何年かに至っては彼らが姿を現すことそのものが稀なものとなっている状況であった。


「……そう言えば先輩ってあと2ヶ月くらいでここを除隊する予定でしたっけ?」


「まぁね。名目は転属で、近衛の近習付けかなにかの配置になるみたい。そして向こうに戻ったら私、許婚(フィアンセ)と結婚して家庭に入るつもりよ」


「あ〜それは……オメデトウゴザイマス?」


「あはは、いいわよそんな世辞。本当はアショカ騎士団(ここ)を辞めたくないけど、家の方が何かと婚期とかうるさいしねぇ〜」


 この先輩は若輩ながらこの砦の副長にも選ばれるくらいの実力者だった。


 この砦では門地や性別ではなく、純粋な騎士としての能力が評価される。


 だから未だに古い因習が根強いフレイン王国の中であっても、ここは取り立てて能力重視の開明的な人が多く、彼女達のような才女には大層居心地が良い場所であったのだ。


「でも先輩がいなくなると寂しいですね〜。結構ここには先輩のファンだった娘も多いから、きっと任期の最後の方なんて一夜を共に過ごそうって思い込んじゃうような一途な娘も出てくるんじゃないですか〜?」


「うわ、止めてよ、オクトー。私が昔ヴェルサリア魔法学園に通ってた頃、本当にそんな感じで辟易させられた経験があるんだから」


「うわ、マジですか? やっぱモテる女は辛いっすねぇ………あ、そう言えば魔法学園の冬の名物である機動演習、時期的にそろそろなんじゃないっすか?」


「ええ、確かその件で今年は宰相閣下と第二王女様が来賓としてこちらに来ているわね。今は……どこかの村に視察に行っているはずなんだけど──」


 のほほんと世間話をしていた2人の間に、急激に緊張の気配が漂う。


 その眼差しは鋭い戦士のものに変わり、先程までの浮ついた気配は微塵も感じさせなかった。


 二人は同時に櫓の上から身を乗り出すと、同一の方角へと首をめぐらせ、遠方を見据える。


 彼女達の見つめる先には小さな土埃しか無かった。


 だが彼女達の魔力探知には、濃密な魔力の気配がキャッチされていたのだった。


 先輩は手元のボタンを素早く押す。すると砦内にけたたましい爆音が鳴り響いた。


 第一級非常事態宣言を知らせる音だった。

 もし誤って押した場合、軍法会議もありえるほど、それは重要な意味を持つ知らせだった。


 ”危急なる国難あり”。


 それがその知らせの意味するものだった。


 この砦で、その知らせが起こるケースは実はそんなに多くない。多分2つのケースだけだった。


 一つは敵国からの明確な侵略行為であり、もう一つは───モンスターの集団暴走(スタンピード)だ。


「オクトー隊員は急いで砦内にいる騎士達に状況を知らせよ! 私は敵最前線への強行偵察を実施する! なんとしてでも暴走はここで防ぎ、開拓村へは向かわせない!」


「了解っす! ご武運をッ!!」


 こうして安穏とした時間は終わりを迎え、アショカ砦では建城以来最大の危機が訪れる。


 ただ単に彼らアショカ騎士団を開拓村の護衛任務に就かせる事だけを目標にして……。

 最近、所謂”もう遅い”の類の作品を読んでいるのですが、展開に色々ツッコミどころが多く自分で納得できるヤツを書いてみたいですね。

 でも書いても需要ってあるのでしょうかね?

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