夕食
野外広域機動演習が開始されて早三日。
強行軍による移動が功を奏し、俺達はすでに最終目的地である国境沿いの村までの距離を、残り30kmにまで縮めていたのだった。
俺達は、途中学園が用意していたイベントもなるべく最小限の数だけこなし、学園内でも過去最速に近い記録を叩き出して距離を稼いできた。
……にもかかわらず、今日の宿泊予定地であるチェックポイントに俺達がたどり着いた時、なぜかその目の前にはよく見たメンツがすでに集結して夕食作りをしていたのだった。
「あらアルベルト。遅かったわね」
「ご主人様、お疲れ様でした」
フェリシアとサキが、野菜の皮を剥きながらいつものように平静に俺へと声をかけてきた。
「解せねぇ〜。まったくもって解せねぇ〜」
これを理不尽と呼ばずしてなんと呼ぶべきか。あとで話を聞いたら、どうやらフェリシアの頭にいつも寄生している例の神鳥が彼女達に力を貸してくれたらしい。
《ふっ……たまには人間に協力してやるのもやぶさかではなかろう》
どうせ食いもんか何かに釣られただけだろう、このアホ鳥。神鳥とは言っても所詮は畜生よ。
まぁ、こっちにも風の精霊王という穀潰しがいるが、一般人であるエドが近くにいた関係であまりおおっぴらに精霊力を酷使させることができない事情があったのだ。
エドさえいなければ足腰が立たなくなるまで精霊力をこき使ってやったのに、本当に残念な限りだ。(ウィンディ「え? ワシひっそりとピンチじゃったの?」)
「……ってそういやいつの間にかエドがいないな。アイツどこいった?」
さっきまで一緒にいたはずのエドがいつの間にか姿を消していた。トイレにでも行ったのだろうか。
俺がエドを探してキョロキョロと周囲を見ていると、近くにいたサキが不思議そうな顔をこちらに向けてくる。
「エドワード様って確かご主人様のお友「知人」……知人の方でしたよね。そういえば私、その方にお会いしたことが実は一度もありませんですねぇ」
これはまた意外な事実を発見したな。そういえばニアミスは数多くあっても、サキとエドは互いに遭遇した経験がなかったのか。
「まぁ、アイツに会えたからって嬉しい事なんて何一つないんだから、サキは別にあれに一生会わなくても問題ないからな」
「……貴方、仮にもクラスメイトに対して凄く辛辣な事を言っているわね」
俺の近くで立ち作業をしていたフェリシアが、呆れた顔を俺に向けながら言った。
フェリシアは慣れた手付きで鍋の中に野菜を放り込んで丁寧にアク取りをしている。
「でも貴方達丁度よいタイミングでここに来たわね。……もちろん夕飯は私達と一緒に食べるわよね?」
「ああ、いただくよ」
こうして俺達は運良くフェリシア達が作っていた夕飯にありつくことができた。
なおエドワードはやはり腹痛を起こしていたらしく、泣く泣く夕飯も食わずに部屋で寝る羽目になっていた。ざまぁ。
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「……お粗末様でした。じゃあ後片付けの方は貴方達に任せちゃっても大丈夫かしらね。とりあえず私達はここの村の宿泊施設で先に休んでいるわね」
「ああ、夕飯を厄介になったからな。後片付けくらいはさせてくれ。それじゃあ、お休み」
しばらく談笑した後、俺は夕飯の片付けに取り掛かりながら、軽くフェリシア達にお休みの挨拶をした。サキやリーゼはペコリと会釈して宿舎に向かって歩いていく。
そこで最後尾を歩いていたフェリシアが、何を思ったかいきなり踵を返して俺の方に向かってくると、俺の目を覗き込むように一気に距離を近づけてきた。
お互いの吐息と吐息とがかかるほどの刹那の距離。
キスでもするのかと言わんばかりの距離で立ち止まると、フェリシアは真剣な眼差しを俺へと向けてきた。
「今回のイベントの事、まだ私はしっかりと貴方から聞いていないわ。事が起こる前にちゃんと私達に相談してくれるのでしょうね?」
小さな苛立ちと大きな心配が合わさったような複雑な眼差しを俺へと送ってくるフェリシア。こいつとの付き合いも結構長い。いい加減な返事ではきっとコイツは納得しないだろう。
「無理をするつもりはないし、事が起これば絶対にみんなの協力は必須だ。だからみんなには絶対に後で説明する。ただし過去の実績からも俺の予知は確実とは言えないこともまたはっきりとしているから……今は俺を信じて待っていてくれないか?」
これは狡いやり方だ。
これなら絶対にイベントの主導権を俺が握れる。
彼女達は薄々何かが起こるのではないかと気づいているが、流石にその内容までは分かるまい。
だから我が身が可愛いならば、彼女達に知っている事全てを説明し、任せてみるのも一つのやり方としてはアリなのだ。
だがその結果、仲間内の誰かが犠牲になるような取り返しのつかない結果になってしまった時、彼女達が納得しても、俺は絶対に俺自身を赦せなくなるだろう。
だから俺自身が今やろうとしている事……俺が一番危険な場所を受け持って、このイベントに対処しようとするこのやり方は、結局のところ俺のエゴにしか過ぎないのだ。
別の言い方をするならば……それは”男の意地”ってやつなのだ。
「納得はしないけど……今は貴方を信じておいてあげる」
俺の返事を聞いて溜息を一つ吐くと、フェリシアは顔を離して不遜に告げた。
ツンと澄ましたその顔は、強気な彼女によく似合っている。
「じゃあ、今後も手伝いを頼むぜ、フェリシア」
「今後も存分に私を頼りなさいよね、アルベルト」
俺は絶対にこの最終イベントをやり過ごし、時の女神達の野望を挫き、仲間だけでなく村人達も誰一人死なせないぞ、と改めて心中で誓うのであった。
空はすでに茜色に染まり、夕闇の時間が近づいている。
だがまた日は昇る。
俺は感慨深くそう思うと、フェリシアに別れを告げて夕飯の片付け作業を再開するのだった。
本来想定していたエピソードをバシバシ飛ばしている関係でやっぱり通しで読むとちょっと拙いなーと思う箇所があるのですが、エタらず終わらせるためと御了知いただければ幸いです。
あとどうでもいい話ですが、最近声優のMAOとゴーカイイエローを演じた市道真央とが同一人物と知ってちょっとびっくりしました。
プリコネのペコちゃん可愛いですよね。




