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野外広域機動演習

「うぉぉぉ〜、歩くのがしんどいでござるよアルベルト(うじ)ぃぃ〜ッ! そろそろ休憩しようずぅぅぅ〜ッ!」


 もう何度目か分からないが、クラスメイトのエドワードは、地面でジタバタしながらその巨体に見合わない女々しき泣き言を俺へと訴えかけてきた。


「おい、エド。まだ演習が開始されてから3時間程度しか経ってないんだぞ。流石に音を上げるにはまだ早すぎるだろ……」


「そんなこと言ったって、拙者は疲労と空腹で死にそうなんだぜーい!」


「やれやれ……」


 学園の敷地はすでに見えなくなって久しいが、俺達は今、街道のショートカットを図るため、けもの道しか存在しない山岳ルートを俺、クリス、エドワードの3人で踏破している真っ最中だった。


 俺達がなぜ、こんなしんどい思いをしながら山道を登っているのか。それは年明けの光陽月(1月)の下旬から始まった学園の一大イベントである、”野外広域機動演習”に強制的に参加させられているためだったのだ。


 ”野外広域機動演習”とは何か。簡単に言うと、それはスケールの大きなピクニックイベントだった。


 学園から西へ約150kmほど離れたところに、エクスバーツやラ・ゼルカに(またが)って拡がっている大森林地帯、通称”魔の森”が存在していた。


 今回の演習は、その森の外縁部に設定してある我が国の国境線までの道のりを、徒歩や馬等を使って陸路で走破するという、1学年の終わりを締めくくるに相応しい過酷なイベントとなっていたのだった。


「あはは、エドくんは相変わらずだよねぇ。……あともう1時間ほど歩けば、徒歩でしか移動できない山岳エリアを抜けて馬が用意された平原ルートに移るんだから、そこまでは頑張ろうよエドくん」


 クリスがそう言ってエドワードを慰めている。


 俺はそれを横目で見つつ嘆息し、少しだけ休息をとろうと2人に声をかけるのだった。


 一見すると普通の遠足にも見える光景ではあったが、俺の頭の中では別の問題の事でいっぱいいっぱいな状態になっていたのだった。


 その問題とは────


(演習の最終日に到着するフレイン王国国境地帯において、間違いなく”異界の魔物ども( 奴等 )”はエクスバーツ側からこの国に襲撃を仕掛けてくるだろう。その証拠に、ヴリエーミア達が”女神召喚”の準備のためにすでに現地入りしている事はミーア達の調査で明らかになっているしな。

 ……クソッ! アバウトなゲーム知識だけだとやっぱり奴等の襲撃ポイントや進行ルートが絞りきれない。更に可能性が低いとはいえ、ヴリエーミア達一党が事に便乗して俺達へと直接襲撃をかけてくる可能性も否定できないしなぁ……)


 実は今回のイベントこそが俺の死亡フラグの総決算とも言えるしろものであり、ゲームではアルベルト()がヴリエーミア達に焚きつけられて、森の奥深くに封印されていた魔物召喚の壺を愚かにも解放してしまい、国境付近に数多く住む開拓民達に多大な犠牲を強いてしまうという痛恨の展開となっていた。


 更にシナリオによっては、自分自身も悪魔と契約して物理的に身を破滅させてしまうというルートまでもがあったのだった。


 この世界でもおそらくは焚きつけられた他の誰かが、魔物達を解き放ってしまう展開になるのだろう。


 このイベントでのヴリエーミア達の真の目的は、その殺された開拓民達の魂をエネルギー源として利用し、この地にて時の女神(クロノ)の肉体召喚の儀式を成功させることにあった。


 ゲームではその目論見が残念ながら成功してしまい、物語は急速に本格的な時の女神との戦いとなっていくわけだが、そういった意味でこの野外演習こそが、ゲームシナリオ全体の分岐点とも言えるイベントであった。


「とりあえず拙者はこの非常食を食べて元気を出すのだぜぇ〜」


 歩きたくなくてジタバタしていたエドワードではあったが、どうやら己の作戦では俺達を説得することができないと悟ったらしく、諦めてリュックの中からエネルギー補給と称して食べ物を漁っていた。


「あれ? エドくん、それ非常食じゃなくってさっき配布された今日の分の昼食だよ! それを食べちゃうとエドくんの今日のお昼ごはんがもうなくなっちゃうよ!?」


「え、拙者ぺろりといただいてしまったでござるよ? そういう大事な事は先に言ってほしかったのだぜぇっ!」


 俺が如何に魔物による攻撃から開拓民達の被害を減らそうかと思考をぐるぐる巡らしている間に、同じ班のエドワードとクリスは、のーてんきな漫才を続けていたのだった。


 深刻になりすぎるきらいのある俺にとって、その光景はある意味で良い息抜きになった。


「はぁ……。まぁ、すぐには良いアイデアなんて出てこないしな。リミットはあと数日、可能な限りそれまでにマシなプランを練っとこう……」


 俺はそう自分自身に言い聞かせ、クリスやエドワードと歩調を合わせながら、ピクニックを続けるのであった。

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