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六畳一間

 俺達は、エキストラとして集められていた風の精霊達を解散させ、風の女神(ヴェルテ)の力によって無駄に大きく作り上げられていた書割のような宮殿をさくっと消去した後、普段ヴェルテが住んでいるという場所へと移動した。


「あの、粗茶ですがどうぞ」


 女神(ヴェルテ)が手ずから俺にお茶を注いでくれる。


 ヴェルテは長い翡翠色の髪を後ろで緩やかに縛り、その髪によく似合う白を基調としたブラウスを着ていた。


 しかもいくつか前ボタンが外されており、巧妙にその色気のあるスタイルを強調したようなあざとい雰囲気のオマケ付きであった。


 ヴェルテに案内された部屋は、まるで六畳一間の安アパートのような作りをしていた。


 何でも異世界に(かぶ)れた仲間の女神が、その異世界で見たデザインを参考に(こしら)えたものらしい。


 丁度寮の部屋のように小さなコンロや一人用のベッドが設置され、ベッドにはいくつかのファンシーなぬいぐるみが置かれており、この部屋だけ見ていると女神が普通の人間のように思えてくるのだった。


「因みに本当はこやつら女神は、食事も睡眠もいらないのじゃ。でも人間の文化に興味津々でいつも人間のごっこ遊びをしておるのじゃよ」


 横からウィンディがどうでもいい突っ込みを入れてくる。


 ウィンディもいつものゴテゴテした装いとは異なり、ラフな緑色のジャージのようなものを着ていた。


 やはりジャージは全世界共通の部屋着だな。


「さて、アルベルト。私の招待に応じてくださりありがとうございました」


 人心地ついたのを見計らって、ヴェルテが軽く頭を下げてきた。


「なに、俺もあんたに時の女神の件で聞きたいことがあったから丁度良かったのさ」


「なるほど……貴方はアレ(・・)を時の女神と呼称するのですか。どうやら話題については私が話したいものと共通しているようですね」


 俺が出した”時の女神”という言葉にピクリと反応するヴェルテ。やはりこの世界の女神達は、俺の知っているゲームとは違い、時の女神に対しての反応が薄いな。


「貴方が言う”時の女神”……私達はクロノと呼称していたのですが、あれがどういう存在なのかアルベルトは把握しておりますか?」


「……確かどこかへと去っていった創造神の忘れ形見であり、六女神の結界の外から常に中へ入り込もうと画策している存在じゃなかったかな」


 俺がゲーム知識に基づいて時の女神(クロノ)についてヴェルテに説明すると、ヴェルテは何か考えているようであった。


「何もこの結界の中に入り込もうとしているのは彼女だけではありません。他にも悪魔と呼称される存在は頻繁にこの結界の中へと侵入を試みているのですよ」


 彼女の説明によると、女神達の間でも時の女神(クロノ)の扱いについては統一した見解がなく、確かに魔力パターン等は自分達に似ている事までは掴めていたようではあったが、とりあえずは通常の悪魔と同じ扱いにしようと決まっていたそうだ。


「───ですから女神の結界が破られていない現状、クロノの扱いについては通常の悪魔に対する対応と同じ……すなわち、地上の皆さんに対処をお願いすることとなったわけです」


 やはりゲームでは女神の結界が破られたため、特例で女神達が色々と人間の手助けをしてくれていたのだと再確認できた。


 しかしヴェルテからの気になる情報として、クロノの魔力反応が、主に俺達が住むフレイン王国内で移動しているとの話があった。


 これはクロノが力を与えている白き魔女(ヴリエーミア)を指しているんじゃないかと思えるが、その裏取りをしておかなければならないな。


「一応、今回のクロノの件につきましては、ラ・ゼルカの巫女に貴方達に協力するよう神託を使って伝えておきました。しかし、神託は内容を受け取る側で曲解される事が多々ありまして、まぁ保険程度に思っていただければ良いかと思います」


「……まぁ、あまり期待しないでおくことにするよ」


 ラ・ゼルカ聖王国というと、以前にやり合った聖騎士のディミトリを思い出すな。

 今から考えるとなんで聖騎士がうちの学園にいたのだろうか。

 まぁ、それは今考える事でもないか。


「ところでヴェルテ、今度はこちら側からのお願いなんだが……」


「はい、なんでしょうアルベルト」


 真っ直ぐにこちらを見つめてくるヴェルテ。


 心なしか何かを期待しているようなワクワク感が、ヴェルテから漏れ出しているようだった。


 そこで俺は、仲間のクリスが置かれている状況と、彼女の魂を救える方法を女神が持っているとウィンディに聞いた旨をヴェルテに伝えたのであった。


「……はぁ、人間の女性のクリスさんを救いたい、ですかぁ」


 いきなりこれまでのヤル気が嘘だったかのようにテンションを下げるヴェルテ。


「因みに創造神さまと違って、私達女神には死人を生き返らせたり、クロノみたいに運命の分岐を弄ったりといった真似はできませんよ。あくまでも死んだ人間を転生させたりとか魂を保全するとかその程度のレベルですからね」


 それで失敗したのがサル・ロディアスの失態ですから、と少し自嘲っぽく苦笑いするヴェルテ。


 俺は今の言葉の中でウィンディからは事前に聞いていないある単語に興味が湧いた。


「待ってくれヴェルテ。魂の保全ってなんだ?」


 ああ、それですかと簡単に答えるヴェルテ。


「力ある魂は、死後も暫くは存在を維持できるのですよ。それを私達女神がサポートする事でその存在期間を更に伸ばすことができるのです」


 そう言えばゲームでもルートによっては、一度時の女神との戦いに敗れ死亡したゲーム主人公が、女神の助力で生還することがあったな。


 だけどあの時は確か、ゲーム主人公が復活するために────


「まぁ、アルベルトの頼みですから〜、ちょっと彼女の状態を見てみますかねぇ〜」


 ヴェルテは俺が考え事をしている横で、よっ、とおばさんっぽく立ち上がると、天に向かって片手を伸ばし、うーんと目を瞑って意識を集中しだした。


「……あ〜、これは以前私が使った”世界創造”と同系統の魔法ですねぇ。これは世界そのものではなく分岐に働きかけているんだ…………うん、これなら私でもなんとかなりそうだわ」


 ヴェルテは目をぱちりと開き独り言ちていた。


「どんな感じだ?」


「まぁ、私の見たところ、彼女の魂はとても強く輝いておりますので、クロノが消滅した後も、暫くはクリスさんの魂を私の力で保全する事は、まぁ可能そうですかねぇ〜」


 軽い口調で呟くヴェルテ。


 だから俺もその軽い口調に乗っかる感じでヴェルテに質問を投げかけた。


「じゃあその保全された魂を、魂が空になった俺の身体に入れる事は可能か?」

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