アルベルトくん14歳。カジノ潜入大作戦(3)
「なんかサキが『アルベルト様が見知らぬお姉さんにホイホイついていった』と大騒ぎしていたから一緒に来てみれば……あんた、実はそっち系の趣味があったの?」
あからさまに嫌そうにジト目を向けてくるフェリシアに対して、俺は首を左右に振りつつ声を大にして抗議する。
「ご、誤解だ!俺はただ、ボンッ、キュッ、ボンッ、な綺麗なお姉さんが大好きなだけなんだぁっ!」
「……ねぇ、サキ。あんた本当にこんなのがいいの?
婚約者の私が言うのも変な話だけど、流石にコレは止めといた方が良いんじゃない?」
ゲーム以上に扱いが辛辣なような気もするが、流石に穿ちすぎだろう。だって俺品行方正だし。
「いえいえ!ご主人様はこの”ダメっぽさ”も含めて可愛いんですよ。
『私が支えてあげなきゃっ』、て保護欲を満たしてくれるのもまた魅力の1つなんですから!」
「あんた達、本当に処置なしよねぇ……」
フェリシアが残念な者を見る目で俺とサキを見てくる。
「グフフフ、ヤってくれたわね……」
そんな馬鹿話をしていると、瓦礫となっている壁から、魔法で吹き飛ばされた筋肉達磨が起き上がってくる。
マジか。あの強度の氷結魔法を不意打ちで横から喰らっておいて立ち上がってくるなんて完全に人間捨ててるな。
「愛は不滅なのっ!決して負けないわんっ!!」
流石にその姿にサキも目を丸くしている。
「ご主人様、なんかあれ凄いです!本当にアレって人間なんですかねぇ?」
「そりゃ俺にも判断つかないわ……」
あまりの非現実さに思考が麻痺しかかっている俺とサキ。
そんな俺たちを尻目にフェリシアは男らしい提案をしてくる?
「ま、あの男を私が倒してしまえばいいのよね?」
まるで某赤い外套の男みたいな男前の科白を吐きつつ、フェリシアはどこから拝借してきたのか長い木の棒を薙刀のように構えて大男と相対した。
目つきをどんどん鋭くさせ、姿勢を落とし、その木の棒を研ぎ澄ましている。
ダンッッ!!
爆発的な踏み込みと一緒に、棒を腰の捻りを加えて一直線に突き出す。
男の股間に向けて。
「あがっっっ!!!」
電光石火の速度で獲物を突いたそれに対して、流石の男もそこは鍛えられなかったのかたまらず悶絶して動けなくなってしまった。
白目を剥き、口から泡まで吹いてくずおれる筋肉男。完勝だった。
あまりの早業に俺とサキはビックリする。こいつ、男に対して容赦なさすぎんだろ。
「さて、さっさと外で待機しているバックアップ班を呼んできましょ。あ、アルベルトは手枷が取れないでしょうからそこで待機ね。あとサキも一応そいつの護衛」
フェリシアはテキパキと指示を出すとさっさと独りだけで部屋から出て行った。
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「色々ありましたけど、とりあえず事件は解決しましたね」
「ああ。……なんか疲れたな」
サキに部屋のカーテンを開けてもらうと窓には丁度夕焼けが映っていた。
窓から差し込む夕焼けの明かりがサキの姿をコントラスト強く横から染めあげる。
夕陽に照らされたサキの横顔は穏やかに微笑んでおり、場所を忘れて一種幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「じゃあ気分転換に、私と続き……しちゃいます?」
未だベッドに繋がれたままの俺の上に、サキがゆっくりと登ってくる。
俺の頬に優しく手を添えて、顔を近づけながら甘く囁く。
「もう2年も焦らされているんですから……いい加減私の方から食べちゃいますよ……?」
サキの長い髪が簾のように俺に覆い被さり、その中を熱い吐息と共に段々と近づいてくるその甘やかな唇にあらがうことができない。
そして俺は、サキの唇とーーーー
「ほんっっっとうに、あんた達はっ!場所を!考え!なさいっ!」
ダンッ!、と強烈に壁を叩く音のせいで、吐息が届く位置まで接近していた2人の顔は急速に離れるのだった。
その後、ガミガミとフェリシアに怒られて正座させられる俺達。
最後まで締まらないなぁと思いつつ、サルヴェリウスさんからの最初の依頼はなんとか無事に完遂されたのだった。
ーーーーー
「……さて、報告を聞こうか」
サルヴェリウスは自身の執務室に情報局の職員を呼び出し、定期報告を受けていた。
「はい。アルベルト殿から預かった彼の剣についての調査結果ですが、調べた所やはり我が帝国で極秘裏に開発された”精霊剣”と瓜二つであることが確認されました」
取り調べの時に、アルベルトの刀をたまたま見た技術局の職員が、以前見たことがある精霊剣に大変酷似していると主張。
そのためサルヴェリウスは怪しまれないよう別の理由を作り上げ、アルベルトが釈放された後も彼の武装を調べ続けた。
その調査の結果、彼の魔剣がこのサル・ロディアス行政府でも最高機密にあたる精霊剣そのものであることが分かったのだった。
因みに精霊剣とは、精霊を特殊な拘束鎖で剣に固定し、その力を所有者に流し込むことで恒常的に所有者の能力を大きく底上げすることができる帝国の持てる技術を注ぎ込んだ最高級の特殊魔導具だった。
最初、精霊剣の実験には、自我を持つ通常の精霊が使われていた。
しかしながら、通常の精霊の力は想定以上に強力で、拘束鎖で束縛し続けることが出来なかった。
その結果、通常の精霊を使っての剣への精霊の固定化は失敗に終わってしまった。
しかし、帝国の技術者は幾多の失敗にもめげず精霊剣の研究を続けた。
その努力の果てに、得られる能力アップは通常の精霊よりも小さいものの、拘束鎖を拒否しない、自我のない人工精霊を作り出すことに成功した。
帝国は最大の技術的な課題であった精霊の固定化問題をクリアすることができ、ようやく精霊剣の実用化に成功したのだった。
「しかしそうするとアルベルト殿は一体どこでこれを手に入れたのでしょうか?
帝国全体でもそのコストの莫大さから数振りしか存在しないはずなのですが……」
最初、この精霊剣に風の精霊をベースとした人工精霊が使われていたことから(精霊剣にはそれぞれ個別にデザインされた人工精霊が使われている)、同じ風精霊をベースとした精霊剣を所持しているサル・ロディアス市のそれを盗んだのではないかと疑われた。
しかし市の研究所に問い合わせてみたところ、そこには現物がキチンと保管されており、一体どういう経緯で彼がこの剣を持つに至ったのか全く分からなかった。
因みにアルベルトは自分の持つ魔剣のことを”ただの強力な風系統の魔剣”としか認識しておらず、まさか自分がダンジョンから盗掘したものこそが、今自分たちが通常の世界に居ない証拠となっているとは露ほども感じていないのだった。
「彼らが何者なのか逆に分からなくなってきたが、まぁ、いい。
ご苦労だった。彼らについて引き続き調査をしてくれ」
「はっ!」
部屋から部下を下がらせた後、サルヴェリウスはアルベルト達に次の仕事を割り振るべく、大量にある部下からの案件の中から次の仕事候補を掘り出すのだった。




