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ブリーフィング

「悪魔に襲撃された……って、よっぽどの事よね、それ」


「俺もそう思うぞ、フェリシア」


「でも凄いですよね! 悪魔なんて伝説の存在だとばかり思ってましたが、本当に実在していたんですねぇ!」


「お前らが日常的に接しているウィンディも、一応は悪魔なんかと並ぶ伝説的な風の精霊王様なんだけどな……」


「お! ワシ、なんか褒められておるな!」


 ヘルメスに襲撃された翌日の昼休み。


 今後のこちら側の出方を決めるため、俺はいつもの屋上に仲間達を緊急で集めたのだった。


 とりあえず、まずは腹ごしらえ、とばかりに各自がめいめいランチを取り始めたわけだが、あまり皆俺の話を真面目に聞く雰囲気じゃないな。


 サキに至っては勝手に恋バナなんて始めているし……って、それ俺の事じゃね?


「はいはい! 皆、俺に注目〜!」


 俺はパンパンと手を叩き、皆の注目を集め、手早く昨日のヘルメスに襲われた件を説明した。


 ……のだが、皆からの反応は、冒頭での会話のように、悪魔という存在に対する物珍しさはあったものの、襲われた俺を心配するような反応はあまり返ってこなかった。


「お前ら、少しは俺の心配をしたらどうだ。俺は悪魔に襲われたんだぞ、悪魔に」


 普通に考えたらいきなり悪魔に襲われるのってよっぽどの大事件だぞ、多分。


「でも一応は撃退したんでしょ? だったら良かったんじゃないの」


 何かいつもよりもつっけんどんに話すフェリシア。


 あれ?


「……あの、フェリシアさん……ひょっとして、ちょっと怒っていたりします?」


 俺が雰囲気を察して恐る恐る聞くと、フェリシアは腕を組んでこちらを睨みつけてきた。


「当たり前でしょ! あんたねぇ……そんなにピンチだったのなら、ちゃんとその時にあたし達を呼びなさいよ! どうして3人だけで勝手に戦っちゃったわけ? そんなに私達が信用できないの!?」


 すごい剣幕でこちらを怒るフェリシア。


 あまりの怒りっぷりに、こちらはちょっと腰が引けてしまう。


「いやいや、フェリシア。そんな事はないが、突然の強襲だったんでお前達を呼ぶ暇が無かったっていうか、なんというか……」


 俺はしどろもどろになってフェリシアに弁解する。


「いい? もし今後同じような事があったらさっさと私達を呼びなさいよ! 折角お揃いの連絡用の携帯魔法道具とかも揃えたんだからね!」


「あ、ああ」


 とりあえず俺は平身低頭でフェリシアに詫びる。


 こういった感情の問題は誠意を見せるしか解決方法はないのだ。


「……まぁ、話を戻すが、今回のヘルメスの強襲を踏まえた今後の俺達の方針なんだが───」


 そこで俺は今後の方策について皆に提言した。


「こちら側から、ヴリエーミアに対して奇襲を仕掛ようと思う」


「はい?」 


─────


 俺は、こちら側からヴリエーミア(魔女)に奇襲を仕掛ける案を皆に提案したのだった。


 一応、今回のヘルメスの動きについて宰相(父親)に手紙を送ったものの、ヘルメスがああも堂々と王国内で活動している事を考えると、恐らく王国側にも上位貴族の支援者がいると見て間違いないだろう。


 それにヘルメスの俺に対する執着ぶりから考えると、例え上から政治的な圧力がかかったとしても奴は恐らく止まるまい。


 正直、悪魔の力を手に入れたヘルメスは危険すぎる。


 現状、奴と戦うメリットはこちら側にはなく、ウィンディの見立てによれば奴が今回の戦闘によるダメージを回復し、悪魔を再び手懐けるためには、あと数週間の時間がかかるとの事だ。


 だったらヘルメスが戻ってくる前に、元凶であるヴリエーミアを叩いてしまおうというのが今回の作戦だった。


 ウィンディとミーアの偵察によれば、幸いにもヴリエーミアの居所は判明しているし、取り巻きについても護衛のクリスティンとフードを被った正体不明の傭兵らしき剣士を除けば、小さな女の子が一人いただけらしい。


 もっともウィンディの感覚では、ヴリエーミアの近くで見知らぬ精霊の気配が色濃く感じられたとの事で、恐らくそいつは時の精霊で間違いないだろう。


「今回の強襲は、俺、ウィンディ、ミーア。そしてサキだけで行うからな」


「御主人様、やった!」


「なんで私を外すのさ!」


「……理由を教えて頂戴」


 クリスやフェリシアが納得できなさそうに聞いてくる。まぁ、先程の話を踏まえれば予想できる反応だ。

 対象的にサキの方はニコニコ笑顔だが。


「簡単に言うと、今回のヴリエーミア達一行の王国内への介入は、間違いなく王国貴族による政治的な思惑も裏でありそうだ。

 だから、貴族の政争に巻きこなれないためにもフェリシアとメアリーは不参加決定だな。

 んで、サキについては王国の規定では俺の奴隷で所有物扱いなので、俺とどちらにしろ一蓮托生の身の上だから参加でいいだろう」

 

「む〜、家のことを引き合いに出されるとちょっと辛いところね」


 フェリシアは仕方なさそうに渋々同意する。


 メアリーは苦笑するだけで特に返事はない。


「はい、このサキ! 御主人様の所有物(・・・)として、誠心誠意頑張らせていただく所存です!」


 サキのテンション高過ぎだろ。


「んで、クリスとリーゼは一般人だからダメだ。

 退学で済めばいい方で、下手すると後ろ盾のないお前らは逮捕されて、一生独房の中だって有りえないわけじゃないからな」


「うわぁ……」


「でもそれって……」


「そう、俺だってかなりヤバい。だけど俺の場合は、事の経緯を事前に宰相(親父)に説明してあるし、上級貴族の嫡男だから、精々が(ちっ)居で済ませられるようにすでに根回ししてある。だからまぁ、大丈夫だろう」


「すでに準備をしていた、と。流石ね、アルベルト」


 フェリシアが俺の準備の良さに感心している。


 本当はそんな根回しなんてしていないわけだが、そう言っておかないと皆が自分もやっぱり参加する〜、と言い出しかねない状況だったので敢えて俺は皆を安心させるために嘘をついたのだった。


 肝心な点は、奇襲でコトを済まし、今後の俺達の安全を図る事だ。


 俺はゲーム通りに王国から追放されるかもしれないが、まぁ、そこらへんは流石に割りきろう。


「事にあたって、皆にも後方支援という形で協力してもらいたい。具体的には───」


 こうして前代未聞、ラスボスに対するこちら側からの奇襲作戦が決定されたのであった。

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