アルベルトくん14歳。カジノ潜入大作戦(2)
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ありがとうございます。
サキとフェリシアがそれぞれのやり方で情報収集をしていた一方。
俺の方も勿論、変装をして情報収集に勤しんでいた。
俺の仕事着は、フェリシアのそれと割合に似かよったデザインをしていた。
ただし俺はイカサマトランプ師ではなく、バーテンダーに扮しての調査活動だ。
開放的でありながら適度に個室感も感じさせる、黒を基調としたバーカウンターの前で、俺はシャカシャカと両手で挟んだシェイカーをリズミカルに振る。
実は前世にてカクテル作りは多少経験があったりするのだ。
なぜなら学生の頃に先輩の紹介でバーにて何回かバイトしたことがあったからだ。
しかしそんな経験が今活かされているのだから、巡り合わせというのも本当に不思議なものである。
「どうぞお客様。マティーニ(もどき)です」
俺は何でもいいのでカクテルが欲しいと注文を出してきた若い女の客に、すっとマティーニ(もどき)を差し出した。
なぜ”もどき”かというと、味が似ているだけでジンやベルモットとは多分違うものだと思うからだ。
でもこの異世界、ゲーム製作者の貧困な想像力の影響なのか結構日本で飲み食いできたものがあったりするんだよね。
おかげでコロッケやビフテキといった洋食なんかも割と充実しててちょっと嬉しかったりするのだが。
「ありがとう。とても美味しいわ」
まぁそれはさておき、気を取り直して俺は情報収集に勤しむべく、目の前のお客さんと相対する。
年の頃は20代中盤から後半といったところか。
金髪を後ろでアップにしていて綺麗なうなじが見えている。
顔はアラビアンナイトとかに出てきそうなエキゾチックな美人で、サキやフェリシアで美人に見慣れていなかったらすぐに骨抜きになりそうだった。
「ねぇ、あなた新人さん?……ふふふ可愛い顔してるわね」
「え、ええ。今日からお世話になることになったんですよ。よろしくお願いしますね」
年上の余裕なのか、微笑みにも色気があり、思わずどぎまぎしてしまう。
だが俺はギルドの美人受付嬢の誘惑すら躱せるオトナの男。
こんな簡単なテクニックで籠絡されたりなんてしない!
「うふふ新人さんは運命って信じる?私、今あなたに会ったばっかりだけど、ぴぴぴって運命感じちゃったのよね、子宮に。……もし今お時間があったら、お姉さんと一緒にベッドの上で運命を感じない?」
(異文化コミュニケーションキタァァァッッ!!!)
だがここでがっついたら自分から『私は童貞です』と宣言しているようなもんである。
それはなんとなく負けているような気もするんでここは鋼の自制心でこの強力な誘惑を敢えてスルーすることにする。
ほら、だって俺には御禁制の物品の情報を集めるって使命があるしさ……
「お、俺バーテンですから仕事投げ出せないんすよ、ごめんなさいね、アハハハハ」
「あら、私カジノの共同オーナーの1人なのよ?じゃあ特別に私との遊びは業務の一環にしてあげちゃうわ。
……ねぇ、私と一緒に火遊び……しちゃう?」
かの諸葛亮も、劉備から3度オネダリされたらホイホイついてっちゃった故事もあることだし、こう重ねて美人にお願いされちゃったら、断る方が無粋というものだよね。うんうん。
しかも彼女はここの関係者で重役!ここぞとばかりにボディランゲージを駆使して親密になることで情報収集に一役買うぞ!、とやわらか理論武装を組んだところで、俺はホイホイと名前も知らない美人の尻に従って、彼女のプライベートスペースへと足を踏み入るのだった。
ーーーーー
彼女の部屋は予想以上に質素だった。
もっとこう薔薇が咲き誇るような華やいだ雰囲気があったり、エキゾチックな意匠を凝らしたタペストリーがあったり……まぁそんな予想をしていたのだが当てが外れた。
「ねぇ、新人さん。実は私ってとても恥ずかしがり屋さんなの。だからちょっとの間だけ目を瞑っていてもらえる?」
「は……はひ」
俺は冷静に答えを返すとぎゅっと目を閉じた。
しゅるっ……しゅるしゅる……カチャ……カチャカチャ……ジーッッガチンッ
(……ん?)
甘い吐息を近くに感じ、優しく手首を握られるとすっと腕を持ち上げられて(ガチンッ)……なんか手に嵌められたぞ?
思わず目を開けて持ち上げられた手首を見てみると、そこには紛う事なき金属製の手錠がはめられていた。
しかも手錠から伸びた太い鎖はがっちりと頑丈そうなベッドに結ばれている。
ひょっとしてこのお姉さんこういった特殊な趣味の持ち主なのかしらんと、思わずマジマジと半裸のお姉さんを見てしまった。
やはりお姉さんは素晴らしいプロポーションの持ち主だった。
褐色に彩られた2つの豊満な膨らみの上には、ツンと尖った綺麗な突起物があり、ゆらゆらと俺をパライソへと誘ってくる。
(初めてはアブノーマルな感じになっちゃいそうだけど、これはこれで良い経験かな!?)
ドキドキと高鳴る心臓の音がうるさい。ああ。俺もついに童貞卒業か……
「ふふふ。やっと準備が整ったわ新人さん。これから楽しい楽しい天国に連れてってあげるわねん」
そう言うとすっくと立ち上がってその固く屹立した下半身を見せつけてきた。
「は?」
俺は思わず目が点になった。屹立した下半身ッ!?……えっ、ど…どういうコト?
「あらイヤだ、はしたない。ごめんなさいね新人さん。私の暴れん棒が我慢できなくって、もうクスリの効果を弱めちゃったみたいなの」
そう言ってくねくね微笑む美人の姿が段々と膨らんでくる。物理的に。
上に横に前後に……綺麗だった乳房はすっかり鍛えあがった逞しい大胸筋に変わり、細くなまめかしかった細腕には立派な上腕二頭筋が盛り上がっていた。
美しいアラブの踊り子のようだった妖艶な顔も見る影もなくなり、そこには○塾に出てきても違和感無さそうな髭面の濃いおっさんの風貌に取って代わられ、気がつけばどこからどう見てもマッチョな男が目の前でポージングをとっていた。
なんとなく美味しい思いはできないと諦めていたがこれは酷い。いくら何でも酷すぎる。
「私、キミがバーテンダーの面接に来た時、別室でその様子を覗いていたの。そして張り詰めたズボンの上からキミの形のいいお尻を想像しちゃった時ぴぴっと来たのね!
ああ、この子は本当に可愛い可愛い私の天使なんだって!
私、キミみたいな可愛い男の子がとってもとーっても大好物なのよぉ~。」
口調は変わっていないのにそれが野太い男の声に変わるだけで、なぜこんなにも俺の心を折りに来るのだろうか。
やばい。何言っているのかさっぱり分からん。
ただ一つ解っていることは、このまま手をこまねいていると、俺はこの化け物に滅茶苦茶にされてしまうという厳然たる事実だ。
「だから私一計を案じてキミに近づいちゃった!今回使ったお薬はかなーり特殊なお薬で人の姿を結構色々と変えられちゃうのよ?
魔法でもバレないしさわってもバレない優れものなのぉ~」
今更の話だが、この薬こそ今回俺達が探していた御禁制の物品だったりする。
ある意味俺達の捜査は終わった。現物確認したし。
だがその一方で俺自身が別の意味で終わってしまいそうである。現在進行形の大ピンチだ。
「クソ、純朴な若者を騙しやがって!さっさとこの手錠を外しやがれ!」
「うふふ、そうねぇ。お姉さんとキモチイイことが終わったら、ちゃんと外してあげるわん」
「それじゃあ遅いだろがっ!」
”怪力”の魔法を掛けて力ずくで手錠を外そうとするが、何の合金で出来ているのか知らないがビクともしない。
それならば、と風の魔法で削ろうとも考えたが、風の魔法は威力が強力過ぎて自分自身も金属と一緒に削られてしまう恐れがあり中々、使用に踏み出せなかった。
絶体絶命。俺は意を決して風の魔法を男に叩きつけた。
「”風刃”!」
ギリギリまで威力を絞ったが、下手をすれば俺が殺人者になって逮捕されてしまうかもしれない。
この時代の法律だと基本的に魔法で人に危害を加えると長い裁判が待っているのだ。
しかし俺の心配は(悪い意味で)杞憂に終わった。
「フンッッ!!」
え?……俺の”風刃”を身体で弾いた……?!
いくら威力を抑えていたとはいえ、まさか大型の動物ですら一撃で昏倒するレベルの魔法を魔法使いでもない一般人が気合いと筋肉だけで抵抗できるとは思わなかった。
「今のはとっても痛かったわん。これは私もうかうかしていられないわね。すぐに熱いベーゼの後に寝技に持ち込まないとネ!」
あまりの事態に茫然自失してしまった俺に対して、浅黒い肉の塊が急速に迫ってくる。
ギュイィィィィンッッ!
男の突き出した分厚い唇が弾丸のような勢いで俺に突き刺さるかと思えた寸前、その肉の凶器に対して横合いから物凄い威力の氷の弾丸がぶち当たる。
肉の塊はたまらず別ベクトルに弾き飛ばされていった。
「狼藉者!そこまでです!」
部屋のドアには両手を竜の顎のようなポーズで凛と構えているサキと、その後ろから嫌そうに部屋をのぞき込んでいるフェリシアの姿があった。




