地下迷宮顛末記
これで地下迷宮編はおしまいデス。
「───あっ! アルくん!」
その後、俺達は研究施設の奥で転移装置をなんとか見つけて、地上に戻ることができた。
すでに地上は真っ暗で、周囲には篝火が焚かれていた。
そして地上ではクリスやサキら俺の仲間たちが、心配そうな顔をして俺達の到着を待ちわびていたのだった。
「もぉ〜、アルくん遅いよ! すっごく心配したんだからねぇ〜! ……って、その腕大丈夫なのッ!?」
クリスが慌てて俺のボロボロの右腕の治療を行う。
黄金の光が優しく俺の右腕を包み、重い傷をゆっくりと癒やしていく。本当にクリスの光の魔法による治療は凄いな。
「……ひとまずはこれでいいけど、暫くは右腕を動かしちゃダメだからね! あと私が定期的に魔法で治療するから覚悟しておくんだよ!」
クリスがぷんぷんと怒りながら俺に説教してくる。
暫くはクリスに頭が上がらなさそうだな。
そうやってクリスとお喋りしていると、すすす…と無言でサキが近づいてきた。
「ご主人様、ご無事で本当に何よりです。
……さて、お話は変わるのですが……お隣にいらっしゃるそちらの銀髪の女性は……一体どなたなのでしょうか?」
口許は笑顔を形作りながら、目は全く笑っていないサキ。
迂闊に答えて誤解されるのも後で面倒だから、これは慎重に答えざるを得ないな。
「心配かけて悪かったな、サキ。姿はちょっと変わっているが、こいつはユリアナだ。
色々あって今はこうなっているが、お前も仲良くしてやってほしい……ほら、ユリアナからもなんか言えよ」
俺は同じような立場の亜人ならば、きっとハーフエルフの良き理解者になってくれるんじゃないかと思い、ユリアナをサキの前に押し出した。
「…………」
「…………」
お互い無表情で見つめ合う二人。あれ、反応が俺の予想とちょっと違うんですけれども。
二人はちらりと俺の方を横目で見たあと、何故か俺から距離を離してコソコソと会話を始めた。
「あなたは確か、いつもアルベルトさんと一緒にいる───」
「サキ、ですわユリアナ様。ご主人様の身も心もトロットロにするのを使命としている、専属奴隷を生業としております。
……ですからユリアナ様、今更あなた様が入るような隙間なんて、ご主人様の近くにはないと思いますよぉ?」
「そうなんですか、サキさん。でもアルベルトさんは『私が誰かさんを好きになる事を全力で応援してくれる』、って私にプロポーズしてくれましたから、無理やり隣に隙間を作ってくださるみたいですよ?」
「それ、あなたの妄想なんじゃないですか?」
「アルベルトさんは私に、このハーフエルフの素顔を世間に晒せ、とおっしゃいました。
この姿になったからには私はもう公爵家の有用な駒ではなくなります。
つまりアルベルトさんは……家を裏切り、全てを投げ打ってでも俺のとこに来いとおっしゃったも同然なわけです。
私はアルベルトさんさえ居れば、他には何も要りませんから……だからこれで良かったと思うんですよね」
「ユリアナ様……あなた本当に地雷女ですわね」
「サキさん……さっさと別の主を見つけたら如何かしら?」
俺は爽やかな笑顔で会話するサキとユリアナを遠目から眺める。
ああ、良かった。仲良さそうに話しているのを見ると、二人は友達になれそうで安心するぜ。
「あんた本当にそう思ってんの?」
俺の後ろからフェリシアがジト目で俺にツッコミをいれる。
いいんだよ。細かい事は気にすんな。
「……ご主人様、ユリアナ様については大体のご事情は把握できました」
とてとてと俺に近づき、報告するサキ。
「ああ、それは良かった。済まないがサキ、あいつも友達が少ないようだから色々と気を使ってくれると助かる」
すると微笑を浮かべながら、無言でサキは頷いた。
「あああああッ! ご無事でしたか、アルベルトさぁぁぁんッ!!」
突然、キンキン声を響かせながら、小さな猪みたいな何かが真っ直ぐこちらに突っ込んできた。
「ゲフゥッ!」
リーゼだった。流石に女の子相手に闘牛士のように避ける事もできず、俺はお腹でリーゼの突進を受け止めざるをえなかった。地味に痛い。
「本当に良かったですぅぅぅ…… はっ! そう言えばユリアナ様はどうなったですか!?」
俺の胸にグリグリと顔を押し付けたあと、ユリアナを思い出すリーゼ。ちょっと薄情じゃない?
「リーゼさん、私は大丈夫ですよ」
「あっ、ユリアナ様! ご無事でなにより………ってあなた誰ですか!?」
ユリアナが横からリーゼに声をかけて、俺をぎゅっとしながらそちらに振り向いたリーゼ。
だがその顔がピシリと固まる。
「え、えーと………あなたが……ユリアナ様……ですか?」
戸惑いを隠せないリーゼ。まぁいきなりふくよか(配慮ある表現)だったユリアナが、ハーフエルフの美少女に変わっていたら誰だって驚くだろうさ。
「そうですよ。……ところで、あの学生さん達はどうなったのでしょうか?」
ああ、そう言えば事の発端は学生達の暴走だったな。あれから色々な事がありすぎて、存在をすっかり忘れていたわ。
「彼らはすでに学園の留置施設の方に運ばれているです。しかしこれで全員戻ってこれたみたいですから、下でサルベージの準備をしている先生達に連絡してくるのですよ。それでは、また!」
ピューッと地下遺跡を駆け下りていくリーゼ。闇魔法の使い手であるリーゼは夜に強いなぁ。
「さて……とりあえずなんとか地上に戻ってこれたな。これから聴取とか色々ありそうだが、とりあえず飯が食いたいわ」
「そうですね。私もお腹が空いてしまいました」
俺が誰にともなくボソリと呟いたら、いつの間にか隣に移動していたユリアナから相槌の声が上がる。
「じゃあ、一足先に学園に戻してもらって飯でも食べるか」
「はい」
穏やかにユリアナと食事をする話をしていると、急に俺の近くにマナが溢れる。
「ちょーっと待つのじゃあッ! ワシもお腹が超減ったのじゃあッ!」
「ご主人! 私も! 私もペコペコなのデースッ!」
飯の話をした途端、今まで隠れていたウィンディとキリングドールが湧いて出てきた。
俺はため息を一つついて、二人の頭をパコンと一つ叩いた。
こうして長かった地下迷宮の冒険が、今終わったのだった。
次回は気楽な短編予定デス。




