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ハーフエルフ

 最初はユリアナ回想です。

 私は自分が大嫌いだった。


 お父様と愛妾であるエルフの母との間に産まれた不義の子が私だ。

 ただただ男に媚びる事にしか使えないような異種族(エルフ)の血が色濃く混ざったこの身体。


 公爵家の娘ではあったが、その出自から他の異母兄妹と同列に扱われた事はなく、愛玩用に下賜(かし)される事が決まっている身の上であった。


 私は自分の産まれを何度呪ったか分からない。

 母は私を産んでしまったが故に愛妾の座を追われ、現在どこにいるのか私は知らない。


 できることならば、普通の人として産まれたかった。しかし私の血筋は変えられない。

 だから私は、私の生まれ持ったものではなく、私自身の頑張りによって得た部分を周りに評価してほしかった。だから必死になって勉強をした。


 エクスバーツ共和国へ身を隠すための長期留学は渡りに船だった。

 フレイン王国よりも進んだ技術を持つエクスバーツの知識を国に持ち帰って、学者になる。


 これが幼き頃に私が夢見た将来の青写真だった。


 しかし現実は非情だ。留学先で待ち受けていたのは、エクスバーツ共和国の理念である平等や博愛ではなく、エルフの血が混じった風貌に対する嫉妬からくる同性からの陰湿な嫌がらせや、男子生徒や教師陣からの破廉恥な誘いばかりだった。


 それら多くのノイズに邪魔されて、気がつけば私の学問を学ぶ時間が大幅に削られてしまっていたのだった。


 日に日に憂鬱な気分となっていたそんなある日、ついに運命の人との出会いが私に訪れた。


「──だったら嫌いな自分の姿を変えてしまいなさいなぁ〜」


 自分を魔女だと名乗った一風変わったその女性の名は、ヴリエーミア。

 私の出自を歯牙にもかけない彼女は、私よりも一回り年上で、何事にも物怖じしない大人の女性という感じだった。


 そして彼女に親近感を覚えた理由は、雪の色をしたその白銀髪。私とお揃いだったのだ。


「お、お姉様と呼んでも良いでしょうか……?」


「ん〜、別にいいわぁよぉ〜」


 彼女はとらえどころの無い微笑みを浮かべて私を魅了する。


 そして親しくなった彼女から”完全幻覚”の魔法道具を譲り受け、私の素顔を誰も知らない学校へと転校した後は、問題なく勉強に集中する事ができ、私は彼女への感謝の念を深め、益々彼女に依存していくのだった。


────


「ご、ごめんなさい………」


 ユリアナが突然頭を下げる。

 自身の正体がハーフエルフだと俺に明らかになった後、彼女が一番初めにとった行動は謝罪だった。


「騙すつもりはなかったんです。父様から……王国内では絶対に誰にも私の正体を明かすなと厳命されていて………」


 それはそうだろう。

 人間世界に滞在しているエルフは、基本的に2つの仕事に就く。

 冒険者か、貴族の愛妾だ。


 冒険者になるエルフは、基本的に人間世界に興味を持った変わり種のエルフであり、ある程度の数はいる。

 こいつらは自由意志で人間世界に来ているため、エルフの集落(コミュニティ)から外れてもあまり気にしていない。


 それに対して貴族の愛妾となるエルフは違う。

 彼女達には自由意志はない。何故ならば基本的にエルフの集落から(さら)われてくるからだ。


 現代社会(前世)なら間違いなく有罪(ギルティ)だが、残念ながらこのファンタジー世界では合法だった。

 だが勿論、真っ当な貴族はそんな風習を良しとはせず、エルフの愛妾なんて持たない。


 だが一部の貴族からはエルフは大人気だった。

 見目麗しく、年齢を重ねてもその美しさは損なわれない。


 更に彼女達を捕縛するのは難しかった。

 エルフには熟練の魔法使いが多い。即ち、彼女達を手籠(てごめ)にするためには多くの魔法道具等が必要になるため、力のある一部の貴族だけがエルフを所有することができる希少性があったのだ。


 そして彼女達は人間とは基本的に混血しない。

 エルフはその不思議な能力で人間の精を弾く事ができるとの事だ。

 俗な言い方をすれば、避妊する必要がなかった。


 しかしそれでも例外的に子供が産まれる事がある。


 それがハーフエルフだった。


 ハーフエルフには顕著な特徴がいくつかあった。

 それら特徴の中で外見的な部分として、親エルフに似た美貌を持ち、親エルフほどではないが顕著に長い耳を持つことが特徴としてあった。


「隠すのは仕方がなかっただろ」


「え?」


 まさか悪役令嬢の正体がハーフエルフだったとは思わなかった。


「お前のその姿は、シュガーコート公爵がエルフを囲っている確たる証拠だからなぁ…… 公爵としては外聞のためにも、せっかくの美貌だが隠すしかなかったんだろ」


「それだけ……ですか?」


 しかしこれでなぜゲームのユリアナが悪役令嬢になったのかその理由の一端が分かった。


 せっかくちやほやされるような美少女なのに、ずっと日陰者のように扱われていたら、そりゃ性格も屈折して世の中に復讐したくなるだろうなぁ。


 俺はいみじくもなぜ悪役令嬢が魔女の側についたのかを理解したのだった。


「あの……私は忌み子とも呼ばれるハーフエルフ、なのですよ?」


「あん? だからなんだ?」


(───しかしこれはチャンスでもある)


 俺はユリアナとの会話を上の空でかわしながら考え続ける。

 ここで悪役令嬢を上手く改心させる事ができたならば、俺の破滅ルート回避もありえるぞ!


「あなたは私の事を、嫌わないのですか?」


「何で俺がお前を嫌う必要があるんだよ?」


 俺はユリアナの斜め上の結論に思わず思考を中断し、ユリアナを凝視してしまった。


 そして俺は思わず絶句してしまう。


 気がつくとユリアナは、(すが)りつくように俺の上着を掴んでいたのだった。


「あなたは……この罪深き私の素顔を見ても、私を嫌わないんでいてくれるのですね……」


 俺はため息を一つつくと、俺はユリアナの銀髪をぐしゃぐしゃとかき乱す。


「わわわわわ! あ、アルベルトさんッ!?」


 俺はそのままの姿勢で、半眼な眼差しでユリアナに説教をする。


「あのなぁ……ハーフエルフなんて冒険者にいくらでもいるわ!

 それに獣人差別もエルフ差別に負けないくらい人間世界では酷いんだぞ! お前の立場には同情する部分があるけど、悲劇のヒロイン気取ってるんじゃねぇよッ!」


 ユリアナが目を白黒させている。


「お前、俺をなめるなよ。俺がハーフエルフだからってお前に態度変えるような男に見えるのか?

 俺から見ればお前なんてちょっと………いやかなりだが………美人なだけの普通の女の子に過ぎないんだよ! 分かったか!」


 それに対してコクコクと頷くユリアナ。


 よし、これでオッケー。


 なんとなく自分を卑下する態度にイラッときたのでユリアナに説教してやった。


「はー、無駄に疲れたな。……そう言えばウィンディとキリングドールはどうした?」


「ワシらはここじゃよ〜!」


 すると少し離れた建物の中からウィンディとキリングドールが出てきた。


「そこにいたのか……って何でお前ら揃って裸なんだよ!」


 そこには上から下まで何も身につけていない2人の少女がいたのだった。


「むふふ。実はそこに研究施設で使われておった古い温泉施設が残っておってのぉ〜。こやつの提案でちょっと入っておったのじゃわい」


 ビショビショのままニコニコと笑っているウィンディ。


 外見的には10代前半くらいに見えるが、中身は完全に6歳児くらいの残念なお子さまだった。


「ささ、ご主人! お風呂に入ってサッパリするのがいいのデス。必要でしたら私がお背中を流すのデース」


 ちょっとでも機嫌をとろうと張り切るキリングドール。

 こっちは天然なウィンディと違って、あざといポーズをキメていた。


 俺がロリコンだったら一発だっただろうが、残念ながら俺はマネキン幼女には興味がない。


 とりあえずため息をつくと、一発デコピンをキリングドールの額に打つ。


「あいたッ!」


「アホなことやってないでさっさと地上に戻るぞ」


 額を抑えながら涙目のキリングドールを無視して俺は荷物を纏める。


「あの……私の”完全幻覚”の魔法道具がまだチャージが終わっていないのですけれど……」


 おずおずとこちらを窺うユリアナ。

 普段の格好ならばかなり堂々とできるみたいだが、今は完全に小動物みたいだな。


「その姿で戻るぞ」


「え? …………えぇぇぇぇッ!!」


 一瞬茫然とした後、絶叫するユリアナ。


「そ、そんなの駄目に決まっているじゃないですかッ! み、みんなには(うと)まれ、お父様からは勘当されてしまいますッ!」


 物凄い剣幕で拒否するユリアナ。その顔には恐怖が浮かんでいる。


 まぁそれもそうか。さっきの話だとエクスバーツでも相当虐められたのかもしれないな。


 だが俺としては彼女を悪役令嬢のポジションから追い落とし、俺の死亡フラグをポッキリ折るという野望があるのだ。


 俺は悪役貴族。謀略も得意とするところだぜ。


「いいか、ユリアナ」


 俺はユリアナと視線を合わせて訴えかける。


ヴェルサリア魔法学園(うちの学校)は、どんな人種、門地でも差別しない」


「そんなの、建前だけです!」


「そうだ。そんなの建前だけだ」


「だけどな───その建前をものともせずに戦っている奴もうちにはいるんだぞ」


 そして俺はふてぶてしく腕を組んでニヤリ笑っているサキを思い浮かべた。


「俺の仲間であるサキは亜人だ。それでも魔法の腕を磨き、学園の皆から一目置かれる存在になっている。クリスもそうだ。彼女はただの平民だが、一生懸命頑張っているんだぞ」


 俺はユリアナに語りかける。


「お前は確かにハーフエルフだ。だけど、公爵の娘なのは間違いない。なぁユリアナ。お前は今みたいに常に周囲に正体がバレるのに怯え、日陰者として生きていくつもりなのか?」


「私だって………」


「ん?」


「私だって本当は素顔でいたいッ!」


 涙を流し、こちらの胸倉を掴みあげながら絶叫するユリアナ。


「もっとみんなと仲良くしたい! もっと世界を見たい! もっと男の子と!………恋をしたい」


 最後の言葉は小さくてよく聞こえなかったが、彼女の本音は聞けた。


「だったら俺が協力する!」


「!」


「お前がやりたい事は、俺が協力してやる! 他の奴がお前の敵になっても、俺だけはお前の仲間だ!

 だから………俺を信じろッ!!」


「ッ………はいッッ!!」


 抱きついてくるユリアナ。俺は動く左腕で抱き返してやる。


「誰も仲良くしてくれなくても……あなたは仲良くしてくれますか?」


「ああ、当然だ」


「私が見たい景色を……あなたも一緒に探してくれますか?」


「ああ、一緒に探そう」


「私が誰かを好きになるのを……あなたは応援してくれますか?」


「勿論だ」


 するとするりと俺から離れ、ユリアナがにっこりと笑う。


「私、決めました………あなたを、信じますッ!」


 その笑顔はとても朗らかで───ただただ美しかった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 相変わらずゲームの役割を最優先しているので、主人公が何を言っても空虚に感じてしまいます。 いつになったらゲーム感覚から解放されるのでしょうか。
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