彼女の素顔
つらつら書いていたら長くなったので分割。
近日中に続きをアップします。
《アルベルトさん。起きてください……》
(………誰だ?)
《早く起きませんと、キス、しちゃいますよぉ?》
(………キス?)
俺は声に誘われるように、意識が段々と覚醒し───
「………ん」
俺は重いまぶたを無理やり動かし、目を開ける。
何故か目が覚めたら、目の前が真っ白だった。
「?」
どうやら顔の前に白い布が被せてあるみたいだった。
俺の身体は地べたに寝かされているようだが、枕は柔らかい。
身体はだるく、右腕は使い物にならなかったが、他の部分は倒れる前にかけておいた回復魔法の効果で大体修復が終わっていた。
「あ………アルベルトさん、起きたのですね!」
頭上からユリアナの安堵の声が聞こえてきた。どうやら俺の身じろぎを感じて、俺が起きたのを理解したようだ。
「……ユリアナ?」
無事、魔法素子妨害装置を破壊してくれたユリアナ。だが、怪我はなかったのだろうか?
心配になった俺は、ユリアナの無事な姿を確認しようと目の前の白い布をどかそうとする。
「あ、取ってはダメです!」
ユリアナは慌てながら何か柔らかいもので俺の頭ごと顔の上に乗っけてある布を抑えこんできた。
「へ」
暖かくて柔らかい何かが俺の顔を押さえつけている。そして今更ながら枕も同じような印象を受けるのだった。
「い、今、私は魔法道具が一時的に機能停止しておりまして、人にお見せできないような顔をしております!
だ、だから、できれば顔を見ないでいただくと有り難いかなぁ、と」
非常に慌てたような感じで言葉を重ねるユリアナ。
「怪我をしているのか!?」
ユリアナが言う、お見せできない顔。つまり、彼女は施設を壊す際、顔に怪我を負ってしまったのか!
「違います、違います! 私は全然平気です!」
回復魔法をかけようと起き上がろうとしたら、更に強い力で押さえこまれた。
そして喋るたびに、俺の顔の上で何か柔らかいものがぷるぷると震える。
そして遅ればせながら俺は気がついてしまった。
頭上からの声。柔らかい枕。覆いかぶさる、何か柔らかいもの。
これって膝枕の状態で、上からユリアナが覆い被さっているんじゃねぇのか?
「のわぁぁぁぁぁッ!」
俺は慌ててその柔らかい牢獄から脱出する。
流石にその格好は恥ずかしすぎるだろうがッ!
「きゃっ!」
「よし、脱出せいこ───え?」
「え?」
俺の脱出した所には────
見知らぬ銀髪の妖精さんが鎮座していらっしゃったのだった。
─────
「え、えーと」
「み、見ないでください…………」
その見知らぬ妖精と見まごうばかりの少女は、慌てて俺から顔を背ける。
ぶかぶかの服を無理やりベルトで固定しているその見知らぬ少女は。
女の子座りをしたまま、前かがみのようなポーズを───要は先程まで俺を膝枕していながら覆いかぶさっていたのだ───とったまま固まっていた。
長い銀髪を簾のように落としながら、少女は俯いている。
サイズが合っていないぶかぶかの服の隙間から、チラチラと白い生肌が覗いており、大変青少年の情操教育に悪い格好だった。
ああ、ダメだ。
馬鹿な事を考えて気を紛らわしていたが、やはりそれを無視する事はできなかった。
以前からユリアナは”完全幻覚”の魔法道具を使って、彼女が自分の姿を偽っていた事には気がついていた。
俺はてっきり大きな怪我か何かを隠すためにそれを使っているものだとばかり思っていたのだが、事態はもっと深刻だった。
なぜ彼女が長い間、社交界にも顔を出さず、今までエクスバーツに留学させられていたのか。
そしてなぜ今回、彼女がこちらに戻ってくる事ができたのか。
答えは簡単だった。
彼女の魔法道具は、エクスバーツ側の誰かが彼女に提供したものなのだろう。
ゲーム展開から予想すると、おそらく”白き魔女”あたりが提供元なのではなかろうか。
そして彼女の今の姿を知ったシュガーコート公爵は、これ幸いにとお披露目兼フレイン王国内での情報操作の一環として、彼女をヴェルサリア魔法学園の学生達の衆目に晒したに違いない。
(俺の親父もタヌキだが、公爵も相当なもんだぞ………)
俺は思わず唸ってしまった。
「あ、アルベルトさん………こ、これは…………」
長い銀髪の簾の影に隠れるように、こちらをちらりと覗ってくるその美しい少女は。
紫水晶のように澄んだ美しい瞳。ほっそりとした手足に対して、激しく自己主張するその胸元。美しい艷やかな銀の長髪。そして何より、耳の長さが普通の人間よりも極端に長かった。
「ユリアナ……君は………ハーフエルフだったのか」
この世界の希少種であるエルフ。そのエルフと人間の混血種こそ。
俺の目の前にいるハーフエルフだったのだ。




