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満身創痍

「しま───」


 った──と言い切れないまま、キリングドールの右腕に隠されていたパイルバンカーによって、俺は避けきれなかった左脚に深い傷を穿(うが)たれてしまう。


 そのあまりの衝撃の大きさに俺は耐えきれず、もんどり打って地面に倒れる。


「ぐぐぐ……」


 脚が死ぬほど痛い。

 だがキリングドールは容赦なく追撃を仕掛けてくる。俺は痛む脚を引き()りながら、紙一重で転がってその攻撃をなんとか避ける。


「くくく、よく今の攻撃を避けたのデース。……しかし、お前、まるで芋虫みたいなのデースね!」


「がはッ!!」


 床を()っていた俺を、今度はボールのように蹴り上げるキリングドール。


 今度は流石に避ける事ができず、まともに蹴りを喰らった俺は、ゴロゴロと無様に地面を転がる。


「はぁはぁ……お前、本当にしぶとかったのデース。けれど、そんな貧弱な状態で私にこれだけの手傷を与えたのは素直に賞賛してやるのデース」


 倒れ込んだ俺の前で不気味にモノアイを光らせながら見下ろすキリングドール。


「……俺はまだ死んでいない。死んでいない限り、俺はお前に何度でも牙を突き立ててやる。戦いは終わるまで、どう転ぶか誰にも分からないもんなんだぜ」


 両腕は折れ、片脚が(えぐ)られ、肋骨(あばら)も何本か逝ってしまった。


 だが俺はまだ死んでいない。生きているのだ。だったら死んでいない限り、俺にはまだまだ戦う手段はある!


「……お前のそのガッツは、素直に賞賛に値するのデース」


 不気味に(たたず)んでいたキリングドールではあったが、身体をスライドさせて中から何かを取り出し、俺に投げつけてくる。


「……?」


 ……これは、黒い首輪……か?


「ここまで頑張ったお前には、特別に選択肢をくれてやるのデース。

 お前、私の奴隷になるのデース。そうすれば命だけは助けてやるのデース」


 キリングドールは目の部分に該当するモノアイを不快に曲げて、笑いのニュアンスを作る。


「その首輪は”服従乃誓約”という魔法道具デース。そいつを着ければ、もうお前は私に逆らうことができなくなりマース。さぁ、命が惜しければさっさとそれを着けやがれなのデース」


 俺は折れて満足に握力がない左手で、地面に落ちているそいつをのろのろと拾う。


 その真っ黒な首輪は、服従の証。まさに犬の首輪だった。


 既に俺は満身創痍。冷静に考えて、魔法なしではキリングドールに逆転する事はもう不可能だろう。


 俺はそいつを握りしめ、おもむろにキリングドールに投げ返す。


「…………それがお前の返事、デスね?」


 淡々としたキリングドールの口調。どうやらコイツも答えを決めたようだ。


木偶(でく)人形風情(ふぜい)が、調子に乗るな。俺の飼い主は俺だ。見縊(みくび)るんじゃねぇッ!」 


 俺は怪我をした左脚の痛みを無視し、無理やりに立ち上がる。


 身体中が悲鳴を上げているが、俺は歯を食いしばってそれに耐え、歯を剥き出しにして強引に笑みを浮かべる。


 キリングドールは両腕を水平に構え、パイルバンカーの射出準備をしている。


「お前、蛮族のくせに中々骨があったのデース。

 ………では、オサラバなのデースッ!」


 ───来る!


 俺は動かない右腕を犠牲にし、身体の重要器官を護ろうとする。


 耐えろ、耐えろ、耐えろ!


 ユリアナが今も一生懸命に魔法素子妨害装置を探しているんだッ!


 今は死ねない。どんなにボロボロになっても彼女を助けるまでは俺は死ねないッ!


 猛烈な速度で突っ込んでくる黒いキリングドール。

 鉄球の如き巨大な金属の大質量が爆音を洞窟内に(とどろ)かせながら近づいてくる様は、恐怖以外の何者でもなかった。


 近づきながら、キリングドールがパイルバンカーの射出準備に入る。


 チャンスは一度。幸いパイルバンカーは直線的な武器だ。

 右腕をパイルバンカーの射線にギリギリ曝し、その衝撃を逆に利用してキリングドールから距離を、取る!


 俺は覚悟を決めるとキリングドールをギリッと見据える。


 バシュゥゥゥンッ!!


 来たッ!


「──なにッ!?」


「残念! そちらはブラフなのデースッ!!」


 しまった!


 キリングドールの右腕に装備されたパイルバンカーは、派手な音だけして結局射出されなかった。


 俺はそのフェイントにまんまと引っかかってしまい、姿勢を崩してしまう。


 そしてそれを予見していたかのように、キリングドールのもう片方の腕が無慈悲に俺の心臓を狙って突き出される。


「クソッ!」


 俺は無駄だと知りつつも咄嗟に魔法で防御術式を編んでしまう。


「これでチェックメイト、なのデースッ!」


(南無三ッ!!)


 ──そしてその瞬間は訪れた。


 ドカァァァァンッッ!!


 ギンッ!!


「「えッ!?」」


 奇しくも俺とキリングドールは同時に驚きの声を漏らす。


 ”障壁”の魔法は、発動された。


 そしてその爆発音は、パイルバンカーの射出音だけではなかったのだ。


 遠くから響いた爆発音。


 そこから導き出される答えは一つ───


「ユリアナ、やってくれたのかッ!」


 ユリアナは魔法素子妨害装置の破壊を、見事やり遂げたのだ。


 俺は流れるような手順で、反応速度上昇や身体能力上昇等の使い慣れた魔法を即座に発動させる。


「ふむ、周囲の魔力が回復した……デスか」


 俺の魔法の気配に反応し、少しだけ不快げに警戒態勢をとるキリングドール。


「言っておくデスが、魔法がちょっと使えたくらいで、お前が死ぬ結果は変わらないデスよ!

 私はお前に敬意を表してこれまで手抜きをしていただけデース。これからは全力で殺してやるのデース!!」


 俺はそんなキリングドールに対して不敵に笑いかける。


「お前のスペックがそんなもんじゃないことも、直接魔法をぶつけても大して効かないなんて事も、こちらは百も承知の上さ。

 だがそれでも……俺はお前に勝てる!」


「……その余裕ぶった態度、本気でムカつきマース! そのドヤ顔、私がさっさと翻してやるのデースッ!!」


 今までとは比べ物にならない程の速度で肉薄するキリングドール。

 武器もどこに隠していたのか、鋼線のワイヤーやら、厳ついメイスやら凶悪そうなものばかり出てきた。


 だが───


「なんで、当たらないのデスかッ!?」


 俺はそれらの攻撃を全て魔法の障壁と体術で凌ぎ切る。

 身体中の怪我は戦闘中に回復する時間がないため、全て魔法で誤魔化しているから、後でどうなるのかちょっと怖いが、今は全て無視だ。


「”烈風”ッ!」


 お返しとばかりに、俺は風の魔法をキリングドールに叩きつける。


 風に吹き飛ばされ距離を離すキリングドール。しかしその装甲には傷一つついていなかった。


「……まぁいいのです。確かにちょっとすばしっこくなったみたいデスが、それでも私に届く攻撃はないデスから、ゆっくりと時間をかけて料理してやるのデース!」


 俺はそのキリングドールの悪態に対して、ニヤリと嗤う。


「そうだな。確かに今のままじゃお前に攻撃する手段が乏しいのは認めてやる。

 ──だから、こちらも本気を出してやるよ」


 俺はそう言うと、天に左腕を掲げる。


「ウィンディ! さっさと来いッ!!」


 俺は回復したウィンディとのパスに、全力の魔力を通す。


 すると即時に変化は表れた。


「呼ばれて飛び出て、美少女精霊登場なのじゃぁぁぁッ!!」


 見慣れたちんちくりんの緑髪の美少女が、俺の目の前に現れたのだ。


 俺の相棒、風の精霊王(の一部)であるウィンディの召喚だ。


「プツリと反応が消えたから、ワシめっちゃ心配していたのじゃよ!? 本当にお前様はワシが目を離すとボロボロになっておるのぉ〜」


「うるせぇ、テメェは本当に察しが悪いな、ウィンディ! 宿主のピンチくらい敏感に感じ取って、さっさと助けにきやがれってんだ!」


「お前様、流石にそれは酷すぎる言い草なのじゃ!」


 急に目の前に現れた存在に、キリングドールが警戒感を強める。


「そいつ、精霊デスか? ………はっ、私の勝ちデスね! そいつのサイズ(・・・)は私と違って色々お子様サイズなのデース!」


 モノアイをグニャリと曲げて、ウィンディの色々なところに指を突きつけるキリングドール。


「なんか分からないんじゃが、そいつからは何か気に入らないオーラが出ておるのじゃあッ!」


 キリングドールからの嘲笑の気配を察し、ケモノのように歯を剥き出しにして威嚇(いかく)するウィンディ。


「さて……そろそろ第2ラウンド───始めるか」


 こうして俺達とキリングドールとの戦闘が再開されたのだった。

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