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転送装置

「あはは……地下深くにこんなところがあったんだねぇ〜」


 クリスが目の前の景色を見て、感嘆の声をあげている。

 ここは地下迷宮の終の場所。地上へと転移ができる場所だった。


 本当にゲーム知識によって、ダンジョン情報を前もって知っていて良かった。こんなところを事前マッピングなしで彷徨(うろつ)いていたら、一体いつ帰れるのか分かったもんじゃなかったぜ。


「さぁ、みんな。さっさとその一本道を渡って、奥の鏡の中へと飛び込んでくれ」


 俺はそう言って、人一人がなんとか渡れそうな幅を持った、細長い石造りの橋を指差した。


 その石橋の下は、断崖絶壁だ。


 因みにゲーム時代、ふざけてわざとその断崖絶壁の穴の中へと堕ちてみた事があったが、びっくりするくらいの大ダメージを負った。


 しかもそこはただの行き止まりで、結局この場所まで戻ってこなければならなかったため、完全な無駄骨であった。


 それ故に一度痛い目にあってからは、穴から落ちないよう、慎重に橋を渡ったものだ。


「か、鏡の中に飛び込むぅ〜ッ!?」


 エドワードが裏返った声で奇声をあげる。


 小心者のエドワードには辛い展開だと思うが、そこはグッと我慢してほしい。


「この細い橋には重量制限がありそうだから、クリスとエドワードが先行し、俺とユリアナは後で渡る事にしよう」


 俺の提案に皆が頷く。


─────


「エドくん。絶対に下を見ちゃ駄目だからね!」


 クリスが先導して、エドワードと一緒にその細い橋を渡る。堂々とした足取りのクリスとへっぴり腰のエドワード。対象的な2人だった。


「だ、大丈夫だお。今、拙者は目を(つむ)っているから」


「それじゃあ大丈夫じゃないでしょ!」


 クリスとエドワードが漫才をしながらも、細道をどんどんと渡っていく。


「よし、渡りきったよアルくん!」


 クリスがこちらを見て手を振ってくる。


「OKだクリス。よし、まずはエドワード。お前がさくっと鏡の中に飛び込んでみてくれ」


 俺はとりあえずエドワードに鏡の中に入るよう指示を出す。


「いやいや、一番槍の大役は拙者には荷が重すぎでござるので、先にクリス氏が飛び込む方がいいだろJK」


 エドワードが古いオタクの言い回しで俺の提案を拒否ってきた。


「いやいや、お前から飛ばないと、お前絶対にヘタれて鏡の中へと飛び込まないだろうが!」


 俺はエドワードの提案を無慈悲に却下した。


 その後暫く、俺とエドワードは言葉の応酬(要は罵詈雑言だ)を重ねるが、お互いの主張の妥協点を見いだすことができなかった。


「ああ、もう面倒くさいなぁ! ほらエドくん、愚痴愚痴言ってないでさっさと飛び込むよ!」


 エドワードのあまりの優柔不断さに業を煮やしたクリスは、エドワードを力づくで引っ張って鏡に飛び込むという強硬手段にでた。


「お、お助けぇぇぇぇッ!!」


「ほらいつまでもガタガタ言ってないで、さっさと覚悟を決めてよね!」


 クリスはそう言うと腕力で無理やりエドワードを引っ張りながら、鏡の中へと飛び込んだ。


 鏡の表面はまるで液体であるかのように、クリスとエドワードの身体をスムーズに飲み込む。


 鏡の表面が軽く波立ち、淡く発光したが、変化はそれだけしかなく、想像よりもずっと地味な光景であった。


「……さて、クリスとエドワードは地上へと行ったか。それでは俺たちも行こうユリアナ」


「ええ、そうね」


 俺はユリアナを先導して一本橋を渡る。


「きゃっ!」


「おっと」


 見た目に似合わず相変わらず可愛らしい悲鳴をあげるユリアナを抱き止める俺。

 横幅等の見た目のサイズがでかい割に、不思議と体重が軽いんだよな、こいつ。これも所持した魔法道具の効果なのだろうか?


「あんたはすぐにバランスを崩すなぁ。着ぐるみじゃねぇんだから、もちっとしっかり歩いてくれよ」


「ご、ごめんなさい。……あなたには本当にかっこ悪いところばかり見られているわね、私」


「そんな事、俺は気にしてねぇよ」


 そういえば最近言葉使いが雑になってきたな。

 まぁ、特にユリアナも気にしてなさそうだし、

別にいいか。


「ねぇ、アルベルトさん。一ついいかしら?」


「ん、なに?」


 暫く無言で歩いていたあと、ぽつりと呟くユリアナ。


「あなた……私がこんな見た目でもあまり気にせず普通に接してくれるのですけれど、それはどうしてなのかしら?」


 はい? 見た目って、こいつの容姿の事か?


 俺は別にこいつがどんな姿をしていようが、俺にとってのこいつは、リーゼ・メアリールートの敵役(かたきやく)で俺の死亡フラグに重大に関わる悪役令嬢。ただそれだけの関係に過ぎない。


 とは言っても悪役令嬢だ、と面と向かってこいつに言っても意味をなさないので、俺は適当に誤魔化して説明する。


「別にあんたがどんな姿をしていようが、あんたはあんただろ、ユリアナ・ディ・シュガーコート。

 なぁ、俺なんかおかしな事を言っているか?」


「……あは……あはははは! ……そうね、本当にそうよね!」


 俺のぶっきらぼうな物言いに、ユリアナは最初キョトンとし、ついで大笑いをした。


 こいつの笑い顔を初めて見たが、存外に可愛く見えるものだな。どうでもいい話だが。


「さて、無駄な話はお終いだ。さっさと橋を渡るぞ」


「ええ。エスコート頼むわよ、私の騎士様」


「へいへい」


 俺達は慎重な足取りで橋を進む。


 今度はユリアナも足を滑らすことなく、ゆっくりとした足取りではあったが、(つつが)無く橋を進むことができた。


 そして対岸まで残り2割の距離といった地点でそれは唐突に起こった。


「ギギギギィィィィッ!」


「!? ロックモンスターかッ!!」


 感知魔法が使えなかったため、奇襲への反応が遅れてしまった!


 俺は急ぎクイックドローにて、腰に準備していた小型のクロスボウをロックモンスターに放つ。


「ギギッ!?」


 その矢は狙い誤たず、ロックモンスターの胴体に命中し、”爆裂”の効果を発揮してロックモンスターを爆砕した。


「「ギギギギィィィィッ!!」」


「! くそ、1体だけじゃなかったのか!」


 俺は咄嗟にユリアナを地面に伏せさせると、短剣と体術でロックモンスター達を迎え撃つ。


 足場は不安定ではあったが、攻撃を弾き飛ばせば勝手に奈落に落ちていく敵を凌ぐ事は、それほど難しい作業ではなかった。


「しかし数が多すぎて埒が明かないな……」


 一体どこから湧いてくるのか、先程まで影も形も見えなかったロックモンスターの大群を見て、俺は辟易してしまう。


 進むも地獄、引くも地獄。万事休すだ。


「アルベルトさん、私を置いて進んでください! あなた一人だけでしたら、この囲みを突破して逃げることは可能なのでしょッ!?」


 ユリアナが悪役令嬢に似つかわぬ自己犠牲精神に富んだ提案を俺にしてくる。


 止めてくれ。あんたをスケープゴートにして死亡フラグ回避を考えている俺のためにも、ゲームの時みたいにずっと嫌われ者の悪役令嬢を演じてくれよな。


「魅力的な提案だが…………もう時間切れ、だな」


「え?」


 俺はこちらへの攻撃を止めて、橋端に陣取っているロックモンスター達を睨みつける。


 ロックモンスターは言うなれば岩の塊───重量物だ。


 それが折り重なるように積み上がったら、どうなるだろうか。


「ぁ……」


 ユリアナが茫然とそれを見つめる。


 俺たちがいる細い橋が…………ロックモンスターの大重量を支えきれず、ガラガラと崩落していく。


「あ、アルベルト!!」


「ユリアナ、しっかり俺に摑まれッ!」


 宙に投げ出された俺は、ユリアナをきつく抱き締めたまま、深い闇が広がる、暗い、奈落の底へと堕ちていくのだった。


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