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アルベルトくん14歳。主席執政官との交渉

「はじめまして異邦の方々よ。サル・ロディアスへようこそ」


 煌びやかな応接間に通された俺達は、部屋の主と思わしき一際豪奢な服を着ている男からもてなしの挨拶を受けた。


「まぁ、そう堅くならないでくれ。俺はこの都市で主席執政官の任を預かっている、サルヴェリウスというものだ。

 君達の服装を見ると、洗練されているがあまり見たことのないデザインをしているね。

 俺はもっと君達のことを知りたいと思うので、これから忌憚のない意見交換をしようではないか」


 そう言ってにこやかに話しかけてきたサルヴェリウスは、近くに待機していた侍女達に命じて料理を運ばせてきた。


 ワゴンいっぱいに乗せられた料理は大変に凝ったものが多く、実家の晩餐会でも滅多に見ないレベルの豪華さに戦慄さえ覚えた。


 因みに俺の両隣にはサキとフェリシアがそれぞれ座っているのだが、サキは「毒見ですから!」と相手に失礼なことをさらっと言いつつ物凄いハイペースで口の中に料理を押し込んでいる。

 あまりに多くの食べ物を詰め込んでしまっているために頬がリスのように膨らんでいてその美貌が台無しだった。


 一方フェリシアは、「これがあの伝説の宮廷料理の逸品”ルセ・マルネ”なのね!再現されたのとちょっと色が違うけど……あっ、カラメルだわ!本物はカラメルを使っていたのね!」と、どこぞの料理番組並に誰に説明しているのかわからないテンションで料理を楽しんでいる。


「………………」


 サルヴェリウスさん、笑顔で固まっているな。私的な晩餐といえども普通それなりのマナーってものがある。


 サキはともかく普段のフェリシアだったら綺麗に猫を被ったと思うのだが、極度の歴史マニア設定を持つフェリシア(こいつ)には、この料理はクリティカル過ぎたのだろう。


 仕方なくサルヴェリウスさんとの会話は俺が受け持つことにした。


「えーっとお初にお目にかかります。俺の名前はアルベルトです。そして左の黒髪の子はサキ、右の赤毛の子はフェリシアです。

 まずはこのような歓談の機会を与えていただいたことに大変感謝いたします」


 まずは丁寧な下位古代語にて社交辞令のジャブだ。これで俺達がただの蛮族ではなく、多少は話の通じる文明人だと理解してくれるだろう。


「そう言って貰えると嬉しいよ。我々は常に隣人との対話を求めている。特に我々の文化をリスペクトしてくれる相手とはね」


 これは『お前達は誰だ』と言うのを物凄くオブラートにくるんだ表現だな。


「……俺達3人はこの帝国に較べればだいぶ辺境の方にある小さな王国から、恐らく何らかの魔法装置の力で跳ばされてきたのだと思います。

 陸路で帰るには余りにも距離があると思われますので、もしサルヴェリウスさんの権限で装置を動かせるのでしたら、俺たちを元の場所に戻していただけませんか?」


 かなり直球なお願いだが、今んとこはあの魔法装置くらいしか俺達がここに跳ばされた原因が思いつかない。


 俺のお願いに対してサルヴェリウスさんは暫し瞑目し答えを返してくる。


「確かにあの装置を使用すれば君達を元の国に戻せるかも知れないね。しかし、あの装置の本来の管理者は風の女神様なんだ。

 だから彼女の了承を取り付けないとあの装置を動かすことは難しい」


 は?風の女神?


「え?何でそこで風の女神が出てくるんです?彼女は神話の時代から一度も人間の召喚に応じたことがないでしょ?」


 これは事実だ。なぜならば敵役()が風属性を持っているのは、設定上、風属性には主人公達の後見役である女神は勿論、その筆頭眷属たる精霊王ですら登場しないからだ。


 ゲームでは様々な試練を乗り越えて最終的には、主人公の光属性に応じた”光の女神”と、各ルート毎にヒロインの魔法属性に該当する女神とが召喚され、ラスボスを人間だけで倒せる状態にまで弱体化してくれるのだ。


 なお風属性の女神はシナリオの都合上すでに敵に破れて封印されてしまっているとのことで、その綻びをついて敵はこの女神が守護する世界に侵入し、その悪しき姿を顕現させるという設定だったはずだ。


 そんな裏設定を考慮するとサルヴェリウスさんの今の話はちょっとおかしい。


「何でもなにも、彼女は数年前の”蛮族大侵入事変”の際、我らの召喚に応じてその撃退に協力してくれたからだよ。

 んー、君達の地方にはまだこの話は伝わってなかったのかな?」


 明らかにサルヴェリウスさんの話と俺の知っている歴史の流れの間には乖離がある。

 俺が知っている歴史ではサル・ロディアス市に女神が降臨したなんて記録は一切なかった。


 先ほどの会話にあった”蛮族大侵略事変”。これって俺達の歴史にあるサル・ロディアス市が放棄されるきっかけとなった事件のことを指しているんじゃないのか?


 そう考えるとここは俺たちの時代の過去ではなく、一種のパラレルワールドの可能性も出てきた。


 やはり一度風の女神に会って直接確認する必要があるな。


「不躾で申し訳ないのですが、俺達女神様にお目通り叶いませんか?彼女と是非会ってみたいんです。お願いします!」


 俺の更なるお願いに対し、サルヴェリウスさんは今度は腕を組んで熟考を始める。


 眉根を寄せてムムムと考え込む。


 俺たちにとって風の女神に会うことはとても重要だ。

 俺たちの知っている歴史と異なる道を歩いているこの世界。

 その特異点はきっと風の女神様だ。


「……そうだね。会わせてあげてもいいよ。でも彼女は少々気難しくてね。申し訳ないがこちらも無償って訳にはいかないんだ。

 そこでどうだろう。こちらが君達にいくつかの仕事を依頼するので、その見返りにこちらが風の女神(彼女)との面会を斡旋するというのは。

 悪い取引ではないだろ?」


 どこか試すような雰囲気を感じながら、サルヴェリウスさんは聞いてくる。


 両隣をちらりとと見る。2人共料理に夢中だ。


 俺は一つ溜め息をついた後、サルヴェリウスさんの取引を了承した。


ーーーーー


「閣下……」


 客人達が建物を出て、こちらで用意した宿泊施設に向かって出発したのを窓から確認していると、そばに控えていた部下が声を掛けてきた。


「何だ?」


「……本当に客人達をあの”狂った”女神に会わせるのでしょうか。今の女神は大変危険です。彼らには事情を話し、会うのを止めさせた方が良いのでは?」


 当然サルヴェリウスも考えた。しかし女神しか扱えないはずの装置の中から彼らは顕れたのだ。

 もし彼らと女神が何かしら関係があるのならば、今の状況を打開できるかもしれない。


「……街の連中には”あのこと”をまだ知られてないな?」


「はっ。できる限りの情報封鎖を行っておりますので今はまだ大丈夫かと。……ただし以前に較べて頻繁に発生しております。知られるのは時間の問題かと」


「女神に引き会わせる前に、”あの方”にも会わせた方が良いな。ただし女神は誰かがあの方に接近することを快く思っていない。他の依頼に紛れて偶然に出会うようタイミングを調整しよう」


 その後、サルヴェリウスは部下に矢継ぎ早に指示を出すと、次の政務に取りかかるのだった。

追伸

 誤字報告感謝です。

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