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転移装置

 洞窟内を探索中、絹を裂くような悲鳴が聞こえ、そちらへと駆け出した俺達。


 幸い、現場は比較的近くであったため、俺達はそんなに時間をかけることなくその場に到着する事ができた。


「クソッ! 外野かッ! 邪魔をするんじゃねぇよッ!」


 洞窟の先では2つのグループが対峙していた。


 血のついた短剣を持った生徒2人が、こちらを睨みながら()える。確か別のクラスの平民出身の学生だったか。


 地面には、貴族階級出身の少年が血を流しながら倒れている。


 少し離れた所では、腰を抜かした下級貴族出身の少女が、ボロボロと涙をこぼしながら頭を抱えて身体を丸めていた。


「あ、アルベルトさん!」


「リーゼ!」


 そんな中、蒼白な顔をしながらも、短剣を持った生徒達と真っ向から対峙していたのは、おかっぱ髪で眼鏡をかけた、俺がよく知る顔見知りの少女だった。


「アルベルト……さん?」


 そのリーゼの背には、蒼い顔で震えているユリアナがいた。


 リーゼルートの敵キャラを背中で庇うリーゼを見て、これが異常な事態だと俺は悟る。


「なんでこんな状況になっているか俺には分からんが、刃傷沙汰は流石に見逃せんな」


 俺は目を(すが)め、目の前の男子生徒2人に注意を払う。


「邪魔をするな、貴族のボンボンがッ! 俺達はエクスバーツから来たコイツを許せねぇんだよ!」


 憎しみに濁った眼差しをユリアナ(樽姫)に向ける生徒2人。


「貴方達、エクスバーツと一体何が……?」


 その憎しみに心当たりがないユリアナは、困惑と怯えが入り混じった声音で、平民の生徒に問い返す。

 だがそれは悪手だ。


「”何が”、だとぉッ!? だったら教えてやる! 俺の友達(ダチ)はなぁッ! 貴様らエクスバーツの卑劣なテロで殺されたんだよぉッ!」


「!?」


 頬を強張らせて、男子生徒の憎しみを浴びるユリアナ。

 夏休み前の出来事を彼女はやはり知らなかったようだ。


「いい加減にしなさい! 彼女はエクスバーツから帰ってきただけのただの生徒ですよ! 貴方達の憤りは筋違いです!」


 男子生徒達の剣幕に怯むことなく、ユリアナを庇うリーゼ。


 リーゼは正論を言っている。

 ユリアナはエクスバーツに長く留学していただけで、俺達と同じフレイン王国の人間だ。


 だが復讐に濁った目をした平民の少年達から見れば、そんな理屈は分からない。

 そもそも海外に留学できるような身分の者は、特権階級だけなのだ。


 彼らにとってはエクスバーツもフレイン王国の貴族も、均しく憎悪の対象なのだった。


「クリス、そこに倒れている奴に回復魔法を! リーゼ、お前はユリアナと一緒に下がれ!」


 俺はそう言うと、男子生徒2人にダッシュで接近する。


「テメェも演劇の騎士の真似事か!? 貴族のボンボンが俺達を舐めるなッ!」


 男子生徒の一人が、俺に短剣を突きつけてくる。

 俺はそれを無造作に躱し、すれ違いざまに頭部へバックブローを当てる。


「グアァァァッ!」


 武器を持っていたって相手は素人みたいなものだ。充分に手加減をして対処した。


「よくもやりやがったなァッ! ……”石弾”ッ!」


 もう一人の男子生徒は、接近戦では敵わないと踏んだのか、魔法戦を仕掛けてきた。


 俺はその高速で接近してくる拳大の石を、魔法で軽く強化した裏拳で弾き飛ばす。


「これ以上罪を重ねるな。大人しく降参しろ」


 俺は相手に対して降伏勧告を行った。

 やっている事は犯罪行為だが、その動機には酌量(しゃくりょう)の余地はある。

 それでも退学は免れないとは思うが。


「なんで努力をしないで女を侍らせてふんぞり返っているだけの貴族のボンボンが、そんなに強ぇんだよ!」


 涙を流して悔しがる平民男子。あれ、俺ってそんな風に周りから思われていたの?


「第一印象だけで相手を侮るからそうなるのです! 貴方達、降伏しなさい!」


 なぜか言葉のナイフで意気消沈している俺ではなくリーゼの方が激昂していた。


 歯噛みして俯く男子生徒。ふぅ、なんとかなったか。


「おーい、アルベルト(うじ)〜、クリス氏〜。やっと追いついたぜい」


 後ろからエドワードが声が聞こえてきた。ようやく追いついたのか。


 気を緩めた俺達はちらりとエドワードの方を向く。


「クソッ、死ね! ”石弾”ッ!」


 男子生徒は懲りずに魔法を撃ってきた。ただし狙いは俺ではなくユリアナの方だった。


「させません! ”影透過”ッ!」


 とっさにリーゼが防御の魔法を放つ。自身とユリアナを影へと同化させ、攻撃を回避する魔法だ。


 彼女達を素通りした石弾は、あえなくユリアナの足元を抉るだけだった。


「このッ!」


 俺は風魔法で衝撃波を作り出し、ピンポイントで魔法を使用した男子生徒の頭部を狙う。


「グガァッ!」


 狙い通り、頭部に強烈な衝撃を受けた男子生徒は、昏倒して地面に倒れ臥した。

 派手に転がったが、まぁ、死にはしないだろ。


「はぁ、なんとか終わったか………って、ん?」


 俺の目を(まばゆ)い光が覆う。


「「きゃあぁぁぁッ!」」


 余りの眩しさにみんな目を細める。


 俺は咄嗟に”遮光”をみんなにかけて、光源の特定を行う。


「あっ!」


 先程ユリアナの足元に打ち込まれた石弾によって、地面が大きく抉れていた。


 そして抉れた地面から大きな光が見えている。


 その光が円形を形作る。そしてその円形の上の土砂がフッと消えた。


「転移……魔術ッ!?」


 間違いない。土砂に隠された下には、古代の転移装置が埋め込まれていたのだ。


「あ…………」


 そしてその光は偶然にもユリアナの足元で光っていた。


「アル──」


 こちらに手を伸ばしながら姿がかき消えるユリアナ。


「「ユリアナさんッ!!」」


 クリスとリーゼが間髪入れず光の輪に飛び込もうとする。


「待て!」「待つのだぜ!」


 俺とエドワードがそれぞれリーゼとクリスを咄嗟に羽交い締めにする。


「は、離してください! ゆ、ユリアナさんが!」


 ジタバタと暴れるリーゼ。


「落ち着け、リーゼ! お前まで突っ込んでどうする!」


 俺はなんとかリーゼを落ち着かせる。


 そしてもう一方のクリスとエドワードの方をちらりと見た。


「あ」


 そこでは猛犬に引きづられた飼い主の如く、クリスに力づくで引っ張られて共に転移装置の中へと消えていくエドワードとクリスの姿があった。


「はぁ……。おい、リーゼ。そこの2人を拘束したあと先生を呼んで来い」


「あ、あなたはどうするのですか?」


 心配そうな眼差しでこちらを見つめるリーゼ。


「決まってんだろ。あの馬鹿たちを連れ帰ってくるんだよ」


「き、危険です! あなたになにかがあったら私は………」


 潤んだ瞳でこちらの裾を掴んでくるリーゼ。


「どこにつながっているのかも分からんし、見過ごす事もできんだろうが」


 俺はリーゼの力ない指を裾からそっと離すと、転移装置の前まで歩を進める。

 光が徐々に薄くなっていく。リミットはもうすぐだ。


「ちゃんと帰ってくるからよ。そんなに心配すんな」


 俺はそうリーゼに言い置くと、転移装置へと身体を投げ出した。


「アルベルトさん! どうか、ご無事で!」


「ああ!」


 そして視界は暗転した。

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