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洗濯機

祝100万PV達成!

皆様ありがとうございます。

「アルくん、大丈夫?」


 ラ・ゼルカの聖騎士であるディミトリの襲撃を辛くも退けた俺は、その後ユリアナ(悪役令嬢)を貴族用女子寮に無事送り届け、なんとかクリスとの約束の時間までに談話室へと滑り込むことができた。


「最近、日中はつきっきりでユリアナの護衛をしていてなぁ。まぁ、そろそろ学園内では過剰な護衛は必要なしと、シュガーコート公爵が判断してくれる手はずになっているんで、ようやくこの雑事から解放されそうだが」


「へぇ〜。それは大変な仕事だったんだねぇ」


 そういうとクリスは、脇に置いてあった水筒から、湯気が立つ飲み物をカップに注ぎ、こちらへと渡してくる。


「私特製のフルーツ・ティーだよ〜。ストレスとかにも良いから試しに飲んでみてよ」


「おお、サンクス」


 俺はクリスからカップを受け取り、ズズズっと飲んでみる。


 フルーツの香りと蜂蜜の甘み、そして仄かに香るスパイシーな香辛料とハーブのアクセント。なるほど、これは確かに心安らぐ。


「これはいいな。とても美味しいよ」


 俺がそうお茶を褒めると、クリスはニコニコと微笑んだ。


「ありがとう。新しいレシピに挑戦したから、アルくんの反応がとっても気になっていたんだよね。お気に召したのなら、私としては大満足だよ」


 クリスのお手製か。こいつはお菓子作りといい、こういった方面での才能が素晴らしいな。


「本当に美味いな。……しかしお茶といい、前のお菓子といい、将来クリスの旦那になるヤツは羨ましい限りだ。

 もっとも、毎日美味しいものを食べすぎて太ってしまうかもしれないけどな!」


「え!? だ、旦那様って事は、け、結婚して!? ……アッ!!」


 俺が冗談めかしてクリスの料理スキルを褒めたら、クリスはボンッと音がするくらいに顔を真っ赤にしながら早口で何か反論してきた。


 そしてそこで終わっていれば良かったのだが、ワタワタした拍子にクリスの腕が横に置いてあった水筒に当たってしまい、水筒が倒れクリスの制服を汚してしまったのだった。


「あちゃあ……やっちゃったなぁ〜」


 クリスがトホホと苦笑している。


「クリス、大丈夫か!?」


「う、うん、大丈夫。……だけど困ったなぁ。実は予備の制服はクリーニングに出しちゃっているんだよねぇ……しかもこの服染みになっちゃいそうだし。

 …………どうしようかなぁ〜」


 クリスが非常に困っているな。

 よし! これは友達として協力しなければならないな!


─────


 グオングオングオングオン……


 クリスを連れて自室に戻った俺は、目の前にある機械をじっと見つめる。


 ちょうど腰くらいまである四角い長方形の箱。これがこの機械を見た人の第一印象だろう。


 俺は上から機械を覗き込む。上面の一部にあるガラス部分から中の動きを観察する。中には水が満載され、その中でクリスの衣服がぐるぐると回っているのだった。


 そうこれは、魔法的な仕組みを使って水流を高速回転させる機械であり、別途開発した専用洗剤を使って服を洗っているのだった。


 ここまで説明すれば分かるとおり、これは世界初の魔導洗濯機だった。


 元は、戦闘で血糊がついた服をバレないようにこっそり洗うために実家から持ってきたのだが、まさかこんな形で使うことになるとは夢にも思わなかったな。


 なお乾燥機はまだ開発中であり、今は俺の風魔法でその代用をしているところだ。


 シャー……ぱちゃぱちゃぱちゃ……


 う、いかん! 意識するな、俺!


 魔導洗濯機の横には俺専用の風呂場があり、現在濡れネズミとなったクリスがそれを使っているのであった。


 そういえば一学期末の時に、クリスの下宿先の風呂場で。また、夏休みの途中では俺の実家の風呂場にて、ばったりとクリスの裸に会ってしまったんだったなぁ。


 まぁ、今回は談話室に隣接している俺の貴族用男子寮(前回のエクスバーツの襲撃で新設されたのだ)にて、クリスの服を洗ってやるのが主目的だからな。


 決して貴族のボンボンが平民の女を部屋に連れ込んだ、などという風評被害を貰わないように慎重に行動しなければな。


 トントントン。


 突然、扉がノックされた。ん? こんな時間に一体誰だ?


「は〜い。どちら様?」


「私です、ご主人様! あなたのダッチワイフことサキ、参上です!」


「ゲッ! さ、サキッ?!」


 俺は開けかけた扉を強引に閉めた。


「ちょ、ご主人様?! なんでドアを閉めるんですか!」


 サキの苦情と共に、物凄い力が扉にかかる。絶対に開けられない。今部屋の中を見られると、間違いなく誤解を招きそうだしな!


「い、今少しだけ立て込んでてな! 明日! また明日来てくれ!」


「ご主人様、一体どうし───

 くんくん……この匂い……雌豚の匂いがしますねぇ……」


 瞬間。ドアを引っ張る力が急増する。


「待て待て待てぇ〜ッ!」


 俺は必死にドアノブを支え、その馬鹿力に対抗する。


「なんで抵抗するんですか。疚しいことが無いなら、さっさと開けてください」

 

 無機質な声音で執拗にドアを開けるよう要求するサキ。その間もグイグイと引っ張られるドア。


「誰もいない! 誰もいないから!」


 俺は必死にドアを掴むがその時、更に間が悪い出来事が起こった。


 ガチャリ。


「ふ〜。アルくんシャワーありがとう! すっごくサッパリしたよぉ〜♪」


 俺の背後で元気よく風呂場から出てきたクリス。


 バスタオルを身体に巻きつけているだけのあられもない格好であった。


 チュイ───ン


 いきなりドアに直径1m程度の円形の穴が開けられた。どうやらサキが水魔法をウォータージェットのように使って開けたらしい。


「あわわわわ……」


 無言でそのくり抜いた穴を通って部屋に入ってくるサキ。長い黒髪が顔を覆っており、非常にホラーな雰囲気だった。


「ご主人様……覚悟はよろしいでしょうか……」


「待て待て待て待てッ!!

 クリスッ!! お前がココにいる理由を! 理由をサキにきちんと説明するんだッ!!」


 俺は必死に言う。クリスは俺がなんでこんなに焦っているのかよく分かっていないようで、首をこてっと横に倒しながら説明を行う。


「え〜と、サキさん、こんばんは。

 ……私がここにいる理由はねぇ、服を汚しちゃったから、アルくんに洗ってもらっていたんだよ」


「ほうほう」


「そして私の身体も、その時汚れちゃったんで、申し訳ないけどシャワーを借りちゃったんだ」


「なるほど」


「あとこの洗濯機って機械、凄いねぇ。後が残りそうなほど服にベッタリついちゃったのに、全部綺麗に落とせるんでしょ?」


「それは凄いですね」


「でも今回の事ですっごく汗かいちゃったから、アルくんのとこでシャワー浴びれて本当によかったよ」


「…………」


「実はちょっと熱かったけど、痛いってほどでもなかったかな。光魔法が使えるから、もしかしたら何かしらの恩恵があったのかもね♪」


 あれ? 正しく説明しているはずなのに、何故か背筋が寒くなってくる。


 って冗談ではなく、サキから凄い冷気が漏れてんじゃねーかッ!!


「で、こちらからも質問ですが、どうして貴方、バスタオル一丁でそこにいるのかしら?」


「え? アルくんが直ぐに要らなくなるから、その格好で少し待っておけって言ってくれたんだ。私もそう思っていたから、私達以心伝心なのかもしれないね!」


 ああ、クリスの笑顔が眩しい。


「さて、ご主人様」


「はい、なんでしょうかサキさん」


「覚悟は……よろしいでしょうか?」


「弁明の機会は、いただけないのでしょうか?」


「とりあえず現状で充分有罪(ギルティ)なので、一度お仕置きを受けてから、言い訳をお願いします」


「…………はい」


 こうして俺は、サキのガス抜きのために、一度水系統の最上位魔法を抵抗なしで受けさせられる事になりました。


 ねぇこれ、本当に俺が悪いのかな? カナ?

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