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プロローグ 悪役令嬢登場

 2学期編開始です。

 割と細かい設定は未設定の部分もあるので、ひょっとすると後で修整するかもしれません。

 コンコンコン。


 部屋のドアが控えめにノックされる音で、私は浅い眠りから目を覚ました。


「お嬢様、あと3時間ほどで本船はフレイン王国のアルトネ港に接岸するとのことです。お仕度をお願いいたします」


「……ええ、分かったわ」


 私は隣室に待機していた家の者から、扉越しに下船の連絡を受けた。


 私は自分の周りに他人を置くのが大キライだった。だから上級貴族の出自であるにもかかわらず、身支度は極力自分一人で行うようにしてきた。


 私は船内という狭隘(きょうあい)な空間であるにもかかわらず、広く瀟洒(しょうしゃ)な作りをしたベッドから起き上がると、姿見に自身の裸身を映す。


「……相変わらず吐気がするほど男に媚びた、忌まわしい身体ね」


 皮肉を込めて、姿見に映った自分自身へと侮蔑の言葉を投げかける。


 私は姿見から目を逸らし、大切なあの方よりいただいたネックレス型の魔法具を、そっと首に掛ける。


 しゃらん……


 幻想の鈴の音が耳に届き、魔法の効果が全身を覆ったことを確認した。


 そしてもう一度姿見を確認し、私は映ったその姿に大きく満足気な笑みを浮かべ、身支度を整え始めたのだった。


─────


「はぁぁ〜。憂鬱だ……」


 学園の2学期が始まってから数日が経過したばかりの、土陽月(9月)のとある日。


 俺は今日何度目か分からないため息を漏らしていた。


 今俺は、仲間達を学園に止め置いたまま、ある人物を迎えるために学園を離れてアルトネ港までわざわざ出張ってきていた。


 その人物は、言うなれば我がサルト家の本家筋にあたる、シュガーコート公爵家に連なる人物だった。


 その人物は長い間、魔導工学面での先進国であるエクスバーツ共和国に留学していたが、親であるシュガーコート公爵の命により、今回学園へと帰参することとなったのである。


 親父殿からも、護衛役としてくれぐれも失礼のないように、との言伝を貰っており、バックレる事もできない。


 ぼーっと死んだ魚のような目をしながら、俺は他の出迎えの人々に混じって船の接岸準備を見守っていた。


 船の接岸用ロープが所定のビットに(けい)索され、タラップが船員達によってテキパキと取り付けられていく。


「お前様。タラップの準備が完了し、客が降りてくるみたいじゃぞ」


 俺はウィンディの言葉に促されて、タラップから降りてくる人々を注視する。


 老若男女、商人に貴族……様々な人が船からわらわらと降りてくる。


「あ、あれは何じゃ…………?」


 そんな時、隣のウィンディが目聡く俺達が迎えるべき人物を捉えていた。


 いや、この言い方は少しおかしいな。

 目聡く無くとも、それ(・・)は周囲の耳目を半ば強引に集めていたのであった。


 それはなぜか。


 簡単な理屈だ。それは大層目立っていたからだ。


 髪の毛は、長いサラサラとした銀髪だった。

 着ているものは、長旅には向いていなさそうな上等な絹で織り込まれた服装だった。


 だがそんなものは誰も気にしていない。


 彼女(・・)が目立っていたのは、もっと別の理由だった。


 巨大な肉の塊。


 これこそが彼女を端的に表す言葉であっただろう。


 人間の理性の象徴たる服飾につつまれているのは、まさに分厚い肉の塊と表現すべきものだった。ゲームでのアルベルトなんて目じゃないレベルの巨大質量だ。


 彼女のスリーサイズを表現するならば、ボンッボンッボンッ!とでも形容するのが相応しいだろうか。


 はちきれんばかりの肉の塊が、地響きでも立てそうな印象を周囲に与えながら、堂々とタラップを降りてくる。


「て、手筈通り、ワシは隠れておるからのぉ!」


 その巨体にビビったウィンディは、彼女がこちらに気づく前に、さっさとその姿を隠していた。

 

 さっさと雲隠れしたウィンディに対して俺はこっそりとため息を一つつき、シュガーコート公爵家の令嬢の前に向けて、トボトボと(あゆみ)を進めるのであった。


─────


 旧約聖書にてモーゼが引き起こした葦の海の奇跡のように、人垣を左右に薙ぎ払いながら彼女は歩を進めている。


(ゲームの場面でも、”樽姫”の初登場シーンは確かこんな感じだったな)


 俺は彼女の前にそっと姿を晒した。


「初めまして、ユリアナ様。俺はサルト家のもので、アルベルトと申します。以後、お見知り置きを。

 シュガーコート公爵様より、父の名代として、ヴェルサリア魔法学園へのエスコート及び学園内におけるあなたの直属の護衛を任された者です。どうぞよろしくお願いいたします」


 俺は慇懃な態度で、サルト家の主筋であるシュガーコート家の令嬢、ユリアナ・ディ・シュガーコートへと挨拶を行った。


「……ふーん。貴方がアルベルトなのね。私は近くに護衛を置くのはあまり好みではないけれど、お父様の指示であるならば、学園生活が落ち着くまでの間は護衛を許可しましょう」


「………………ありがとうございます」


 ガタイに合わない可愛らしい声で返答を返すユリアナ。だが俺はそれどころではなかった。


 あれ? なんで樽姫(ユリアナ)が俺の名前を知っているんだ? それに俺の護衛を許可する? どういう事だ?


 ゲーム時代においては、同じようにデブのアルベルトが慇懃に護衛を買って出た時、ユリアナは「身の程を弁えよ」と言って却下していたのだ。


 それにゲーム時代は最後まで俺の名前を覚えようとはしていなかったのに、今回は出会う前から俺の事を知っているっぽいぞ。


 この違いは少し気になるな。後で探りを入れる必要があるのかもしれない。


「では馬車を準備してありますので、ユリアナ様どうぞそちらへと移動を」


「ええ」


 俺はユリアナを馬車の待機場へと先導しつつ、こっそり嘆息する。


 ああ、ついに運命が周り始めたのだな、と。


 ゲーム時代において、俺がサキとフェリシアを担当する悪役であったように、ユリアナ(彼女)はリーゼとメアリーを担当する悪役であった。


 彼女のあだ名は”樽姫(バレルプリンセス)”。


 そして彼女こそは、学年末に待っている俺の死亡フラグイベントに密接にかかわってくる、悪役令嬢その人だったのである。

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[一言] アトリエシリーズに出てきても違和感の無い渾名!
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