アルベルトくん14歳。サル・ロディアス市?
今回は繋ぎ回の関係でちょっと短めです。
「何、神殿の聖域部に侵入者だと?」
サル・ロディアス市の主席執政官の任を帯びているサルヴェリウス・ローティスは部下からの報告に首を傾げる。
「あそこには厳重なセキュリティが掛けられており、仮に誰かが侵入出来たとしてもどこかで必ずその痕跡が残るはずだ。その痕跡がないというのは解せないな。……ところでその侵入者達はなんと言っている?」
「はぁ、それがまた要領を得ない話でして。
『我々はずっとこの部屋に居た。逆にここがどこなのか説明を請う』とのことで自供する気は全くない模様です」
部下が心底困った感じで返事を返すと、サルヴェリウスはふむ、と考え込んだ。
(確かに外部から来たという証拠がない以上、あそこにいたのは間違いないと仮定しよう。そうするとどこかの似たような施設から転送されてきたのか、はたまた”別の”ところから送られてきたのか)
「ともかく、あそこはあの厄介な女神様によって直々に作られた場所だ。何が起こっても不思議ではない。
……よし、こうしていても埒が明かない。俺が直接彼らに会ってみよう」
「「閣下?!」」
周囲は危険だと反対するが彼は取り合わない。
この果断な対応こそが若くしてこの大都市サル・ロディアス市の主席執政官を務める者の器量というものだ。
─────
「一体全体どういうことなんだよ……」
意識を失っている間に武装解除させられ、縛られて頑丈そうな部屋に閉じ込められてしまった俺達は、とりあえず状況を注視しようと大人しくしていた。
「しかし、ここの人達ってやたらと規則正しいですよね。黙秘権がどうとか弁護官がどうとかよく意味が分かりませんけど」
会う奴会う奴みんな下位古代語を話していたので、てっきりサキはちんぷんかんぷんなんだろうなと思っていたが、どうやら元皇国のやんごとなき立場の一族だった関係で、それなりに幼少時から色々なことを学ばされてきたらしい。
確かに下位古代語が出来るか出来ないかによって魔法の修得の速さに顕著な差が出るので、彼女の速習の一助となっていたのだろう。
「話されている言葉といい、彼らの作法といい間違いないわ。どう考えてもここは古代帝国よ。私たちはきっと過去に飛ばされたんだわ!」
興奮気味に語るフェリシア。さっきまで俺のことを状況そっちのけで下半身野郎と散々罵倒しまくっていたのが嘘のようだ(サキとの関係の誤解は解けた……と思う)。
「まぁ待て。そう言いたい気持ちは分かるが、魔法では過去に跳べないことは学説で証明されている。
だからまだ物理的にどこかに飛ばされた線も十分に考慮しなきゃいけないと俺は思うぞ」
とは言ったものの、今のご時世で下位古代語を標準語に使っているところなんて、隣国の宗教王国くらいしか思いつかないし、ここの連中が着ている大時代的な服装を見ていると、やはりフェリシアの意見が正しいんじゃないかなぁと思ってしまうわけだが。
そうやって俺達は捕まっていることにあまり頓着せずにワイワイ議論を交わしていたところ、大きなノックの後にズカズカと武装した兵隊さん達が部屋に入ってきた。
兵隊さん達は俺らを半円形に取り囲むように整列する。
そしてその兵隊さん達の間をすり抜けるようにして、ちょっとぽっちゃりとした40過ぎのおっさんが、こちらを警戒しつつ、前に進み出てきた。
「えー、君達の嫌疑が晴れたわけではないがー、状況証拠が立件に不十分であるためー、とりあえず君達を釈放する方向で調整するー。
なおー、拘束期間が1日未満であるためー、規程により支払われる賠償額は時間毎の計算で……」
なんの事前説明もない、いきなりの釈放声明だが逆に俺達は困ってしまった。
なぜならばこれからどうすればいいのか指針が全くない。
「あの……釈放はとてもありがたいんですけど、ちょっと俺達も今の状況が飲み込めてなくてどうにかこの場所に詳しい方とお話させて貰えませんかねぇ?」
ダメ元で目の前のぽっちゃりさんに頼んでみたら、「元々そのつもりである」とのありがたい御言葉を戴いた。
もしかしてこのおっさん意外と有能なのか?
「君達にはこれから我が上司に会ってもらい意見交換をしてほしい。
我が上司も君達に大変な興味を持たれているご様子だから君達は嘘偽り無く我が上司の求めに応じて答えるが良いぞ」
なにかとても偉そうな態度だが、素性の知れない俺達相手では仕方がないかと思い直す。
そんな訳でこのぽっちゃりさんの上司と対面する事になった。




