閑話 私のお兄さまは世界一素敵です(1)
閑話です。
最近固い話ばかり書いていたので、たまには脊髄反射で書きたいものを書こうかと思います。行き当たりばったりなので、かなり話が適当なのを最初に謝っておきます。
ごめんなさい。
※今回のお話は、夏休み編開始前時点です。
シャアアアァァァァ───
「ふ〜ん、ふふ〜ん♪」
シャワーに打たれながら思わず鼻唄が漏れてしまった。イケない。いくらなんでも浮かれ過ぎだ、私。
でもそれは仕方がないのだ。なぜなら、今日は3ヶ月ぶりに私の愛しいお兄さまが屋敷に帰ってくる日なのだから。
私はちらりと自分の身体を見下ろす。
細い手足に釣り合った、小ぶりな身体つき。齢13の幼い身体は、まだまだ発展途上なのだ。
(お兄さまを繋ぎ止めるには、まだまだ足りないこの身体だけれども)
私は一生懸命に身体を洗う。絶対に汚れを残すような不様は晒さない。
「……サリュートお嬢さま。そろそろ髪の手入れを始めませんと」
控えていた侍女が声をかけてくる。
おっと、いけない。夢中になって身体を磨いていたため、すっかりタイムスケジュールを忘却してしまっていた。
「ええ。頼むわよ」
侍女は心得たもので、私の長い金髪を魔道具のドライヤーを使って乾かしながら、丁寧に櫛を入れて整えていく。
それと同時に他の侍女達が薄く化粧を私に施す。
お兄さまは、あまり派手な化粧や香水を好まない。だからなるべく自然に見えるように工夫してメイクを施す。
今日はとてもとても大切な日だ。着る服も真剣に吟味したし、アクセ類も完璧。久しぶりにお兄さまと対面するのだから、最高の私を見せないといけないのだ。
そして私の大事なお兄さまを誑す、あの魔女をなんとかお兄さまのもとから引き剥がさないと───
「お、お嬢さま! 坊っちゃまが! 坊っちゃまがお帰りになりましたぞぉ〜!」
古くから我が家に仕えている執事のポチョムキンが、声を嗄らしながら私に連絡してくる。
いよいよだ。
全ての準備が整った私は、玄関ホールに繋がる長い廊下を、心持ち足早に、されど優雅さを保ったまま、闊歩するのだった。
─────
「へ〜。アルくん、妹さんがいたんだぁ〜」
軽い感じでクリスが俺に相槌を打つ。
「ありゃ、前に話してなかったかな?」
俺はちょっと首を捻りながらクリスに相槌を返す。
「どうだろう。あまり覚えがないから聞いたことがなかったと思うんだけどなぁ〜」
クリスも記憶があやふやみたいだ。
そういえば夏休み直前の頃は、ずっと共和国襲撃の後かたづけに忙殺されていて、忙しかったからなぁ。
俺以外の仲間達は。
「大体アルくんって薄情だよねぇ。私達がすっごく忙しいのに全然手伝ってくれないしさぁ!」
クリスがぷんすかと文句を言ってくる。
「仕方がないだろ? お前達の忙しさの半分は、共和国襲撃時の活躍の影響だったんだからさ。
俺はほら、あの時サボっていたみたいな扱いになってて、いつもみたいにお前たちに気楽に声をかけづらかったんだよ」
俺は手をひらひらさせて、言い訳する。
するとなぜかクリスは悔しそうな顔をして呟く。
「でもみんな酷いよね! 本当の一番の功労者はアルくんなのに、誰も信じてくれなくてさ! 私達みんなであんなに抗議したのに本当に非道いよっ!!」
義憤にかられるクリス。周りの連中もその意見に賛同しているみたいだな。
「……いやいやいや。俺としては妥当な落としどころだと思うぞ?
だって考えてみろよ。もし俺一人で共和国を撃退した〜なんて事が周辺国に知られたら、こぞって俺を殺しに来るか、拉致しに来るか、スカウトしに来るか…………。要は今みたいにのんびりできなかったと思うぜ」
おそらく俺の親父殿が裏で暗躍して情報遮断をしたんだろうな。
あとは俺と直接殺り合った、あの戦闘狂だが、去り際の発言からあの後上層部に色々と俺の存在を誤魔化したんだろう。あいつは、いつかきっとまた仕掛けてくる。
「まぁ、確かに派手な事件だったわよね。案外二学期以降、他の国から共和国を退けた謎の魔法使いを探しに、大挙して来るんじゃないかしら?」
冗談めかしてフェリシアが言うが、半分は当たっている。
ゲームでは主人公達の動向を探るために、共和国からとある敵キャラがスパイとして送られてくるのだ。
……そしてそいつはサキ・フェリシアルートの敵キャラである俺と対をなす、リーゼ・メアリールートを担当する悪役キャラであり、俺の死の運命にガッツリ絡んでくる厄介なキャラだったのだ。
まぁ、そいつはおそらく二学期になれば嫌でも会わねばならなくなるので、今から考えても仕方がない。
まずは里帰りについての確認だ。
「クリス。分かっているとは思うが、俺の実家に帰ったら、学費の対価としての労働をお前に要求するからな。それなりに覚悟しておいてくれよ」
俺は少し真面目そうな感じで言う。多分クリスは何も言わないが、結構この事を気にしていたと思うので、逆にこちらから話題を振ってやった。
「う、うん! 私、一生懸命に頑張るよ!」
クリスはすごく気合が入っている感じだ。
「まぁ、何事も経験だ。うちのメイド長に色々と教えてくれるよう事前に頼んでおいたし、困ったら俺に直接言えばいい。
そんなに困る事もないだろうとは思うが、肩の力を抜いてやってくれ」
「大丈夫ですよ、ご主人様! 友達の私が、しっかりとクリスさんの教育をしますので!」
俺が苦笑気味にクリスに伝えると、なぜかサキから元気な発言が飛び出してきた。
「あはは。サキさん、お手柔らかにね〜」
なぜかクリスを睨みつけているサキに、クリスは苦笑して答える。何か二人には分かっている裏の意味があるっぽいが、俺にはさっぱり分からん。
「わぁ〜! 大きなお屋敷が見えてきましたよぉ!」
リーゼが馬車の窓から頭を出して、前方を指差す。
彼女が指差す先を見てみると、確かに巨大な建造物が見えてきた。
白を基調とした石造りの建物で、壮麗さよりも質実な印象を受ける屋敷。
俺の実家だった。




