とーめつときゅーしゅつ
祝・連載100回!
飽き性の私がここまで執筆を続けられたのは、ひとえにいつも読んでくださる読者様のおかげです。
この場を借りて、謝辞を述べさせていただきます。
「イヤだね」
俺はヤマタノオロチの討滅を呼びかける神鳥に対して、否の言葉を放った。
《…………なぜかね?》
神鳥は感情を押し殺した声で、こちらに疑問の声をかけてくる。
「簡単な話さ。俺達の第一の目的は、ヤマタノオロチに取り込まれたオトハを助ける事だからな。
あいつは俺達を監視するためにここまでついてきたんだ。だったらまだあいつと俺達との契約は失効していない。俺達にはあいつを助ける義務があるんだよ」
《……人間の理屈は我には分からんな。たった小娘一人のために、世界を危険に晒すのかね? ヤマタノオロチの討滅を希求せぬ限り、我の助力は得られんのだぞ》
神鳥は出来の悪い生徒を諭すように、淡々と話しかけてくる。
「そんなものが無くたって、俺達はオトハをあの化物から助け出してみせるさ。……それにあいつはサキの従姉妹だしな。助ける理由としてはそれだけでも十分だろうよ」
俺はそう神鳥に嘯いて、ヤマタノオロチを凝視しながら思考を巡らす。
俺の切り札の一つである”完全解呪”の術式を最大威力で直接オトハに当てる事ができさえすれば、恐らくヤマタノオロチとの繋がりを断ち切ることは可能だろう。
だが現状では、オトハがヤマタノオロチの内部に取り込まれてしまっているため、どうにかして彼女を外部に引きずりださない限り、接触するのは困難だ。
更に難しいのが、俺自身は”完全解呪”の使用に全力を出さなければならないため、オトハを外部に露出させる事にまで手が回らないのだ。
つまるところ、俺の仲間たちの協力によって、彼女をヤマタノオロチの中から引きずり出す必要があった。
「サキ、フェリシア。俺がオトハに接触できるよう、ヤマタノオロチの動きを抑えた上で、体内からオトハの身体を露出させてほしいんだが、お前たちだけでやれるか?」
俺の問いかけに2人は難しそうな顔をする。
「ご主人様。ヤマタノオロチの動きを止めるのでしたら、”永久凍柩”よりも長時間動きを拘束する方法について、私に考えがあります。
……しかし現状では、ヤマタノオロチの超回復を止められても、ヤマタノオロチの中からピンポイントで彼女の姿を露出させるのは難しいかと思いますね」
「せめてヤマタノオロチを斬れるような剣でもあれば、私の技量でオトハちゃんだけを露出させられるんだけどねぇ」
うーむ、マズいな。あと一歩が届かない感じだ。
「「GYAOOOOOHHッッ!!!」」
俺達が対策を考えていると、それを邪魔するかのようにヤマタノオロチの八本の首から、一斉にブレスが吐き出された。
「わわわわ……”光旗乃大盾”ッ!!」
間一髪、クリスの光魔法が間に合い、八色のブレスから俺達は護られた。
「す、凄い威力だよ! 魔力をどんどん注がないと防御が間に合わない───」
クリスが焦りながらも、なんとか竜のブレスを凌ぎきる。
「お返しやけど効くんかなぁ……”金剛石弾”ッ!!」
「精神力への打撃を狙ってみます! ”闇精霊召喚”ッ!」
メアリーとリーゼが、物理攻撃と精神攻撃をヤマタノオロチに仕掛けてみた。
しかし多少怯ませたものの、大して効いている風には見えなかった。
「……うーん、イマイチ効いてないっぽいなぁ」
「精神攻撃はほとんど効果がなさそうです〜」
打撃や精神攻撃には耐性があるみたいだな。やはり攻撃にはリヴァイアサンと同様に、切断系や火炎系統が相性が良いみたいだ。
「フェリシア! 俺が斬った切り口に火焔系統の魔法を仕掛けてくれ!」
「分かったわッ!」
俺はヤマタノオロチ目掛けて一直線に駆け出す。
狙いは、オトハの魔力反応が微かにするヤマタノオロチの胴体部分だ。
「「GRUWAAAAAAHッッ!!」」
「ちっ!」
オトハの魔力反応が微かにするヤマタノオロチの胴体を斬ろうとしたが、八つの頭が邪魔をして目標に届かない。
ならばその首の方へ仕掛けてみるか。
「奥義、九鬼烈衝ッ!!」
瞬時に九回の斬撃を放つ奥義を放ち、ヤマタノオロチの三つの首を飛ばす事ができた。
「フェリシアッ!」
「分かってるわ! ”爆焔陣”ッ!!」
三つ首の切り口に、瞬時に地獄の業火並みの炎が炙られ、炭化していく。
…………
「よし、上手くいった! これですぐには回復しないぞ!」
予想が当たった! これを何回か繰り返せば、首による邪魔を無力化できるはず……
「「「あぁッ!?」」」
ザシュッ、ザシュッ、ザシュ!
なんと、残ったヤマタノオロチの首達が、即座に斬られた首を更に斬って、新しい切り口を作り出し、そこから失われた竜の頭が復活するのだった。
「…………クソ。全て同時に斬って、切り口を焔で塞ぐしか手がないのかよ」
口では強がってみたものの、流石にそれは無理筋だな。
「ご主人様…………」
サキも不安そうだ。流石に今回ばかりは無理なのではないかと考えているのが、その口ぶりから伝わってくる。
「なんとかするさ」
そうだ。絶対に諦めるものか。どこかに。どこかに突破する道が必ずあるはずだ!
「「GRUWAAAAAAHッッ!!」」
お返しと言わんばかりに、ヤマタノオロチが八つの首と八つの尻尾を駆使して、打撃やブレスといった多彩な攻撃を仕掛けてくる。
「くっ! まだまだやれますッ!」
気がつけば、尻尾の攻撃を避けきれなかったリーゼが酷い怪我を負っていた。
「リーゼ無理するな! クリス、リーゼにも”回復”の魔法を! フェリシア、一旦下がれ!
……くそ、その尻尾邪魔だなぁッ!!」
息つく隙のない度重なるヤマタノオロチの連続攻撃によって、ジリジリと傷を増やしていく仲間達。
俺は脳をフル回転させて、状況の打開策を考えているのだが、制約が多い現状では、中々これといった妙案が出てこない。
気ばかり焦り、一か八かの強硬手段を考え始めた時、ウィンディが場の空気も弁えずに、のんびりとした口調で口を開いた。
「のぉ、神鳥よ」
世間話をするかのような口ぶりで、ウィンディが神鳥へと語りかける。
《なんであるか。風の精霊王の欠片殿よ》
そのウィンディの問いかけに、訝しそうに答える神鳥。こいつは手出しこそしてこないものの、ずっと俺たちの戦いぶりを熱心に観察していたな。
「いやぁ、お主はそんなに意地を張っておらんで、この者等にさっさと協力すればよいのにのぉ〜、っと思うてな」
《……我は別に意地など張っていない》
淡々と答える神鳥。しかし幾ばくか、不機嫌の気配が感じ取れる口調だった。
「そうかのぉ〜? ワシの見る限り、ただ意地を張っておるだけに見えたんじゃが」
そんな神鳥の態度なんて知らんとばかりに、会話を続けるウィンディ。
流石だ。コイツの空気の読まなさは本当に大したもんだと感じる。
《断じてそのような事実はないッ! 我は、我の使命たるヤマタノオロチの討滅に、あやつ等が協力する気がないために、傍観を続けておるのだ!!》
ウィンディの態度にイラッときた神鳥が声を荒げる。
「じゃが、お主がこだわっておるヤマタノオロチの『とーめつ』と、奴等がこだわっておる人間の子の『きゅーしゅつ』は、別に矛盾せぬと思うんじゃがなぁ〜」
《…………何?》
かくいう俺もウィンディの言葉が気になり、ヤマタノオロチの攻撃を捌きながら、耳を傾ける。
「要するにヤマタノオロチにとってみれば、取り込んでおる人間の子は心臓みたいなもんじゃ。じゃから、あやつ等がそれを抜き取れば、あとは弱体化したヤマタノオロチとなり、余程討滅しやすくなるとワシは思っておるのじゃがのう」
神鳥はしばし沈黙している。
俺ですらオトハのヤマタノオロチに対する役割をよく分かっていない部分があるにもかかわらず、ウィンディは自信満々だった。
「どうじゃ、神鳥よ。お主の使命はそんなにも融通がきかない代物なのかのぉ」
沈黙を続けていた神鳥が、ゆっくりと声を出す。
《…………風の精霊王殿の意見に、一定の合理性がある事を認める。…………人間の戦士よ》
「…………なんだい」
俺はヤマタノオロチの攻撃を剣で受け流しながら、神鳥に返事をする。
《さきほどのお主の作戦であるが、我の助力があれば、概ね達成できると推測する。作戦の修正点についてだが───》
神鳥の提案は、まさに最後のピースに相応しい内容だった。
「神鳥。あんたの力、借り受けるぜ。クリス、メアリー、リーゼ。俺達の準備が整うまで、ヤマタノオロチの拘束は任せた」
「あはは、アルくん。任せて!」「お姉さんに任せるといいよぉ〜」「はい! 全力で頑張ります!」
元気よく返事をする3人。
「フェリシア。オフェンスはお前に任せた」
「手段があるのならば、絶対にやってみせるわ」
不敵に笑いかけてくるフェリシア。頼もしいぜ。
「サキ。本当にヤマタノオロチの動きを封じられるんだな」
「必ずや」
サキの真っ直ぐな視線に、無言で頷く。
《我の見たところ、すでに中に取り込まれている人間の子は相当弱ってしまっている状態だ。助け出すチャンスは恐らくあと一度だけ》
「一度でもチャンスがあれば十分さ。
───では始めよう」
「「「応ッッ!!!!!」」」
こうしてオトハを助け出すための最後の戦いが、切って落とされたのだった。




