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アルベルトくん14歳。サル・ロディアス遺跡(4)

「えーと、この道を左ね」


 水流に飲み込まれた関係で本来は迷子の身だったのだが、シアが持っていた魔法道具によって、俺たちは順調に目的地へ向けて歩を進めていた。


 シアの手にはA4サイズ位の黒色の薄い板が握られている。


 この薄い板にはピカピカとこの遺跡の地図が表示されているみたいなのだが、使い方といい画面の表示といい、見た感じまんま林檎の例の板(アイ○ッド)みたいだった。


「あなた達、私とそう歳も変わらないみたいなのに銀等級の冒険者をしているのね。その歳で独り立ちしているなんて素直に称賛するわ」


 横からシアが俺達に称賛の言葉を掛けてきた。


「私って昔からお転婆で、結構魔法や剣を勉強してきたんだけど、家の都合で中々外に出して貰えなかったのよね。

 でも今回の行事はどうしてもうちの身内の誰かが直接現地まで行く必要があったから、適格者の1人である私が急遽派遣されることになったのよ」


 サルト家(うち)は良くも悪くも放任主義であったため、あまり家からの出入りには五月蠅く言われていない。

 普通の名家ならばやはり箱入りになるんだろうな。


「でもサキは大丈夫なの?

 いくら腕が良いからって若い男女2人きりのパーティーって危なくない?

 もしよかったら私が腕のいい女性の冒険者を紹介しましょうか?」


 心から心配そうに尋ねるシアに対して、サキはふん、と鼻を鳴らす。


「お気になさらずに。すでに私とアルは人生のパートナーとして深い男女の関係を持っておりますから、そのような杞憂は今更な話ですので」


(こいつ盛った!大きく盛ったゾッ!!)


 いきなりの爆弾発言にシアの顔は真っ赤になる。

 俺は咄嗟に誤解を解こうとしたが、いきなりサキに抱きつかれて両手で口を塞がれてしまう。


 その様子が端から見るとただのバカップルのいちゃつきに見えたのだろう。こういったことに(うぶ)そうなシアは大変ショックを受けている感じだった。


 今更誤解を説明するのも面倒いし、別に男女の仲と思われても大して実害無さそうなことから、とりあえずこの問題は放置することに決めた。


「うーん、地図上だとそろそろ目的地っぽいんだけど……あ、あそこの部屋じゃないかしら?」


 途中幾つかのトラブルはあったものの、比較的順調に俺達は目的の部屋まで到着できた。


「えっと……ここの光っているボタンを押した後、こうやってなぞって……うん、よし……そして次に……えっと……」


 シアは手元の手帳を覗き見ながら、たどたどしい手つきで扉のところにある操作パネルを一生懸命に操作している。


 この扉の奧にはどうやら結構な重要設備があるらしく、他の部屋と比較して物凄く頑丈そうな造りだった。


「……ご主人様、ちょっとワクワクしますね」


 俺の隣に立つサキが小声で俺に囁く。ちょっとこそばゆい。


「……最後にこのボタンを押して……よしっ!」


 ガコンッ!ゴゴゴゴゴ……


 扉の中で複雑な音を立てながら、ゆっくりと扉が開かれる。


 プシューッ


 そして横滑りの扉が全て開いた後、中を覗いてみると……想像していたような金銀財宝の宝物庫ではなく何かの祭壇のようだった。


「……えーっとここが目的地なんですか?」


「そうよ!……ふむふむ。配置からすると……私はここに立てばいいのね」


 サキの質問に話半分に回答しながら、シアは何やらぶつぶつ呟きつつ立ち位置を調整している。


「用事はすぐ済むからあんた達ちょっと端っこに寄っといて。絶対に変なとこさわっちゃだめよ」


「子供じゃねぇんだ。そんなことしねぇよ」


 頼むわよ、と一言声を掛けた後、シアはお祈りするように両手を組み、目を閉じると心持ち頭を下げた。


「(父祖が讃えし古き神よ。神子(みこ)の代理たるローティス家が1女フェリシアが願い奉る。

 どうか我が願いに応じ、いと高きそのお力の片鱗を我に示したまへ!)」


 おお、下位古代語だ。久しぶりに聞いたな。

 因みに下位古代語とは、遠き過去に栄えた古代帝国において日常語として使われていた言語だ。

 現代だと大して使われる機会はないが、とりあえずこれが話せないと教養がないヤツと見做されるので上流階級では必須の言語だったりする。


 しかしローティス家、そしてフェリシアだと?

 物凄くイヤな事を聞いてしまったぞ。


 ……


 ………………


「……何も起こらねぇな」


「……何も起こりませんね」


「だって起こった事がないもの」


 俺やサキがぽつりと呟くと、シアは肩を竦めながら答えを返した。


「我が家の初代からの家訓で10年に1度はここに来ないとダメみたい。この儀式があるからうちで管理してたんだけど色々あってね……

 ここは結構危ない所だから本当はこんな儀式止めちゃった方がいいと思うんだけど、長く続くと中々……ね?」


 そういうとシアはアンニュイな表情で溜め息を吐いた。


 しかし眼鏡のせいで全然気づかなかったが、確かにこいつは俺をバッドエンドへと誘う破滅の女その2こと、フェリシアだ。


 最後に会ったのは確か5年くらい前か。あの小憎らしい女がこうも綺麗に化けるもんかねぇ。


「ちょっとあんた、何ジロジロ見てるのよ?殺すわよ」


「い、いやちょっと昔に較べて成長したなって思っただけだよ。ナチュラルに脅すんじゃねぇよ」


 いきなりのナチュラルな脅しの言葉にびびってしまい、咄嗟に普通に答えてしまったがまずったな。他人のフリ作戦が早くも頓挫してしまった。


「ん?私どこかであなたに会ったことあったっけ?」


 眼鏡を外し(グラスの歪みがない。伊達だったんだな)、逆にマジマジとこちらを凝視してきたシアの視線を遮ろうと、思わずサキの後ろに回る。


「あ」


 その際に何をしくじったのか、サキが濡れた帽子の替わりに被っていたスカーフが取れてしまい、その獣耳が露わになってしまった。


「……私と過去に会ったことがあって、亜人を連れていて……そしてアル?

 ……あ、あんたアルベルト!アルベルトでしょ!?

 ちょっと何であんたがこんなとこにいるのよ?!キリキリ答えなさいよっ!!」


 俺の襟首を掴んでガクガク揺すってくるこいつになんと説明しようかと悩んでいると、急に部屋の中が眩しい明かりに満ちた。


「「「えっ?!」」」


 見事に3人の反応がハモって、一瞬の浮遊感を感じた後、俺達は全員意識を失った。

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