第36話 更なる贈り物と次の
「ロータススライム……新種かぁ……」
リディリは、目の前で起きた事象に困惑していた。いきなり天樹姫が種を埋め込んだと思ったら、いきなり光りだしていきなり花が咲いて。それで鑑定してみれば、少なくもリディリが生きていて知り得なかったロータススライムだと言うではないか。しかも、鑑定結果の種族の欄にロータススライム:新種と書かれていたし。
滅多にお目に掛かれないはずの新種の誕生を目にしたリディリはもはや色々諦めた。これが天樹姫のなせる業なのだろうと。彼女はモヤモヤする気持ちを消し飛ばさんと激辛煎餅を喰らった。でまた脳が痺れた。
「ほら、皆さん新しい家族ですよ。仲良くしてくださいね」
「バウ!」「キャン!」
「はいでしゅ!」
さて、そのロータススライムなのだが、今現在アコとウスケとリフィアから歓迎のツンツンを浴びていた。ちなみに狛犬二匹は、鼻の頭でツンツンしていた。ロータススライムは嫌がることもなく、歓迎されたことを喜ぶようにプルプルと震えている。
この世界のスライムは個体によって自我がまちまちだ。上位種にもなればしっかりとした自我を持つものが多いが、ただのスライムともなれば目の前の物を食べる。なんか危ない物から逃げる位の単純な思考くらいしかできないものがほとんどだ。実際、ロータススライムとなったこのスライムも、進化するまではその程度のスライムだった。が、天樹姫から種を埋め込まれた瞬間、自我が芽生えた。そして同時に理解した。自分に進化をもたらしてくれたこの存在が神なのだと。神ではなく天女なのだが。
「始めて見るスライムですねぇ。これもアマギキさんのお力なんですか?」
「私、種埋めただけなんですけどね?」
ほのぼのと微笑みながら話す2人にリディリは口に出さずに毒づく。「ンな訳ないだろう」と。
ロータススライムが日出天稲神社のメンバーに馴染んだところで、決めなければならないことがある。そう、名前だ。
それを察したアコとウスケ、リフィアはそれぞれ何かいい名前がないものか思考を巡らせる。先輩として新入りに送る最初のプレゼントを――
「あなたの名前はレンゲです」
ロータススライムもといレンゲを掬い上げる様に持ち上げた天樹姫の鶴の一声。今回も第一回スライム命名大会(仮)が開催されると思っていた面々は口をあんぐりと開け、ガクッと項垂れた。勿論、魔族2人は知らないのでアコ達の奇行に首を傾げるしかなかった。
なお、名付けられたレンゲはその名前に満足しているようでプルプルではなくブルブル震えていた。
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「わぁ!マグロっぽい魚に鯛っぽい魚!見たこともない魚もいますね!」
レンゲの進化で当初の目的の1つをすっかりド忘れしていたリディリは、ハッと思い出し魔法であるマジックボックスから、天樹姫に対するお礼の1つである多種多様な魚の入った巨大な木箱を取り出した。
天樹姫もお願いしていたことを思いだし、早速蓋を開け中を確認していた。地球に存在していた魚に近い魚も入っていたが、煌びやかな色や毒々しい色をした魚も入っていた。当然だが、お礼の品であるのに毒魚なんてものはない。――まぁ、天樹姫にかかれば毒の除去はお手の物だが。フグを捌くのも可能だ。
「気に入っていただけたようで何よりです」
「それはもう。お肉もいいですが、魚もいいものです。それにこれだけ新鮮であれば刺身も……」
いいだろう、そう言いかけたところで天樹姫は思い出したかのように手で口を抑える。日本の天女である天樹姫は忘れていたが、生食と言うものは基本忌避されやすい。生食文化が無ければ到底受け入れられるものではないだろう。少しやってしまった感を感じながらチラリと魔族2人の様子を確認してみると……
「あぁ、生で食べるならこの私はグリインテイルが中々美味しいと思う」
「リディリはグリインテイル好きですよね。私の御勧めはサンマーマです!塩焼きも美味しいんですけど、新鮮なものはお刺身も美味しいんです!」
どうやら魔国にも生食文化はあるようだ。問題なかったようで天樹姫はそっと安心するように息を吐いた。そしてそれならばと天樹姫は、大量の魚が入った木箱を軽々と持ち上げる。
「では、早速海鮮丼を作りましょうか。お2人も食べますか?」
「「是非」」
嬉しそうに揃って誘いを受ける2人に天樹姫もまた、嬉しそうに破顔する。じゃあ早速、台所に向かって調理すべく脚を進めようとしたところで、天樹姫の足が止まる。
神社の敷地に何者かが足を踏み入れた感覚があったからだ。3人分ほど。すぐに千里眼を用い確認したが……今までにない参拝客だった。
「アマギキさん?」
「お2人とも、聞きたいことがあるんですけど……エルフって魔国的にどうなんです?」