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第22話 〇〇様来訪

 一行は、眼前に現れた今まで見たことのない部類の建造物に目を奪われた。ただ1人、グライアだけは初見ではないので1人、前に進みインターホン代わりに縄を振るい、鈴を鳴らした。

 突然のグライアの奇行と地味に大きい鈴の音に全員がぎょっとする。


「お、おぉうビックリした。グライア、いきなり何をするんだ。」

「む、すまない。前回はこれを回したらアマギキ殿が出てきたのだ。」

「隊長、せめて一声……心臓が飛び出るかと思いました。」


 一番驚いたのはマハータのようで、武器である大斧を抱きしめプルプルと震えている。配慮が足りなかったと気づいたグライアは、護衛が一番ビビッてどうするんだと思いながらもすまんすまんと軽く謝った。


「――で、グライア。そのアマギキという女性はいつ――」

「はい、呼ばれて飛び出ました。」


 細身の男が訪ねようとしたその時、少しの音もたてず、拝殿の引き戸が開かれ、ニコニコ笑顔の天樹姫が待ってましたとばかりに現れた。

 その瞬間、一番先に動いたのはマハータだった。彼女は、天樹姫を黙視すると同時に慌てふためいた表情を落とし素早い動きで一行と天樹姫の間に入り込み彼女に向けて大斧を――


「やめろ馬鹿!」

「あだぁっ!?」


 構える前に止められた。怒号と共に振り下ろされたグライアの拳骨によって。

 兜を被ったはずなのに、痛みも衝撃も、軽減されずマハータは頭を抑え地面に転がり悶絶した。


「隊長!一体何をぉ!」

「こっちの台詞だ馬鹿!この方がアマギキ殿だ!礼をする相手に武器向けるやつがあるか!」

「だってだって!気配が微塵も感じなかったんですもん!そんな人が現れたら何かヤバいって思うじゃないですか!魔王様守らなきゃって思ったんですもん!」

「あ、お前馬鹿!」

「え?」


 マハータは、自分の言葉の後での、焦るようなグライアの叱責にキョトンとし、自分の言葉を頭の中で反芻し……犯したミスに気付いた。

 確かに彼女はこう言った。魔王様と。

 今回の訪問は、内密のものだ。決してバレてはいけないのだが……バラしてしまった。

 一行の間に緊張が走る。気になるのは天樹姫の反応だ。驚くか、恐れるか敵意を示すか。注目された天樹姫の反応は――


「あら、別に何となくわかってましたよ?あなた様が魔王様ですよね?」


 何でもないように天樹姫は先ほどと変わらぬ微笑みを浮かべ指し示すように手を差し出す。その相手は、一番目立たない細身の男だった。


「うまく力を隠されてますねー?ですが私の目は誤魔化せませんよ?」


 頬に手を当てうふふと笑う天樹姫。魔王様と称された男は、その言葉を受け堰を切ったように大きく笑った。それが答えだといわんばかりに。

 

「ハハッ!いやぁ、まさかバレていたなんて!こんなことは初めてだよ!」

「お兄様?」

「いいんだよ、アリス。アマギキさんは確信を持って言っているよ。あー可笑しい。」


 ひとしきり大笑いした魔王は、天樹姫の前へと進み、握手を誘うように手を差し伸べた。ちなみにグライアの拳骨によって地面に伏せられたマハータは、グライアにすでに回収されている。

 その意図を理解したのか、天樹姫は迷うことなく、差し伸べられた手に自身の手を重ね握った。


「我が名はジークルト。お察しの通り魔王を務めているよ。」

「私の名前は天樹姫です。そうですねー……この神社の管理者ですかね?」

「なるほど、この建物は神社というのか。色々と気になるけど……まずは礼を言わせてほしい。貴女の分け与えてくれた魔癒草のおかげで俺は命を救われた。」

「礼ならグライアさんに言うべきでは?私は余った香草をあげたに過ぎません。」


 ちなみにこれは謙遜ではなく、天樹姫からしたら増えた香草を分けてあげただけなのだから。この件について彼女が思うところがあるとするなら、あげた香草が魔癒草で間違いなくてよかったなーくらいである。


「もちろん、魔癒草を調達したグライアや、薬を作ったリディリには言葉だけでなく物で礼をしたよ。」

「クク、グライアは最初渋っていたがね。」

「笑うなリディリ。俺は魔王様が回復しただけで十分なのだが……ここで報奨を受け取らねば魔王様の顔に泥を塗ってしまうからな。」

「それは良いことですね。――で、私のほうにも礼をと?ふふ、魔王という重大な立場であるのに、随分フットワークが軽いですね?」

「ハハハッ!魔癒草という貴重な薬草をもたらせてくれた貴女に何もしないとなってはそれこそ魔王としての名前に傷がつくよ。」


 何度も言うが、天樹姫にとって魔癒草は香草でありすぐに生えてくるしそんな貴重なものでもない。が、魔王ジークルトの言もまた真実であり、魔癒草はこの世界の霊薬の一つであるエリクサーの材料の一つとしても挙げられている。それ故市場に出れば金貨何枚でも下らない――下手したら市場にすら出ず王家に献上されるまである薬草だ。それを大量に渡した天樹姫の重要性もとんでもないということだ。


「ふぅん、そうなんですか。……ところで、私があげた件についてはどうなってるんですか?」

「安心してほしい。魔癒草そのものはグライアが奇跡的に採取に成功したということにしているよ。こんな森に住んでいるんだ。注目されるのは嫌かなと思って。」


 別に隠遁のために森に神社を構えているわけではないのだが……だからと言って大々的に宣伝してほしいという訳でもないので、とりあえず天樹姫はジークルトの配慮に礼を述べておいた。


「でまぁ……アマギキさんにも何かお礼をしたいんだけれど……領地とか地位は」

「いらないですねぇ」

「だね、分かってたよ。お金は?」

「間に合ってます。」

「じゃ、希望を言ってほしい。余程のものじゃなければ用意しようじゃないか。」

「あ、じゃあスライムを。」

「え?」

「スライムが欲しいですねぇ。」

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