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第20話 お腹が空いたあなたに

『魔癒草とは、それはもう意固地な薬草でね。個体それぞれに土の好みというものがあって、種が地面に植え付けられたとしても好みでなかったら即枯れ、そしてどれも好みが合致した記録が存在しない。……私も偶然1本採取できたがそれきりだ。その1本もこの治療のために消えるのだが。まぁあの方の命と比べれば安いものだ。いや、本当に惜しいが。』


 グライアは、出立する前に聞いた厳重に保管された魔癒草を前に大きくため息をつく同僚の話を思い出す。その話が真実であれば、目の前の群生している草は魔癒草ではないはず。しかし、実際に彼は魔癒草を目にし、持っていた絵にも目の前の植物の特徴と合致する。

 違うかもしれない。だが、本物かも知れない。葛藤に苛まれたグライアは、一つの決断を下した。


「ア、アマギキ殿。この魔癒草を少し……一本だけでも分けていただくことはできないだろうか!申し訳ないが、今俺は我が身と服以外持っていない。だが何時か――」

「いいですよ?そんな1本なんて言わないでこの半分持ってっていいんですよ?」

「何時か返礼を必ずってええええええ!?半分!?半分て、50程あるぞ!?25本も!?」

「定期的に抜かないとすぐ生えちゃうんですよね。ほら、ここ森の中でしょう?渡す相手いないんですよねー滅多にここ出ませんし。」


 あははーと笑いながら魔癒草を抜く天樹姫。その手つきはもはや薬草や香草を抜くそれではない。もう雑草を抜いているのではないかと勘違いしてもおかしくないくらい乱雑に引き抜いている。豊穣の神に仕える天女とは一体。

 腕一杯に抱えた魔癒草を渡されたグライアは、それはもう困惑した。無理もないが、これが天樹姫なので諦めてほしい。

 そしてそこで緊張からの力が緩まったのか、グライアの腹から大きな音……腹の虫が放たれた。


「おや、腹ペコで?」

「……恥ずかしい話2日何も口にしていない。」

「それはお辛い。主のために空腹を抑えながら薬草探しに奔走した貴方にご褒美としてこのおにぎりを進呈しましょう。あ、あと水も。」


 天樹姫が袖から取り出したるは、笹の葉に包まれた3つのおにぎりと竹の水筒だ。このチョイスに意味はない。強いて言うなら天樹姫の気分だ。気分によってはキャラ弁もありえただろうが、天樹姫の気分は古風な弁当だった。

 初めて見る弁当を手渡されたグライアは、一瞬逡巡したが、暖かなおにぎりから香る匂いに負け、一つ手に取り、大きく口を開け齧り付いた。


「っ!これはっ!」


 美味い。ただそれだけの言葉がグライアの口から頭、そして手足まで駆け巡った。噛めば噛むほど滲み出る旨味に、急いでいることを忘れ、グライアは咀嚼を続けた。

 食らいつく途中、米とはまた違う旨味を放つ何かに噛り付いたが、それが何か気にせず、喰らった。それもまた、米と旨く合わさり絶妙な味わいを奏でていた。一心不乱に食べ続け、途中で冷たく、すっきりのどを通る水を飲み――グライアはものの数分でおにぎりを平らげた。

 満腹感に「ほう」とため息をつきグライアの口角はわずかに上がった。


「すまない、美味しく頂かせてもらった。」

「いえいえ、気持ちいい食べっぷりでこちらとしても嬉しいですよ。」

「初めて食すものだったが、淡泊ながらも深い味わいでついつい食が進んでしまった。途中で何やらまた別の美味いものに当たったが……あれは?」

「あぁ、魔癒草ですよ?」

「ブッフォ!!!!」



「リディリ!!」


 天樹姫から魔癒草らしき薬草を受け取ったグライアは、何故かいつも以上の速度で自身の拠点に戻り、同僚のリディリが所属する研究室の扉を力強く開け放った。

 その音に反応した白い白衣に大きな隈宿した白衣の童女が死人のような目をグライアに向けた。


「どうしたグライア。魔癒草でも見つかったか?まぁ一本でも見つかったのであれば、完治とは言わずとも抑制は……待てお前それなんだお前。」


 リディリの死人のようなその目は次第に驚愕のそれに変わり、視線がグライアの両腕に抱えられたそれに降り注がれる。


「これが!これがお前の言う魔癒草で間違いないのか!?」

「な、なな、何だ、何でお前!そんなに沢山の魔癒草を持っているんだ!?お前どこに行った!?」

「そうか!やはりそうか!!ならば早く!早く薬にしてくれ!」

「チッ!今すぐにでも問いただしたいが、お前のほうが正しい!その量があれば"魔王様"の病なんてイチコロだ!」

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