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片足の老人の人生

作者: フランク太宰

あの頃、僕らは敵同士だった。

北と南に別れていて、僕は南軍だった。鼠色の軍帽を被って、下は農作業用の服だった。金があれば全身、色を統一したかったけど、金なんて無かった。今もないけどね。

君と会ったのは、川を挟んだ戦いのときだった。劣性を強いられていた僕らは塹壕に立て籠っているので、誠意一杯で、本部からの連絡もなく死を待つのみだった。

隊長は明朝、突撃を敢行すると言い、皆それに賛同した。塹壕では爆音鳴りやまず、飯もなくトイレも無かった。それに、もう数週間水浴びをしていない、男達が固まっているのだから、牛舎以上に不衛生で噂ではペストの感染者が出たようだった。

 君はわかるだろうけど、そんな状況で生きようとは思えない。早く天に召されたかった。

何のために戦っていたのかも忘れていたよ。いや、正直に言って今もよく分からない。

きっと15の子供には理解できない理由だったはずだ。

突撃の朝、寝ていないし疲労しきっていて、なんだか自分の人生がもう数分だというのに、実感がなかった。

隊長は一張羅で胸に勲章をびっしりつけていた、あの世に勲章は持っていけないだろうに。死ぬときは男は美しく勇ましくなければいけない、とかいう古風な考え方をもっていたのだろう。

他の兵隊は僕と同じで目が虚ろだった。

あの隊長の腰のサーベルが抜かれれば、死へ突撃する、妙な緊張感と背中のひどい痒みのせいで、早いとこやってくれと心から願っていた。

十五の子供が死に一直線に駆け抜けるのは、今考えれば異常な状況だ。

でも、過去を恨みはしないさ 、それが当たり前の時代だったのだから。

 そして隊長が塚からサーベルを抜き、突撃ラッパが鳴った。

僕は一目散に銃剣を正面へ向けて、走り出した。銃声が鳴り響き、血が流れ落ち、神への祈りや、最愛の人の名前が飛び交う。

僕は家族もいないし、恋人もいなかった、今まで僕を苦しめたすべての人に少し怨みも覚えたが、ほぼ無心だった。

塹壕から12~13メートルのところで、僕は左の太ももに弾丸を受けた、とっさにうつ伏せに倒れ、日々の疲労からか気を失った。人生の終わりなんて"ささいで孤独なもの"だと目をつぶる瞬間、感じた。

 目を覚めさせたのは、左半身の猛烈な痛みだった。虚ろな視界から今の、自分の状況は飲み込めた、左足が見えなかったからだ。

次に目が覚めたとき、看護婦が横にいた、痛みはひどく残っていたが 、意識はあり、彼女に尋ねた。

"ここは南か北か? そして、なぜ僕は生きているのか?"

彼女はシンプルに答えた、ここは北軍の野戦病院で、壊死をくい止めるために貴方の左足は切断した、貴方が何故此処にいるかは私には分からない。

きっと北軍の兵隊が運んでくれたのよと。

 

 今、あれから70年の月日が過ぎ、

 僕は片足の男として、人生の大半を生きてきた。悪い人生ではなかったと思う。愛し愛され、嫉妬し嫉妬される、当たり前の月日を過ごしてきた。

 まだ見ぬ君よ、君はどんな人生を送ったのだろうか?

願わくば、あの馬鹿な戦争で死んでいないことを祈っているよ。

平穏に幸せに、そして両足のまま、何処かの戸建ての家のベランダの椅子で君がパイプを吹かしているのを、

最近よく夢にみる。

  

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 小説を読ませてもらいました! 戦争というのは憎いですよね、政治家の欲によって、人間が亡くなっていき、宣戦布告されて国を守るために防衛して亡くなった方もいますし...... この話には突撃ラ…
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