90話 氷華様の言う通り!
「おねえちゃーーーん‼︎」
バンッ! と扉を開けて。
ロケットかというような勢いで美少女ーーリリちゃんがこっちへ向かって来た!
ま、待って!
その勢いじゃ、ぐふっっ‼︎
「クリスティ⁉︎」
「あ、大丈夫ブラン……私生きてる……」
「おねえちゃん⁉︎ やだ! 死んじゃやだー‼︎」
「リリちゃん……私生きてるよ……」
「南無阿弥陀仏」
「セツはあとで覚えてなさい」
この世界に念仏ないだろうが!
そして死んでないって言ってるでしょう⁉︎
勝手に殺さないでよ⁉︎
全く……変なリスク犯さないで欲しい。しかもこんな所で。
そう思いながら、リリちゃんに吹っ飛ばされて倒れた体を起こす。
リリちゃん風魔法使ったでしょ……。
恐ろしい幼女! でも可愛い!
そんなに会いたかったのかぁ!
「おねえちゃん‼︎」
ガバッと私に抱きついてきたので、そのまま頭を撫でる。可愛い。それはいいけど、地面に座りっぱなしはどうかと思うよ?
「あれ? そういえばリリちゃん、髪あの時のままなの?」
「あれ以来リリーが気にいってしまって……あわててメイドに覚えさせたんです」
苦笑して答えてくれたのはアルだった。
通りで……。メイドさん、ただの三つ編みで終わらせてない。ちゃんと編み込みになってる。リボンも綺麗だし……。
これがメイドさんの意地か……!
「この天才的な髪型は誰がやったのかと、すごく質問されましたよ」
「えっいやふつーなんですけど……」
「髪でリボンを結うだとか、バックカチューシャなんていうものは、今までなかったようです。ティアは才能の塊ですね。きっとそのうち流行ると思います」
何故かアルが誇らしげである。なんで?
まぁ確かにこの世界では見た事ないかぁ……でも意外と簡単なんだけどね。けど可愛いからなぁ。
猫耳とかもやったら流行るのかね?
あ、お花は流行りそうだなぁ。
ぽやんと考えている私とは違い、お兄ちゃんは素早く切り替える。
「リリチカ姫。お初に御目に掛かります。ライラック公爵家の長子、ブランドンと申します。ほら、セス君も」
「えーと、そこに転がってた姉の弟のセス・シンビジウムです」
「ちょっと⁉︎ 転がってたは余計なんですけど⁉︎」
「転がってたじゃん」
転がりたくて転がったわけじゃないわよ‼︎
そう言ってやろうとしてーーブランの目が光る。
「2人ともあとで覚えておいて」
「「ひぇ」」
ひー! こわいよー‼︎
ブランが怒りを通り越してにこにこしてる!
やだアルみたいになっちゃう‼︎
「ねぇティア、今失礼な事を考えませんでしたか?」
「気のせいです!」
その冷たい視線に、反射で言葉を返した。
「おにいちゃんたち、おねえちゃんのお友達なの?」
「僕はそうですね、セス君は弟ですけど」
「でも、髪も目の色もちがうのー」
ピキーーーーーーン!
あぁ! 氷華! やっぱり氷華だったか!
いや子供に分かれって方が無理だよ。
私は少し笑って、屈んで答える。
「それはねーリリちゃん、私は本当はセツの従姉妹だからだよー」
「いとこ?」
「そう。今はね、セスの家で面倒を見てもらってるの」
「おとうさんとおかあさんは?」
その瞳は、純粋そのものだ。
あぁみんなが慌ててる。
ていうか、何でセツまで慌ててんの?
もー、大丈夫だってば。
「リリー、あまりそういう事は聞いちゃいけません」
「なんで?」
「あ、大丈夫アル。リリちゃん、私のおとうさんとおかあさんはね、女神様の所に帰っちゃったの」
「女神さまってセイレーヌさま?」
「そうだよー! だからきっと、楽しんでると思うな」
実際は食べられてるんですけどね……!
しかしちっちゃい子の夢は壊しちゃいかんのである。特に女神様に良いイメージを抱いてる場合は。現実は非常に非情なのだ。
「いいなー! リリーも遊びに行きたい!」
「まだリリちゃんには早いから、もっと大人になってからだねー」
「リリーはやく大人になる!」
「ゆっくりでいいよー」
額面通りに受け取るリリちゃんは、微笑ましく張り切っている。
さて、これでリリちゃんはいいんだけど……この空気、どうしようか?
と、考えて。
「あ、リリちゃん! ヴィンスが今までのこと謝るから、仲良くしてほしいんだって!」
「えっ」
「……ヴィンセントが?」
突然のフリに固まるヴィンス。そしてリリちゃん、可愛いお顔をそんなに歪ませちゃいかんよー。
「ヴィンスはね、本当はリリちゃんと仲良くしたかったの」
「ちょ」
「リリーと?」
「そう。でもリリちゃんがあまりにも可愛すぎて。どうしていいかわからなくて、あぁなっちゃったの」
「……ふーん?」
ヴィンスを無視して話を進めると。
その話を聞いたリリちゃんが、じろーっと視線を移した。
「やめろ! こっちを見るな!」
「そうなの? ヴィンセント」
「こっちくんな!」
そしてギャーギャー言いながら、追いかけっこが始まった。
顔を真っ赤にして泣きそうなヴィンス。それを追いかけるリリちゃんは、何故かとても楽しそうである。リリちゃんもしかしてSなの?
いい子代表ブラン先生は呆然としていて、セツはそれを心配そうにしてる。
まぁ、これでリリちゃんとヴィンスは大丈夫かな?
「……ティアは結構、手厳しいですね」
様子を見ていたアルが、半笑いでそう溢す。
え? 厳しかったかな?
そう意識してはなかったんだけど。
まぁ私優しくないしなぁ。
「でもヴィンスあのままじゃ、リリちゃんと距離置いちゃいそうだったので」
リリちゃんが入ってきてから。
明らかにヴィンスの口数が減っていた。
ヴィンスはお喋りだと思うんだけど。まぁつまりリリちゃんとの距離を考えて、話せないでいる感じがしたのだ。
そりゃ、優しくしろとは言ったけど。
距離が空いて、話さないんじゃ意味ないからね。
「どうしてこういう空気は読めるのに、突然ダメになっちゃうんでしょうか……」
「え? 何がですか?」
「いえ、こちらの話です」
「?」
濁されたお茶は、しばらく待っても濁ったままだった。後味はすこぶる悪いけど、私では抽出できないので仕方ない。
追いかけっ子は何故かそのうち、頭なでなで大会になった。
審査員はリリちゃん。
あと何故かセツが巻き込まれてた。
昔から女の子の押しに弱い弟だ。
ブランがめちゃくちゃ戸惑っていたけど。
アルが「すみません、言い出したら聞かないので、付き合ってあげて下さい」と言われて折れていた。
権力って、こういうことだね!
さすが我らがお兄ちゃんは、3位だったよ!
アルは言うまでもないよね。
本当のお兄ちゃんだしね!
あ、ちなみに私が栄誉ある1位になりました!
まぁ当然よ! 私のお姉ちゃん力をナメないでよね‼︎ これで生きてきたから!
そしてビリのヴィンスが「鍛えてくるから覚えてろよーー!」と。捨て台詞を吐いていたのが今日のハイライトです。負けず嫌いかな?
けどほんとに訓練やるのかぁ……。




