89話 仕組まれた包囲網
「みなさん。ティアが危ない事をしようとしてるので、怒って止めてください」
部屋に戻るなり、アルはそんな事を言い出した。
「危ない事ってなんでしょうか?」
「儀式の場に直接行って、予知と予言を使って協力しようとしてます」
「は⁉︎ おいバカか⁉︎ お前子供だろうが‼︎」
いち早く反応したのはヴィンスだ。
自分だって子供だぞー。
というか、「怒られに」ってこれかぁ……。
「クリスティ」
あ。お兄ちゃんお怒りモード……?
いつもより低い声で声をかけられた。
嫌だなぁと眉が下がるのを感じながら、返事する。
「はい」
「何でそんな無謀な事を申し出たのか、説明して」
無謀ではないんだけどなぁ……でもそっか。みんな私の幻惑……もとい、世界を書き換える力知らないのか。反論に迷いながらも、ぽつぽつと告げる。
「私が実際に見て、その場で予言をすれば被害が減らせるから……」
「でも姉ちゃん足手まといじゃん」
「あ、足手まといでは……」
ぐさっとくる弟の鋭い指摘。
抉る気まんまんかな?
殺傷能力高すぎだよ?
思わず言い淀むよ?
「戦う力もない人を前線に連れて行くのは、足手まといに他ならないと思うよ」
「うぐ……」
今度はブランからの発言が刺さりました。ちょっとそんな気がしてきた。
「自分を守れるようになってから、人を守るれるようになるんだぞ? まぁクリスじゃ無理だけど」
ヴィンスからもありがたく酷いお言葉を頂戴する。
「な! 私できるもん!」
「どうやって?」
「だって私ならーー!」
反論すべく、意気込んで口を開く。
魔法使えば、世界最強だよ!
「ティア」
呼ばれたので何事かと思って振り向くと。
「むぐっ⁉︎」
「さっき言いましたよね。隙がありすぎると」
振り返ったら指の襲撃を受けた!
「ひ、卑怯だー!」
「何が卑怯ですか。戦いとはこういう事ですよ?」
「え?」
頬に指を押し付けられたまま、呆然とする。
「殿下の言う通りだよ。隙を見せたところからやられる。そして、弱い者は良い標的だ」
「すぐ拐われそう」
「拐われるんですめばいいけどよ、仮にも公爵令嬢だろ?」
「仮じゃないですー! ちゃんと公爵令嬢ですー‼︎」
たくさんの襲撃を受けて、タジタジになりながらも反論を……ってみんな酷くない⁉︎ 私の事どう思ってるのよ⁉︎
「公爵令嬢はお淑やかにしているものだよ? そんな所に行かないよね?」
「せ、先生……」
怖いです先生。凄みがすごい。
思わず小声になります。
でもー……それが最善手なのに……。
「ティア」
「……なんでしょうか?」
「全部自分で解決しようとしなくて良いんです……自分の事も考えてください」
アルからため息をつくような表情で、そう言われた。まぁ心配してくれてるのは、分かるんだけどね……。でも。
「ここでは死なないから、大丈夫なのに」
「ここでは?」
私の発言にピクリと、アルが反応する。
あ、マズい!
「ほら! 予知でどうなるかなーってちょっと見てるから! それで大丈夫なのは知ってるの!」
「……君の予知のすごさは知っていますが。だから大丈夫だと、私たちは思えません」
咄嗟の勢いでまくし立てるれば、アルはそれに流されてくれた。ほっ! 誤魔化せた! あー危ない危ない……。変な心配かけるとこだったよー。
「たしかに、あれはすごかったけど……でもそこまでする必要ないよ」
ブランも後押しするように同意する。
「話には聞いてるけどそんなすごいのか……もしかしてやってもらってないの僕だけ?」
「あ、オレもやってもらってないです」
「え、お前弟なのに?」
「興味ないんで」
弟、スーパードライ。そしてなんか話流れたな。このまま流してはくれまいか。
「……予言は、現場じゃなくても出来ますよね?」
「え、はい……でも現場なら状況見つつ、その都度予言できるから……」
「何度もするつもりだったんですか⁉︎」
アルが素っ頓狂な声をあげる。
うん? そりゃそうだけど?
何でそこで驚くの?
「クリスティ、君がどれだけ魔力があるか知らないけど、そんな危ない事やっちゃダメだよ」
「えっなんで?」
「魔力が無くなったら、生命の維持もできなくなるから」
補足したブランは顔をしかめて、そう告げる。
ええー⁉︎ 知らないなにそれ⁉︎
私自分の魔力量とか把握してないよ⁉︎
突然の死角からの攻撃なんですが!
「クリス。自分で使っておきながら、魔力量把握してないのかよ……」
「いえそれが普通ですよヴィス。ティアが特別なだけで、本来魔法を覚え出すのは6歳からです」
「あ、そういやまだ5歳なんだっけ? 忘れてたわ」
フォローしてくれたアルに、ヴィンスはあっけらかんとそう言った。あーそっか。フツーは習って使えるようになるのかぁ。
「自分の実力もわかってねぇのに、行こうとしてたのか姉ちゃん……」
「セス、お姉ちゃんの暴走止めてやれよ?」
「ヴィンくん、もう何度も試して無理だったよ」
「……先生は?」
「できていたら、僕の胃は痛くないんですけどね……」
「お前問題児だなー」
セツとブランはごめん。そしてヴィンスだけには言われたくないんですけど⁉︎
「と言うわけで、私の方から断っておきます」
「え⁉︎」
「危ないから止めてくれっていうのが、父からのお達しでもありますので」
にっこり笑ってアルはそう言う。
みんな最初から行かせる気ないじゃん‼︎
仕組まれた包囲網だったの⁉︎ 酷くない⁉︎
私はこんなに頑張ろうとしてたのにー!
「……これだけ心配されてんだから、諦めなよ」
「セツ……」
優しい……! と、思ったら。
「それだけ頼りないんだよ」
「感動した私がバカだった‼︎」
そんな事なかった。
うわーん! 弟が1番酷いよー‼︎
「そうだぞ! それよりクリスは僕にナデナデを教える約束だろ!」
「あ、そういえばあったなーそんなの」
意気込んでいうヴィンスに、ぽやーっとして返す。流れたかなと思ってたよ。
「そういえばってなんだよ⁉︎ すごい大事だろ⁉︎」
「……あの、クリスティが教えられるものなんでしょうか……?」
「大丈夫大丈夫! すごい上手かったから!」
「……クリスティ? なんか失礼してないよね?」
ギクリ‼︎ ブラン……鋭い子! 思わず内心冷や汗がたらたらと流れ、目線を逸らして固まる。
「したの? ねぇ僕報告受けてないけど」
「いや! あの、えーっとそう! 姫様の頭撫でてたのを見たから! それだから!」
「……ヴィンス君本当に?」
思わず睨まれたヴィンスも、怖いと思ったのか口早に言う。
「ほんとほんと!」
「……殿下、本当ですか?」
「……まぁリリーの頭は、撫でるの上手かったですね。あっという間に僕の座は奪われましたから」
ちらりとこちらに目線を向けた後、アルはそう答えた。
おー! 良かった! 他言無用が適用されたー‼︎ 一皮繋がったよー! セツが「騙されてるよ兄ちゃん……」って言ってたけど、しらないよー!
「わかりました! 諦めます! なのでリリちゃんを所望します‼︎」
「何が、なので、なのかわかませんが。そろそろリリーも耐えられないでしょうから、呼んできます」
元気よく答える私に、どこか呆れ顔で答えられた。
作戦、話を変えるです!
よしよしこれでいいよ……まぁ家でもタイムラグはあるけど、別に予知は出来るからね。指示できなくなっちゃうし最善ではないけど……黙ってやっちゃうもん!
でも魔力量分かんないと、ちょっと怖いか……?
そんな事を考えながら、今はとりあえずリリちゃんを待つ事にした。