86話 悪役令嬢改めわんこです
まぁもうどうしようもないので、この前謁見の間で何が起こったかを話した。
具体的にはーー女神様を呼んで。
怪しい儀式やめろって言って。
シーナ呼んで、『シブニー教』の儀式の説明して。
突撃の際は私も手伝うから儀式を止めさせて、『シブニー教』はもうダメだから解体しよう! って言ったという話。
「セス殿、この話に嘘はないでしょうか?」
「そのままセスでいいですよ王子」
「助かります」
「……嘘はないですけど、言ってないとこありますね」
え? なんかあったっけ?
「なんでクリスが『なんかあったっけ?』って顔なんだよ!」
「すごいヴィンス! なんで分かったの⁉︎」
「クリスティの考える事は、多分みんな分かるよ」
「いやまぁ、ブランは分かると思うけどさー経験的にね」
苦笑気味のブランに、笑顔でそう言うと。
「……ブランドンにあんまり苦労かけるなよ」
「ヴィンス君ありがとう……」
「でももう遅いんですよねぇ」
「セツは黙ってて!」
もー茶々入れて……ってさっきから喋らないアルが怖いんだけど。大丈夫? お腹でも痛いの?
「……彼女が忘れているところについて、補足を頂けますか?」
「えーと、なんとか卿をぶっ倒してましたね」
「「「は?」」」
「あ! そうだった! もーセツ、なんとか卿じゃ分からないでしょ? えーと名前は……」
確か……。
「バインバイン卿……?」
「何ですかその跳ねてそうな名前は……コランバイン卿、ですかね?」
「あ! それです! いや似てるじゃないですかバインバイン卿!」
「くっ……こ、こんなんで笑いたくねぇ……っ」
「お腹の辺りがバインバイン卿でした!」
「ぶっ」
あ。ヴィンスとセツがツボに入った。
なんかひーひー言ってる。楽しそうね。
「クリスティ……人の名前で遊んじゃダメだし、失礼な事を言っちゃダメでしょう?」
そんな2人とは別に、ブランは叱ってくる。
お兄ちゃんまともだー! ごめんなさい!
「でもねブラン、失礼な事を先言ったのはあっちなんだよ!」
「それは何を言われたの?」
「シーナが嘘ついてるって! スパイで騙そうとしてるって言ったの!」
ぷんぷん怒って言うその訴えに、別方面から否定的な意見が出た。
「……そうじゃないと、どうして言えるんですか?」
「え⁉︎ アル疑うの⁉︎」
「可能性の話です。ティアが信じ過ぎてるかもしれませんし」
なるほど、心配してくれてるのね。
うーん、ない訳じゃないけど。
今回は無いな。
でもこれ、私の経験則からの勘だから。言葉にするの難しいなぁ……。
「……シーナは、真面目なメイドです。それにあの、えーとコランバイン卿? はすごく焦ってたので、あっちが『シブニー教』だっていうのは、オレでも分かりましたよ」
悩んでたら笑いから解放されたセツが、援護してくれた。おう、弟よ! いい助け舟だ‼︎
「それに……姉が懐いているので、大丈夫でしょう」
おい。何だその基準は?
助け舟傾いたよ?
「あぁ、犬が懐く人に悪い人はいないと言いますしね」
「そういう事です」
アルと2人で、大きく頷いている。おい!
「ちょっと! なんで犬の話になってるんですか⁉︎」
「犬みたいなもんだろ」
「確かに忠犬目指してるけど!」
「何なのその忠犬って……」
あ、元祖忠犬が心配そうに見てる!
『学プリ』だとブランがわんこキャラなんだよねぇ。明るいわんこっていうよりは、知的なうーん、ゴールデンレトリバーみたいな感じの優しいわんこ!
そして忠義を大事にする騎士みたいな感じだから、忠犬ハチ公みたいな感じもする。
こういうわんこキャラなのだ!
王立学園で困っている主人公を、1番気にかけてくれてたのはブランドン。
アルバート王子は立場上難しいとかあるし。
心細い学園生活での癒し……。
これは恋に落ちますよね!
まぁ今はわんこより。先生でお兄ちゃんって意識の方が、私の中では大きいんだけどね。
「忠犬を目指すなら、躾けられたことは守ってくださいね?」
くーん……飼い主が厳しいよ……。
「すみません、よく言っておきます」
ブラン先生、今の流れだとブリーダーみたいですね。
私は躾のなってないわんこか……。
あれ? 何故だろう。
違和感無いな?
「それで、ぶっ倒していた、とは?」
アルの品の良いお顔でそういう風に言うと、違和感しかないね。
「……セス君」
「ごめんブラン兄ちゃん」
あ、お叱りポイントだ! これはさすがにマズかったと、セツも思ったんだね。
まぁここは可哀想なので、お姉様が流してあげましょう。
「倒したと言うか……眠ってもらっただけなんですけどね」
「なぜそんな事を?」
「多分協会の人間ですから、逃げられたら困りますし。シーナ侮辱されて怒ってたし、あと女神様のことも偽物って言ったんですよ!」
偽物じゃなくて映像なだけなのに!
ていうか、自分の信じてる神様にそんな事言うなんて、無礼以外の何者でもないよね!
「なのでお話してくれるように、ちょっと小細工しました!」
「……後で聞きましょう」
「わかりました!」
「……。」
あれ? なんか答え間違いました?
明らかにげんなりしてますけど。
「……つまり、あの日は女神様がいらした為に城が水で満たされたと。そういう事でしょうか?」
「そうですね!」
そういう設定ですね!
「はー……女神様ってすごいんだなぁ」
「そー! すごいよ! あと美神だよ!」
「あれはバインバインだった」
「ぶっ」
「セス君〜?」
「ごめんなさい」
こらセツ! 変な茶々入れるから、ヴィンスまたツボっちゃったじゃないの!
「……よくわかりました。すみません。父からティアにだけ伝えるように頼まれた事があるので、少しだけ2人で席を外してもよろしいですか?」
え? アレキサンダー王に?
なぜ……と思うも、アルはお父さんだから不自然じゃないのか?
「こちらは3人で話しているので、お気になさらず大丈夫です殿下」
「すみません。ヴィンスが迷惑をかけますが……」
「おい、それは僕の何目線なんだ?」
「友人目線に決まってるでしょう」
フォローしたブランに、アルが申し訳なさそうにヴィンスを頼むから笑えた。
「どちらかというと保護者……」
「こらセス君!」
「そーだよな! 僕もそう思った!」
「ですよね」
「……2人とも、結構仲良いよね……」
そんなわちゃわちゃを尻目に、アルに手を掴まれて部屋を移動する。
「アル? 私ちゃんと付いていくから、大丈夫だよ?」
「……。」
「アルー?」
しかし私の問いかけ、ガン無視ある。
どうしちゃったんだろうか。
たしかにダメわんこだけど。
このくらいの移動はできるんだけどな?
そう思いながら、手を繋いだまま別の部屋に入った。




