84話 虎の威も借る悪役令嬢 (挿絵)
勢いを削らない為に長いです。
家族と合流し、しばらくしてから謁見の間へ向かった。挨拶が済むまでは、家族の中に紛れている。
「して、本日の要件は……クリスティア嬢についてと聞いておるが」
来た。この時が。
1度目を閉じて、深呼吸してから……目をキリッとさせて答える。
「はい。私、シンビジウム公爵が娘、クリスティア・シンビジウムより、陛下へ奏上致しますーーその前に」
タイミングを図ったかのように。ピアスが、いや『神の涙』が淡く光り始める。見えやすいよう、髪を耳に掛ける。
「水と生命の女神であらせられます、セイレーヌ・フィン・クトゥルシア・シブニーギシュト様が、陛下へ御目通り願っております。御許可を頂きたく存じますが、如何でしょうか?」
堂々と、自信ありげに。
怯える心に仮面をつけた私は、にこやかに笑って言ったのける。
「⁉︎ 女神が⁉︎」
「陛下、具申致しますがあの『神の涙』の光ーー嘘は申してないかと」
「う、うむ……前代未聞じゃがな」
周りが騒然とする。
そう、これがまず女神様と私の第一段階の作戦。
子供でダメなら、保護者(神)も出ちゃおうよ作戦‼︎
この『神の涙』ね、女神様曰くアンチマジックアイテムなんだって。
中に魔力含まれてんのに、どうなってんだって話なんですけどね。外殻である石はどんな魔法でも弾き、内側には女神様の魔力が入ってるってのがこの石。
つまりこれを操れるのは、女神様だけ。
光らせる事ができるのも女神様だけ。
他の人がしようとしても、弾かれちゃうから。
もともと気に入った子、勇者とか英雄とか聖女とかの様子を知る為に作ったらしい。自分の魔力は辿りやすいからーーアルもやってたようなことだね。
まぁそれが、ここで役に立ってる訳です。
「……許可する! 話を聞こう、神では断れん」
そりゃそうだよね。
はい。それでは。
寄ってらっしゃい見てらっしゃい!
レディース&ジェントルメン……イッツアショータイムッ‼︎
バチンッ‼︎
天に向かって、この日の為に鍛え抜かれた指パッチンをする。
それを合図にーーお城に水が……この場から水が飛沫を散らして吹き上がり、押し寄せて行く。
「⁉︎ なっ⁉︎ 城が沈んでいく⁉︎」
「な、なんなんだこれは‼︎」
「きゃああ! 水が! 水が‼︎ 死んじゃう⁉︎」
お城、大パニックです。
そりゃそうよね。この部屋だけじゃないーーお城ごと、水の中に入ったように見えるから。
ちなみにこれを外から見ると。お城の周りだけ、水のスノードームみたいになって見える予定です。私の想像力が足りてれば。
「落ち着いて下さい皆様」
「これが落ち着いてなど……」
「見え方が変わっただけです。ここは水の中ではありません。現に地に足が着いておりますし、呼吸もできますでしょう?」
「た、確かに……?」
そう、実際に水の中な訳じゃない。
言うなれば、私が女神様に呼ばれたあの場所みたいな感じだ。水の抵抗を体に感じるけど、別に服だって濡れてない。
ま、そりゃそうだけどね。
だってこれ、作ってるの私だから。
「女神様がお目見えになります。どうぞご静粛に」
『神の涙』が強く光る。
私は斜め後ろへ、手を広げる。
すると強烈な光の柱が現れーー粒のようにキラキラと、淡くなる頃には。
そこに、女神様ーーこの国の守神でもある、セイレーヌ・フィン・クトゥルシア・シブニーギシュトが現れた。
「な、なな⁉︎」
「こ、これが女神様……」
「なんと、お美しい……」
と言っても、いつもの大きさだと謁見の間に入らないので、これでも小さい。謁見の間は天井も高いし広いんだけど、まぁさすがに女神様そのままはね。
外では、女神様の姿は見えなくても。
その天を貫く光の柱は。
城下、いや国中に見えた事だろう。
これが第二作戦。
面倒くさいことは1回にまとめて、みんなに見せちゃえばいいじゃないの作戦‼︎
人の口に戸は立てられない。
そして衝撃的な物なら、尚更みんな知りたいし話したがる。それは時に、信じられないスピードで巡る。
私のお披露目ーーセイレーヌ様に選ばれし者だと、『シブニー教』信者に知らせなきゃいけないけど。それを制圧までにしてる暇はない。
貴族とか王族とかは、見た目をやたら気にするから準備が時間かかる。ならそんなもの自分でやれば良いのよ! という結論です。
こっちのが早いでしょ? インパクトあるし。
用意するのは作戦と、私の想像力、あと元々ある闇の魔力だけですからね。
さて、ザワザワしてるとこ悪いけど、先に進めるよー。これ私も地味に大変だし、緊張することは早く終わらせたいのよ!
「こちらにおられますのは、女神様ではございますが、実物ではなくーーリアルタイムの立体映像のような」
「リアル……?」
「……ごほん。失礼致しました。いわば、幻影ーー仮のお姿で御座います」
見せてるの私だし。
でも、ポーズとってんのはほんとに女神様だよ。
映像を撮って、それを流してる感じかなぁ。
女神様が『美しく素晴らしいあたし』は、自分でしか表現できないとか。そんなワガママ言うからそこは任せた。
「女神様はこう申しておられます。『近々私の元へ魂を返す儀式が行われるようであるが、それは私の望むところではない』と」
話させても良いけど、更に混乱するし。
女神様のダメさが露見……ゲフンゲフン、私の発言力を増して下さろうという、女神様の有り難いご配慮により、私が通訳だ。
「儀式とな?」
「はい……それについてなのですが、詳しい者がございます。私の侍女なのですが……どうかお話し差し上げます機会を、頂けませんでしょうか?」
本来この場に侍女なんて、メイドなんて連れてこられないけど。
アレキサンダー王も困惑顔でこちらを見つめる。うーん、王子の婚約者の侍女でもやっぱ厳しいかなぁ。身分が……。
その時ピアスが1度、大きく光った。
「……よい。分かった。その者を連れて参れ」
王様がそう指示を出す。
おー! ありがと女神様‼︎ 助かったよー‼︎
そうして暫くすると、シーナが連れてこられた。
「お主が侍女か」
「はっ! 私めが、シンビジウム公爵令嬢のお世話を仰せつかっております、シーナと申します」
「シーナ。陛下は詳細の確認をご所望です。全て隈なくお話しなさい」
「かしこまりましたお嬢様。それでは陛下、恐れ入りますが、私から詳細を具申致したく存じます」
「よい。話せ」
そこからシーナが、私に話した事をきれいに分かりやすく纏めて話してくれる。
はー! 私じゃできない!
君は優秀なメイドさんだ‼︎
ていうか、秘書っぽいよね。
「信じられない……」
「まさか、そんな事が……?」
「いや、この侍女が嘘を吐いているのでは⁉︎ もしくは組織の手先! 陛下、信じてはなりません!」
おやおやぁ?
なーに今の人。怪しくない?
その声の方をに目をやり、澄まして口に出す。
「……それは女神セイレーヌ様の前で、仰っておりますか?」
「は⁉︎」
「もう1度同じ事を、こちらにおわす神に誓って、仰ることが出来ますかお伺いしております」
「それは偽物なのだろう⁉︎ 騙される訳ないじゃないかっ‼︎」
あらあら。私も一応、三公爵の家の者なのだけれど? 子供だと思って。
「……お名前は?」
「は? 何故名乗る必要が……」
「申し訳ございませんけれど。私より下の身分の者は、お会いしてなければ存じ上げませんの」
悪役令嬢の嫌らしいスマイル、0円!
「ぐ……っ! この……!」
「あら、唸るだけの獣が城へ迷い込んだのかしら? 陛下、城の警備を増やすべきですわ」
「……考えよう」
「陛下⁉︎」
お馬鹿さん。身の程知らずにはーー。
パチンッ!
「⁉︎」
バタリ……と今の人が倒れた。
「コランバイン卿⁉︎」
「……あら、女神様と陛下の前で居眠りだなんて、幸せな方ですわね。きっと起きたら今までの事を悔いて、詳しくお話し下さりますわ」
最後にチラリと王様を見る。頷いたので、伝わったのだろう。
指なんて、鳴らす必要ないのだけれど。
まぁ、アピールというやつだ。
私になんかしたらこうなるぞーっていう。
いや別に、ほんとに寝てるだけだよ? ただちょーっと……話す気になるまで起きれずに、タコの女神様に襲われ続ける夢を見るだけだよ?
想定してたの変わっちゃったけど。
こちら第三の作戦ーー力を見せて抑え込め作戦‼︎ これでシーナも安心!
「陛下、お話しの通り儀式まで時間がございません。分かり次第、現場を押さえるのが宜しいかと存じます」
「うむ……しかし準備もなしに敵陣へ送り込む事は出来んからな……」
「出来うる限り準備して下されば、当日は私が指揮のお手伝いを致します。こちらの被害が出ないように」
「は? お主今なんと……」
戸惑う王に、にやりと笑ってみせる。
「私であれば、その都度予言が可能でございます……精度は、限りなく100パーセントに近いです」
「⁉︎」
「必要であれば実力も、後程お見せ致しましょう。今はただ、御約束下さい。神に誓って、儀式の阻止とーー『シブニー教』の解体を」
もう半ば脅しだよね。
しょうがないね、悪役令嬢だからね。
そうして私は力技で、アレキサンダー王を、国を、説き伏せたのであった。
自分も力あるので
虎の威『も』です。




