81話 バッドエンドしか見えない道
フィーちゃんから聞いた話は、3つあった。
それを時間をかけて。
落ち着いてきたシーナに確認した。
1つ目、協会から孤児院への資金の減少ーーこれはまぁ、儀式の為の黒い資金になっているとのことだ。
悪いことにはお金が掛かる。情報漏らしちゃいけないし、ヤバいことにはまぁ……足の付かない人とか雇うんだろうし。あとは口止め料とかね。はー、やだやだ。
2つ目、孤児の増加ーーこれも胸糞悪い。
どうも、供物にする為に王都から離れた町やら村やらで人攫いとか……あとはどうも魔獣召喚とかして襲わせてるらしい。
あの、私貴族なんでまだ見てないんですけど。
この世界、剣も魔法もあとモンスターも……ここでは魔獣って言われてるのとかもいるんですよ。
魔獣は、精霊の成れの果てとか。
悪溜まりが何処かにあってそこから生まれるとか。
魔力に飲み込まれた存在だとか、言われている。
生きてはいるように見えるが、ほとんどの物に意思はない。魂だけが抜け落ちているので、魂のある物を欲しているとされる。
まぁたまに魔力で擬似魂を作って、意思を持つものもいるけど。
古龍なんかはその類らしい。
変異種と言ったところだ。
その分、魔力も強いから恐れられる。
とりあえず、魔獣の話は置いておくとして。
この協会狙いは、孤児を生み出すとともに。憎悪や恐怖も生み出す、といった辺りだろうか。「人は神より生まれし子」思想どこいったんですかね?
3つ目の貴族に貰われていく子が多いーーこれが1番、マズかった。
何がって、要は主導してるのが協会というより。
貴族ってことがだ。しかも複数。
そしてラナンキュラス男爵の名前も出たーーやっぱ黒いことやってんな!
しかし貴族って事は、しがらみがある訳で。
いきなり糾弾したって証拠がなきゃ摘発出来ない。しかもお金や権利、権力が絡むのでぶっちゃけ時間が足りない。
それこそ、神の言葉とか国の力とかじゃないと解決なんて……。
……あー、それで私かー。私最適解かー。
この計画、潰すだけなら私だけでも可能だろう。
そう、最悪を排除するだけなら。
儀式に必要な何かを失敗するよう、未来を書き換えればいい。
でも、それは最悪の排除だけ。
被害は抑えられない。
そしてそれだけでは悪の芽は摘まれない。
根が張ったまま、また何処かでそれは起こる事だろう。
その実態を知らない信者もいる訳だし、協会はこのまま存続する。信者は協会を庇い続けるだろう。
じゃあどうすればいいかって、簡単だよ。
悪は根絶やしだよ。除草剤だよ!
根が張り巡らされているなら、全体的に策を巡らす、力を見せつけて抑えるしかない。
普通それができないのは、その根が深すぎて手が出せないからだけど。それなら1番強い薬を使えばいいのさーーそれは資格を持つものだけの特権。
私は子供だ。
しかも5歳だ。
本来、そこに発言権はない。
だけど、王子の婚約者である公爵令嬢。
なおかつ、神に選ばれし者。
そして、闇の魔力を持つ、予知予言が出来る者である……表沙汰にする場合は、これも明かさなきゃなのか……。
私の言葉を、国は無視できない。
そして、神に選ばれし者、しかも他でもない女神様の『神の涙』を持っていることがーー女神を崇める、信者にも分かったなら。
全員、私を無視できない。
稀代の預言者の出来上がりだ。
……代償は私の平穏と、一定層から恨みを買うだろうことかな! さよなら身の安全! 早かったなぁ‼︎
下手したら一定層以外からも悪役に仕立てられる要素、自分で作るんだよなぁ‼︎
強力な力は恐れられるーー闇の魔力使いの末路の話、覚えておられますでしょうか? そういうことだよねー‼︎
でもこれでダメなら、もうお手上げだよ!
「とりあえず、女神様に一応お伺い立てておくか。演出とか必要かもだし。勝手に名前借りるとご機嫌損ねそうだし……あと王様に会わないとだけど……」
悩みながらも、整理しようと頭を動かす。
逆に表情は険しいまま動かなくなる。
とにかく、私の予知予言をアピールするところからかな……。でもあれ地味なんだよなぁ……。
私しか見えないから。
側から見ると分かんないのよー!
「……けど、まず貴族が絡んでる証拠がないとなぁ……短期間でそんな証拠……」
「お嬢様」
「はい?」
「お忘れですか? 私、諜報部隊所属なんですけど」
うんうん唸る私に、サラリと言ってのける。
……いや、まってよ。
「それ、国に言えと?」
「情報横流しします」
「いや危ないし」
「私だけが危ないなんて言ってられません」
「捕まっちゃうかもだし、敵だって疑われちゃうかもだし」
「多少の拷問ならまぁ……」
「まぁじゃないからねっ⁉︎ お願いだから自分のこと大事にしよう⁉︎」
なんでそんな生き急いじゃってるかな⁉︎
まだ子供なんだから、守られてていいんだよ!
そんな想いで止めるも、彼女はうんと言わない。
「しかしそれが1番早いです」
「でも!」
「それに私から頼んでおいてなんですが、そのままお嬢様にお返し致します……誰かを頼っても、意味がないから頼らなかっただけで、算段は付いてるんです」
悲しいことを平然と言うね。まぁここまで蔓延ってたら、並大抵では手を出せなかっただろうしね。
だけどうーん、こんなこと言えないけど。
私は無茶してもここでは死なないからいいんだよ!
死ぬとしたら王立学園卒業式間近で死ぬから!
逆に裏を返すと、そこまでの生は保証されてるんだよ‼︎ ……まさかバッドエンドに安心する日が来るとは思わなかったよ! 今だけは感謝する!
でも、1ヶ月で神に選ばれし者のお披露目……うーん間に合うかなぁ⁉︎
ていうか謁見だけでも。
早くて1週間は普通かかるでしょ?
下手したらもっとでしょ?
そこから動いてお披露目して、予言して、摘発……1年くれたら間に合ったかなぁ!
あぁもう分かった!
動かざるを得なくすればいいよね⁉︎
必要なのはパフォーマンスだよね⁉︎
とりあえず王様に会えないか、お父様とアルに掛け合う!
その間に女神にいいパフォーマンスないか相談! 協力してくれるか不明ですけど!
でも相談相手女神しかいないんだよ!
だって絶対「やめろ」って止められるもん‼︎
「……分かった! でも無茶したらダメだからね! 私の横にいる限りは、私が守るから!」
私はお姉ちゃんなので、関わったら手のかかる子も見捨てないですからね! 安心したまえ!
という事で題して!
『預言者だよ! 全員強制集合!』作戦始めます!
……泣きたい! これまでの頑張り水泡に返す、最大のバッドフラグかもしれない道……自分で進むよちくしょう‼︎




