79話 協会の実態
「私のいた孤児院はシブニー協会の運営でした」
意を決したシーナは話し始めた。
「シブニー協会は生命の神セイレーヌ様の加護を謳い、全ての子は神の子であるというその盟約のもとに結成された団体です」
あ、それフィーちゃんのところじゃん!
と、思わず心の中で思って。
口に出してはいないが。
どうも、顔には出てたらしい。
「まぁ母体がそもそもシブニー教なので、団体規模が大きいですし、お嬢様も聞いたことがあるかも知れませんね」
そうシーナは少し笑った。
この世界にも宗教はある。
まぁ、主に4神を奉るわけなんだけれど、同じ神でも教典が違かったりするわけだ。
女神様を崇める宗教が際たる例で、主に3つ。
水の神であるところに重点を置く『クトゥル教』。
生命の神であるところに重点を置く『シブニー教』。
どちらも女神であるとする『セイレニア教』がある。
私からしたらよく分からない。
神は1柱なんだから。
なんでそんなにこだわるの? って感じだけど。
それはまぁ私の信仰心の薄さと、実物を見た事があるからこその考えかもしれない。あとは、日本人的思考かなぁ。
見えぬものにすがるなら。
人は想像するしかないから。
その結果が、こんなに意見割れた、と。
全員同じ考えは、人間だし無理ってことかな。
とまぁそんな感じで、孤児院に力を入れているのは『シブニー教』と『セイレニア教』。それぞれ運営する協会なのだ。生命の神的にって事かな。
教会じゃないのよ。
ボランティアなの。
保護団体なんだよ。
まぁ、実際にはシスターが働いてるとこが多いんだけど……。ややこしいのだ。
『シブニー教』は特に。
「人は神から生まれし子」って考えを重視しているから、んー……。
あのね、政治的にね。
絡んでくる事が多いかな。
お偉いさんの威張ってる人が好むイメージ。
まぁでも「人は神から生まれし子」なので。孤児を最も大切にしてるのも、『シブニー教』ってイメージはあるよ。世間的に。
「偶然ね。私の友達もそこにいるみたいだったの」
「……そうでしたか。外に出られる子であれば、何らかの『ギフト』をお持ちなんでしょうね」
「ギフト?」
聞いたことのない言葉に、首を傾げる。
そして「外に出られる子」ってなんですかね……黒そうな気配が……。
「詳しく言うなら能力、でしょうか。それは魔力であったり美貌であったり。一芸に秀でている子のそれを、協会では『ギフト』と言います」
ギフト。神話にも出てくる通りに取るなら。
神からの贈り物の事かな。
「……彼女は可愛いし、魔力もあるわね」
「それは……よいご縁がありそうですね。『ギフト』は持っているほど、ご縁がありますから」
良いご縁とは。
つまり何処かに貰われる事だ。
まー貴族との出会いって事かな。
……でもなんか。貰い手がありそうな子だけ外に出すってそれ、商品みたいじゃない……?
いや、気のせいなら良いんだけど……。
貴族が引き取る時寄付が入るのが引っかかる……。
「……孤児院から貴族に貰われる方の出身は、明らかにシブニー協会が多いと思います。どうしてか、分かりますか?」
「もしそれが、規模が大きい以外の理由なら……あまり良い予感がしないのだけれど」
ゲンナリしてそう言うと。「さすがお嬢様は勘が冴えていらっしゃる」と、シーナは肩を竦めながら笑って言った。いや分かるけど分かりたくない。
「『ギフト』を持つ者が多いからですよ。選定されているのです」
「は? 孤児院よね?」
「孤児院ですよ。しかしあれはーー明らかに子供を選んでいます」
驚く私に、シーナは平然とそう言った。
それは貴族に寄付させるために?
明らかに黒じゃんっっ‼︎
「それ、選ばれなかった子たちはどうなるの……?」
「見込みがあれば訓練されます。ない場合はーー労働力にさせられる事が殆どでしょうね。生きて成長出来れば、平民になる事もできるかもしれません」
「それ実質殺しにかかってるじゃないの!」
何処が保護団体よドコがっ‼︎
強制労働とかいつの時代だ⁉︎
しかもその言い方、ほぼ死んじゃうんじゃない!
「……それが普通だと、思ってたんです。私達はその中にいる限り、『普通』を知りません。知り得ないのです」
視線を落とす彼女は、微笑んでいるがどこか悲しげだ。
「生きるにはお金がかかるから当然だ、と。そう言われ続けるのですよ」
それはもう、洗脳だ。
そうでなければ、なんだと言うのか。
「なんで、そんな団体が蔓延して……って癒着かっ!」
教典がーーつまり教義がお偉いさん、貴族に好かれやすいと言うのは知っている。手が出しにくいのは、そこ繋がりだと想像するのは容易い。
でももしかして。
それだけじゃないんじゃないかなこの話……。
「……こればかりは、私達が頑張ったところでどうにもなりません。協会も力を持っていますし、『シブニー教』の信者も沢山います」
そうだろう。
だからこそ、ここまで放置されたのだから。
誰も、その事実を知らずに。
「国が動いても、難しい規模です。何より協会が傾く事で、多くの孤児が露頭に迷うのも確かなのです」
あーん! なんでこんな重いのよ⁉︎
どうしたのよ『学プリ』!
キラキラ乙女ゲームじゃなかったのか⁉︎
世界観どこに投げてきた⁉︎
ぐぬぬぬ……と私が唸ってはみるが、シーナは首を振る。何も出来ない、という事か。
「……私は『ギフト』を持たぬ子供でした。ですから、鍛えられた訳ですーー隠密諜報部隊に入れるように」
「⁉︎」
なんだそれは⁉︎
ねぇ本当に孤児院じゃなくない⁉︎
「お嬢様がお気付きのように、あそこでは子供達は貴族への売り物なんです。だから貴族に価値を感じて貰えるような商品へ、磨きあげるんですよ」
まるで子供にどうしようもないことを、言い聞かせるような。そんな表情で言う。
その結果が隠密なの⁉︎
もっと普通の道なかったの⁉︎
「希少価値が高いほど、値は上がります。そういう事です」
そういう事ですじゃないし!
あと何で心読まれてんの⁉︎
シーナは光の魔力持ちでしたっけ⁉︎
「お嬢様は感情が分かりすぎます。読めなくても分かりますよ」
心の声に答えんな!
「……え、じゃあお父さんはそれを知っていて、シーナをうちに迎えたの……?」
なんだか悲しくなりながら、そう尋ねるが……ふふふ、とシーナが笑った。
「いえ、もっと面白い理由でしたよ」
ここまで来て面白い理由ってなんだ⁉︎