表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/533

77話 家族記念日



 あぁ……長い1日だった。



 そのほとんどが、怒られた記憶で埋められてしまったけれど。


 あの後。


 ピアスを見せてヴィンスに、「なんか普通」とか言われたり。


 ブランに自分の行動の添削をしてもらった話をして、アルに「私に直接聞けばいいのに」と、何故か怒られたりした。


 アルは「……彼は真面目な人でしたから、胃を痛めてないか心配です」と言っていた。


 この間仲良くなったのかな?

 それなら良かったよね!

 と思ったのに、なぜかため息を吐かれたよ。


 あとヴィンスに今度、『正しい撫で方講習』する事になったんだけど……。


 アルが口酸っぱく「お互いに頭撫でたらダメですからね……?」と言っていたので、どうするか悩みものである。




 しかし今の私の目下のミッションはそこではない。




 ……夕方になる前にお父様が迎えにきたので、家に一緒に帰る事になった。そこからが大変だった。



 あのね、私トークスキルないの!



 いつもどうやって話してたのかなぁと思うくらい、頭を悩ませながら話したんだけど……。


 ほぼ好きな食べ物の話と、お父さんーーつまり弟の生きていた頃、私とどう接してたかみたいな会話をしていた。


 はー大変だった……なんか緊張するんだもん。仲良くはしたいけど、やっぱり子供と勝手が違うから……お姉ちゃん補正ないと私本当にダメだと分かった。



 そしてミッションはそこで終了ではない。



 むしろ今からーーこの扉を潜って、まずセツのお母さんを『お母様』というところから始まるのだ……。これセツにどう説明するんだ。



「ただ今帰ったよ! チッタ! セス!」



 そんな私の葛藤を知らないお父様は、何故か馬車から降りる時先に降りて。手を差し出して降りる介助をしてくれてから、そのままである。



 つまり、手を繋いだままである。なんで?



 あのね⁉︎ こう見えても私心はうら若き乙女の歳なんだ! そこでこれはなかなかね⁉︎


 ……いえ、ふつーに恥ずかしいです……。


 これが、ヒゲモジャのおじさんとかなら良かったんだけど、いかんせんお父様中々のイケメンなんだよ。


 心を無にできない。

 すみませんこんな娘で。



「お帰りなさい、セルヴーーそしてクリスティアちゃん!」



 花が綻ぶように、可憐な笑みを向けて下さるーー。


 ああ! 刺さる! 期待が! 期待がっ‼︎



「……ただいま戻りました……お母様」



 ちょっと視線が右往左往しながらも、最後はちゃんと……目を見て、にっこり言えたと思う。


 ……ぎこちないけど。


「あぁやっと私にも娘が出来たわ! ずっと一緒にお茶を飲んで話たり、ドレスの相談のできる娘が欲しかったのよ」

「そうさ! だから今日は私達家族の祝いの日だ! もう準備はできているだろうか?」

「ええ、みんなで張り切って準備したのよ! さぁ、早く行きましょう!」


 喜ぶ2人を目にして、私の胃はキリキリと悲鳴を上げる。


 ハードルが高いっ!

 うぅ……でも良い人たちなのよ……。


「……なんでこんな事になってんの?」

「……後で説明するから……」


 怪訝な顔を向けてくるセツに、私はゲンナリと返した。


 そしてその夜は、ラザニアがこれでもかと用意され、なんか大きいチキンが並びーー今日クリスマスかな? って感じの食卓になった。


 2人のテンションは上がりまくりで、セツが「くー姉」と呼ぶので愛称が『クー』になったり。


 2人の当面の目標は、私から頬にキスしてもらえるほど、仲良くなる事だと言われたり。


 まぁ、大いに盛り上がった。


 私にキスはハードルが中々高すぎるんですけど……セツはしてるっぽいからコツでも聞くかな。あるのかわからないけど。そして嫌な顔されそうだけど。



「つまり、くー姉がやらかしたと」

「……否定はできない……」



 寝る前に、私の部屋へセツが遊びに来たので、何故こうなったかを話した。


「いやーもう、やらかし加減がミラクルだよね。修正不可能だし」

「否定の言葉もございません……」

「まぁ、今回は良かったんじゃないの。ずっと気にしてたからさ」


 耐え忍ぶ構えでいたが、弟からは案外悪くない反応が返ってきた。ちょっと意外。


 まぁ、生まれた時から記憶のあるセツにとって、やはりあの2人は親なのだろう。すごく発言から、家族なんだなと感じる。なんか変な感じだね。


「それに、なんかやっぱ違和感あったんだよね」

「え? 何が?」

「毎回『セスのお父さん』やら言われるの。姉弟じゃないんだなって気がして」


 セリフのぶっきらぼう加減に、裏が透ける。

 思ってたより気にしてたんだな、と。


 そのズレは私も感じていた。


 呼ぶたびに、姉弟じゃなくなってしまった感じがしていた。


「……それも、今夜でおさらばね」

「まぁお父『様』呼びもなかなか笑えるけどね」


 2人して、戯けて返す。


 昔の家族にそんな呼び方はした事ないし、セツはそんな呼び方しないからだろう。


 でもこればかりは仕方ない。

 だって、私のこの世界のお父さんは。

 やっぱり()()()()なのだ。


 死んでまで、心配して私のところに来たーーあの海送りの日の光を思い出した。



 大丈夫。

 もう連れてってなんて、言わないから。



「……家族付き合いって、慣れてないから難しいんだけどなぁ」

「お父さんもお母さんも、結構スキンシップするタイプだから覚悟しといたほうがいいぞ」

「ええ……」

「きっと明日はハグからだ」

「マジですか……」


 苦い笑顔を浮かべても、「頑張れ」としかセツは言わない。


 繰り返せば、この複雑な葛藤も、いつかは溶けてゆくのだろうか。するのは好きだけど、されるのは慣れてないんだよなぁ……。


 明日に頭を悩ませながらも。

 どこか晴れやかな気持ちで、その日は眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*企画ありがとうございました!*
i583200

*短編悪役令嬢*
流星の如く輝く没落を!〜悪役令嬢はざまぁフラグ貯金でクソゲーを改変したい〜

*こっちは学園物です*
BLACKCAT SYNDROMEー黒猫症候群ー

参加しています。よろしくお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング

cont_access.php?citi_cont_id=289234961&s
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[気になる点] >あのね、私トークスキルないの! またまた……御冗談を……。 [一言] >明日に頭を悩ませながらも。どこか晴れやかな気持ちで、その日は眠りについた。 複雑ながらも、気持ちの良い心情が…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ