6話 対策会を開きます
「ちなみに魔法はね」
「あ、まだ続くわけね」
もう飽きたといった感じで脱力したままだけれど、一応は耳を傾けて聞いてくれる気らしい。そう、なんだかんだいい子なんですよねうちの弟は。
「その属性は7つあります」
「お……多いな、想像してたより多かった」
ちょっと驚きの声があがる。そっか、ふつうよりちょっと多いのかな? ゲームやってた側からするともう見慣れすぎてよくわからないや。
「で、その内容が闇、光、風、水、火、土、雷なんだよ」
「だいたい予想つくけど、闇と光がわからん」
頬杖をつきながら聞いてくる。興味なさそうにしながら質問するあたり、それがポーズだと私は知っている。長年の付き合いだからね。せつは基本カッコつけなのである……しょうがないから気づかないフリして、質問に答えてあげるかな。
「闇は幻惑と予知、光は治癒と浄化かな」
「ふつー予知って光じゃね? なんか闇も闇っぽくないっていうか……」
引き続きだるだるーっとしながらも、間髪入れず弟は疑問を投げた。
闇は呪い系じゃないのかって?
そうだよねー。
私も最初はそう思ったけど。
「んー……まぁそこは主人公のためかなと」
「どういうこと?」
「予知はね、確実ではないから。設定上優秀な人でも、当たるのは十中八九くらいなんだよ。主人公ってほら、完璧なイメージじゃなきゃでしょ?」
乙女ゲームは恋愛シュミレーションゲームだから、お互いの足りない所をカバーするべくキャラをいったん挫折させるような困難があったり、性格的な凸凹というか、いわゆる弱点なんかもあったりはするんだけど。
その能力——特に魔力については別だ。
わかりやすく言うと、チヤホヤされるにに必要な魅力の話だからね。
この世界の魔法の実力や魔力量は、身分と同じくらい重要なもの。主人公が身分差を超えるためには、得てしてなんらかの魅力的要素を持つものなのだ! ……まあビジュアルも超大事なんですけど。プレイヤーの分身でもある主人公は、性格の良さやそういった何か特別さを感じさせるところに説得力がなきゃいけないのだ。
それに予知って、見方によっては呪術的な黒いイメージあるしね。
ヒロインに黒いイメージ、ナンセンス!
そういう負の要素は排除しないとね!!!!
「そういうもんかなぁ」
しかしせつは不満げだった。
「でもさぁ予知があったら、主人公チートで全部未来を当てる! 的なのできたんじゃね?」
「ふふん、乙女ゲーをわかってないねキミは。それは良くないんだよね」
「なんで?」
なんだこいつウザいな、という目を向けられながらも。めげない姉は拳を握り、熱い思いを言葉でぶつける!
「だってそれが使えたら、恋が盛り上がらないでしょう!!??」
乙女ゲームで一番大事なのはなにか!
それも考えてみて欲しい。
全部考えた未来が当たるという事を。
完璧な予知は相手の弱点も悩みも……乙女ゲームにおいてはルート分岐のためにも重要な、何を言えば正しいのか、どうフォローすればベストエンドへいけるのかもわかる事になるのだーーそれはまるで、攻略サイトを見るかのように。そんなのゲームが破綻しちゃうじゃない!
それにね? たしかに予知は便利だよ? でもそんなの現実では気味悪いだけだし! 恋愛に葛藤が——ハラハラドキドキがないなんてご法度すぎる‼︎
ゲームが盛り上がらないじゃないですか!!!!
これは『乙女ゲーム』なんだよ!!!!
一番大事なところなのよ!!!!!!
「それにそんなズルなんてフィーちゃんは絶対しないんですよ!」
「フィーちゃん誰だし」
「主人公フィリアナちゃんです!」
『フィー』というのは、アルバート王子のルートで彼が使う愛称。初めて王子がそう呼んだのを見たとき、「甘すぎる……」「デレしかない」など界隈がざわついたので、学プリプレイヤーもそれにあやかって呼ぶ人が多い。名は体を表すというか、愛称から可愛さがダダ洩れでいいよね……!
「ちなみにもちろんフィーちゃんは光持ちだから、敵の私は闇持ちだよ!」
「お、やったじゃん。予知で死ぬの回避できんじゃん?」
なんのこともなさそうにセツは言った——もう今までと変えずに、セツって呼ぼうと思う。
見た目がセスなのに雪貴って呼ぶわけにはさすがにいかないけど、『セス』なんだから『セツ』って呼ぶ分にはたいして変わらないよね。とっさに口に出ても、あだ名だってごまかし効きそうだなとフィーちゃんの愛称の話からも思えてきた。
ていうかなんの話ししてたっけ。
なんて言って……あ!!!!
「そうじゃん! 予知考えてなかった!!!!」
「うわ声でか……」
今回は名案すぎた! まさに盲点!
それなら予言者として、恩を売りまくる事も可能かも⁉︎
頭をフルスロットルで働かせる。
まず売るべきは、当たり前だけどアルバート王子!
仮にも許嫁、1番会うと思うし!
私を死に追いやるのもすべて、最終的に彼!!!!
ということは——味方につけたら死亡フラグ回避できるのでは⁉︎
ついに私は起死回生の案を手に入れた‼︎
持つべきものは弟‼︎
一家に一台ならぬ一弟だったってわけね!!!!
「でかしたセツ! これでなんとかなる‼ わーい!!!!」
「わ、え、なに」
私はセツと勝手に握手して、手をぶんぶんと振った。そのまま「何やってんだこいつ……」という弟からの冷たい視線を受けながらも、1人舞い上がって万歳をしたのだった。