76話 問題児動物園
「よしよし分かってくれて何よりだよー!」
よかったよかった!
頭撫でちゃいたいけどそれはがま……はっ⁉︎
「わ、私また頭を撫でてしまった⁉︎ どうしようブランとあんなに約束したのに⁉︎」
「またってなんだよ……毎回こんな事してるのかクリスは……」
怪訝な顔を向けられるけどそれどころじゃない‼︎
アルに怒られる覚悟はさっきしたけど!
ブランに怒られる覚悟はしてない‼︎
「違うの‼︎ 朝まで、いやさっきまでは覚えてたっ‼︎」
「それ、いつまで覚えてたんですか?」
必死の弁明に、呆れたような目でアルに聞かれる。
「えっリリちゃんと一緒にいた時?」
それにすかさずヴィンスの突っ込みが入った。
「この部屋来た時には忘れてんじゃねーか!」
「だってぇー‼︎ ヴィンスとリリちゃんの仲改善しなきゃしか頭になくてー‼︎」
「お前は鳥頭かよ⁉︎」
ちがうのぉー‼︎
1つの事しか考えられないだけなのー‼︎
「今日は『いらないって言わない』、『頭を撫でない』、『蔑ろにしない』って思って来たのにー‼︎」
「……おいなんでアルバがダメージ食らってるんだ⁉︎」
「あ、あの……深く聞かないで下さいヴィス……」
頭を抱える私に、頭を押さえるアルに……ここは阿鼻叫喚図です。
「あぁー! ブラン先生に怒られてしまうー‼︎ 淑女らしくするように教えられたのにー‼︎」
「淑女どこにいるんだよ」
グサっと刺さる一言。
嘆く私も、頭を冷やされる。
「……いないです……。ここには……」
淑女は死んだ! 元からいない‼︎
「ううう……がんばっていい子になるから、見捨てないでぇ……」
顔を覆いながら、心の中でブラン先生に全力謝罪した。
なんでも優しく許してくれるブランが、この前はあんなに私に注意したのだ……。
ブランに見捨てられたら。
私はどうしたらいいの……?
頭真っ白なんですけど……。
「……ったく、頭が良いのか悪いのか……おいクリス!」
「ふぁ?」
頭をグイッとされて上を向かせられる。
え、ちょっと。
私一応、女の子なんだけど?
「ここで起きた事は他言無用だ!」
いきなり投げかけられた言葉を、口に出して考える。
「たごんむよう」
「そうだよ! 言わなきゃわかんねぇんだから、いいんだよ! そんで!」
頭にあった手が動いた。
「わわわっ⁉︎」
ワシャワシャワシャ……これは?
「これでチャラだな」
手を離された時には前髪が視界を遮っていた。……これは、撫でられたのか?
「……ヴィス? あの、私の婚約者に何をしてますか?」
うぅー……前髪ぐちゃぐちゃ……に、なっただけなのかなぁ……これ、髪全部ぐちゃぐちゃじゃない?
「あ、ちが、アルバあのな?」
「いえ、見ていましたとも。隣にいたのですから……」
「こ、こわっ」
んんー、とりあえず前髪を手櫛で直して……っと。
「いや……さ? ほらさきにやってきたのあっちじゃん? だから……」
「彼女に常識を求めないでください。あなたまで非常識な人間になりたいんですか?」
「……それ、婚約者への認識ヒドくないか……?」
「あぁいえ、彼女が非常識な人というわけでは……いや、限りなく常識に囚われない人というか……」
「庇えてないぞ……」
ん! やっぱりぐちゃぐちゃだ!
もー、ここまでやるなんて……。
もっと加減考えないと。
リリちゃんなら頭もげちゃうよー?
どーしよっかなぁ……メイドさん呼ぶ?
でもこの間はリリちゃんいたからよかったけど。女の子がいないとこで、頭ぐちゃぐちゃになる何をしたんだっていう、話になっちゃうし……。
「違うんですよ……その、普段は常識がないわけではないんですけれど。なにかに集中してしまうと、周りが見えないというか……」
「それヤバくないか?」
「……。」
そうだよ!
髪解かなきゃいいんだよ!
よーし! 直れー!
ピカーーッ!
「⁉︎」
「えっ、なんか今銀の光りが……」
ガシッッッ‼︎
「ヴィス」
「な、なんだよ⁉︎」
「なんでもありません」
「え、いやお前絶対なんか見」
「なんでも、ありません。いいですね?」
「……はい」
「お2人とも何の話されてるんですか?」
なんかずっと話し込んでたけど……。
髪が落ち着いたので、何事もなかったかのように話に加わろうとした。
「そうですね……」
一度長いまつ毛が伏せられてから。
「君の事について話してましたよ、ティア」
アルはにっこりと……それはそう、とてもにっこりと笑った……。
私この笑顔見たことある‼︎
怒られるやつだ‼︎
「ティア」
「はい」
「頭を撫でてはいけないのは当然です」
「はい」
「そして頭を撫でられてもいけません」
「えっ⁉︎ 頭撫でられちゃいけないんですかっ⁉︎」
ガーーーーーーーーーン!
もしかしてこれも、ブランにバレたらマズいの⁉︎
「女性や家族に近い、親しい大人の方ならまだしも、男性に撫でさせてはいけません」
「え、でもヴィンスは男の子だしセーフ……」
「アウトです。淑女としてアウトです」
ガガガーーーーーーーン‼︎
「いやむしろなんでセーフだと思ったんだ……」
そう白い目で見られて、私は憤怒します!
「ちょっとぉ⁉︎ 他人事みたいに言ってるけど、私が怒られてるのヴィンスのせいなんですけど⁉︎」
「ヴィスの事がなくても私は怒りますよ?」
「はい……すみません……」
「なんで怒られないと思ったんだよ……」
「私はあなたにも怒ってますよ?」
「はい……ごめんなさい……」
ちーーーーーーん。
2人して、アルに怒られました……。
「あ! でも1つ言わせて下さい! ヴィンスあの強さで撫でたら、みんな頭もげちゃうからダメだよ‼︎」
そうだ! と思って、さっき思ったことを伝えておく。
覚えているうちに行動!
そうしないと!
私はすぐ忘れてしまう‼︎
「え、そうなのか?」
「そうだよ! もっとこう! 慈しむようなソフトタッチで‼︎」
「全然わかんねぇ……」
そう言って眉を寄せられる。
うーん? 言葉だと難しいのかな?
「えっと、こう……」
実践しようとして。
そこに、黒い影が落ちた。
「君たち、私の話聞いてましたか……?」
「「ひぃっ⁉︎」」
その日私達は確信したーーアルを怒らせてはならない、と。
まさかあんなに、こってり絞られるとは思いませんでした……アルはいい上司になるよ!
ブラン「僕が怒るそもそもの理由を忘れてるんじゃ……」




