表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/558

75話 優しさが欲しいなら

 メイドさんに用意してもらった別の部屋へ、3人で入ってソファに座る。どことなくアンティークっぽい部屋で、ソファも花柄の布張りである。


 可愛いけど飲み物溢せないな!

 そう思う私は小心者庶民よ!


 アルとヴィンスが向かい側で私だけこっちね。


 テーブルにはマドレーヌなどのお菓子と季節の果物のジュース。たぶんりんごとマスカット? 爽やかな酸味を感じさせる。



「では第一回、ヴィンスとリリちゃんに仲良くなってもらうための会議を始めまーす!」



 ぱちぱちぱちぱち……セルフですけど!


「え、何だよそれその為に移動したのか……」


 渋い顔をされますが、ヴィンスのためだからね!


「そうですけど! だってあそこで聞いてもどうせ答えてくれないし、リリちゃんと喧嘩して終わるでしょ!」

「別に僕は喧嘩しているつもりじゃ……」

「リリーとのやり取りは、(はた)から見たら喧嘩と変わらないですけど」

「……。」


 追撃も受けたので、頬杖をついて面白くなさそうな顔をしている。


 味方いないね!


 いや、仲良くさせてあげようって話だから。

 味方は味方なんだよ? 庇わないけど。


「仲良くしたいんでしょ? 違うの?」

「……私もさっきの話までは、ヴィスはリリーをおちょくりたいだけかと思ってましたよ……」

「う……。何だこのやりづらいの」


 おお〜! ヴィンスが焦って照れて動揺している‼︎


 レアショットですよ!

 ヴィンスルート攻略か今くらいじゃないかな⁉︎


 私の推しは別にヴィンスじゃないけど、あのスチルは人気だった……でも大人バージョンは妙に色っぽくなっちゃうからなぁ。そこがいいんですけど。


 うーん、ちょっといじめたくなる気持ちも分からなくも……。


「……シンビジウム侯爵令嬢? なにかお考えがあってのその満面の笑みなのでしょうか?」


 ひぇっ‼︎ こわっ‼︎


 その敬語と笑顔!

 大人バージョンの時みたいで怖いんですけど⁉︎

 あの表情どこに引っ込めちゃったのヴィンス!


 あ、アルもなんかしらーって目で、ジュース飲みながらこっちを見ている……。


 仕方がないので眉を下げて、反省の意を示す。


「すみませんでした……ちゃんと話に戻ります……」

「いや、それはそれで僕は困るんだけど……」

「で? 何でああなっちゃうの?」

「あ、聞いてくれないと」

「ヴィス、諦めて下さい。いつもです」

「……お前は頑張ってるよ……」


 何で2人で背中をポンポン叩き出したのか、私にはよく分からない。


 いいから話してってばー!


「だってリリちゃんと仲良くしたいんでしょ? でも上手くいってないじゃない」

「うっ」

「このままじゃただ嫌われるだけだけど、いいの?」

「ぐっ」

「ていうかもう嫌われてると思うけど……」

「……アルバー!」

「あーそうなりますよね……」


 ヴィンスが音を上げて、アルにしがみ付いた。アルがその背中をポンポンしている。


 おぉー!

 『学プリ』内でもなかったレアショットー‼︎


 ……って思わず感心したけど!

 そうじゃないよ!

 話! 話進まないよ‼︎


 気を取り直して、ビシッと言ってあげます!



「もっと優しくしてあげないと……女の子にモテないわよ‼︎」



 いや子供に何言ってるんだって話なんだけど。

 ごめん、半分は私の願望も混じってる。


 だってこのヴィンス!

 『学プリ』のヴィンセントと全然違うから!

 申し訳ないけどすっごい違和感あるんだよね!


 ヴィンセント・ローザと言えば。


 『華の宰相』って言われるくらい艶があって。

 頭が(ズル)賢くて。

 お色気担当だから、女の子に優しいんですよー!


  あと敬語なの! いやアルバート王子も敬語だけど!


 確かに主人公(フィリアナ)とぶつかるときは、この嫌味っぽい話し方もでるし。賢さからしても、彼が『ヴィンセント』であるのはそうなんだけど。


 だけどこの悪ガキがああなるって、ちょっと想像できないというか……。


 まぁ、ああはならなくても良いけど。

 人には優しくして欲しいなっていう。

 私の親心的願望がね……?



「ローザ家に女性はいないのかしら?」



 だからつい、余計なことまで聞いてしまう。


 ……お母さんとうまくいってないにしても。

 お姉さんいたはずなのよ。

 どうして上手くいかないかなぁ?


「……姉は2人いるけど、あれは弟を執事かなにかと勘違いしてる」

「え、じゃあどうやって……ってもしかしてリリちゃんに接してるみたいに返してるの?」

「だってあれ以外どうするんだよ?」


 じろり、と睨まれた。


 ふむ、そうか……お母さんは子供を顧みない。


 お父さんはここに連れてきてくれるくらいだし。

 そんな事ないと思うけど。

 接する時間があまりないかな……。



 つまりそこで育った子は。

 人への接し方が分からない。



 優しくしてもらう為に、優しく接するということが、まず分からない。だってメイドや執事はそんなことしなくて良いしね……。


 お姉さんたちも、そうなんだろうな。


 だから、これがヴィンスは普通だと思ってるのか。アルは優しいし、多少失礼でもヴィンスの素直なところが好きなんだろうから、問題ないけど。



 だけど普通は違う。



 これを成長していく中で……主に女性関係から学ぶんでしょうけど……リリちゃんとの接点は『学プリ』ではなかったし、縁切れちゃってるよねコレ。



 ヴィンスはこんなに仲良くしたいのに?



 それを知ってて、何もしないのは……。


 ごめん私には無理!

 大丈夫!

 このくらいでヴィンスの魅力減らないから‼︎


 思い立ったが吉日、立ち上がって2人のーーヴィンスの隣に座る。



「⁉︎ なんでこっちに来た⁉︎」

「よしよし」

「⁉︎」



 隣に腰掛けた私に驚いて詰め寄るヴィンスの、頭を撫でた。


 突然撫でられて、ヴィンスは固まっている。


「私があなたのお姉さんなら、優しくてあげるけど。……さて、あなたは今どんな気持ちかしら?」

「……お前は頭がおかしいんじゃないかと思う」

「あ、そういうのいらないから。もっと素直にーー優しくして欲しいとか、もっと撫でて欲しいとか、思わない?」


 不機嫌そうに顔だけ作ってる彼に、そう語りかける。


 私だったら、そう思ってたよ。


 これは欲望の塊な先輩からのアドバイスだーーすっごいカッコつかないな!


「……。」


 怒ったような顔で、黙り込んだその顔は真っ赤だ。まぁ、それが答えだよね。可愛いわね!


 うーん!

 もう一回撫でたい!


 ……ところなんですけど。


 あの、そのね?

 金髪の天使が『どういう事ですか?』って。

 目で語ってきてるので。


 うん……これあとで怒られるな。


「……まぁ私は、あなたのお姉さんではないから。これ以上撫でたりできないのだけれど。でもその今感じた気持ちは、あなたの求めているものだと思うの」


 愛に、優しさに、飢えているんだ。


 人はプラスの感情ーー優しさなどを欲しがるが。

 それがどうしても手に入らないと。

 マイナスでも良いから欲しくなるらしい。


 たとえば、好きな女の子をいじめちゃう小学生男子みたいなのね。


 ヴィンスのはまさにそれ。

 でもそれで手に入るのは、マイナスの感情だけだ。

 それに気付かなきゃ、この連鎖は終わらない。


「ヴィンス聞いて。あなたは自分の事を撫でてくれる人に、優しくしてくれる人に意地悪したいの? それともしたくないけどしてしまうのかしら?」

「……別に、したいわけじゃ」


 視線を逸らして言い淀む彼に、同意する。


「そうね。したくないでしょう? だってもっと優しくしてほしいし、嫌われたくないでしょ? 好きでいてほしいから、優しくしたいと思うでしょう?」

「それは」

「思うはずよ。結果がそうでなくても、あなたはそう思ってるわ」


 迷っている人に断言をすると。

 そうかも? って思う。

 コレ、心理学よ。


 そして有無を言わさぬ勢いで、いつも通り押し通りまーす!



「なら、優しくしてほしい人全員にそうやって接するべきだわ。優しくしてほしいなら、自分から優しくしなきゃ。今私に撫でられて、嬉しかったでしょ?」

「べ、べつに……」

「さっきまで私はあなたの事を責めてたのに、優しくされて、そういう気分になったでしょ。……他の人だって、そうだと思わない?」



 論より証拠、そういう事だ。


 ずるい私はリスクを話さない。

 でも、これに限っては。

 リスクよりメリットの方が多いはずだよ。




「優しくしてもらえたから、優しくするんじゃない。気に入られたいなら、あなたから優しくしなきゃ。ね? わかった?」




 そう最後にニコリと微笑んであげると。


 「……悔しいけど」と。

 小さく、不貞腐れるように返事が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ヴィスが完全にクリスにコントロールされてる……! クリス、やっぱり恐ろしい子! 少しずつヴィスの人となりが見えてきましたね。 キャラクターが読みながら固まってきた感じがして、彼にもだんだん…
[気になる点] 誤字報告です。 「好き『だ』な女の子をいじめちゃう小学生男子みたいなのね。」 この『だ』はいらないと思います。 [一言] 大丈夫。言ってもブラン先生はきっと見捨てないと思うのですよ。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ