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74話 勢いも戦法のうち

「なぁ姫様思ったけどさ」


 死んでいたヴィンスが生き返って言う。


「無理じゃないか?」

「え?」


 突然の否定に、さすがのリリちゃんも返事する。



「もし2人が結婚したとしても、姫様もだれかと結婚するだろ? 一緒にはいられないぞ」



 反撃の割には正気はないが。的確な指摘に、リリちゃんの目が大きく見開かれる。


「わ、私結婚しないもん!」

「いや無理だろう……」

「むりじゃない!」


 元気のない返答に、顔を真っ赤にして全力で反論している。


 子供は元気ねー。

 お姉さん、空気読まずにほのぼのしちゃうよ。


「同じ家の人と結婚とかじゃないと……」

「‼︎ おねえちゃん! やっぱりおにいちゃんダメ‼︎」

「ヴィンスはどっちの味方なんですか?」


 カオスになってきたところで、アルが止める。


「いや結婚しないだのどうの言ってたから」

「……それは」


 ヴィンスの怪しむ指摘に、アルが言い澱む。

 なんでそんなに困って……ん?


「あぁ、そっか! そういう事ですか!」


 何でアルがそんなに円満アピールとか。

 別れたくなさそうな事言ってるのか。

 やっと理解したよ!


 私は思わずグーにした手を振って、そう言った。


「……ティア。怒らないから言ってくれませんか?」


 何で怒られる前提なんだろう?


 何故か眉を寄せているその顔を見ながら、元気よく胸を張って答える。




「今婚約解消しても、婚約者はまた決めないといけないですもんね! なら、いつでも別れる私なら安心です‼︎」




 そう、彼はこの国の第一王子だ。


 アレキサンダー王は愛妻家で有名だ。だから王族には一夫多妻制が適用されているが、フローラ王妃だけを妻としている。



 故に増える可能性はあるけど、今のところ2人ーーアルとリリちゃんしか子供がいない。



 そりゃ親戚はいるけど……絶対に血を絶やすわけにはいかない。王家の人間筆頭であるアルに、婚約者をつけないなんて事はできない。


 なので今破棄しても、フィーちゃんに会うまでにまた婚約者が増えるだけ。それが御令嬢であればあるほど、婚約破棄は容易ではない。



 それこそ、悪役令嬢みたいなのでもない限りね!



「……って言ってるけど?」

「……私が思ってる方向性とはちがいますけど、まぁ今べつに婚約解消は考えてないですね」


 何故か心配そうな目でアルの方を向いたヴィンスに、アルは半眼で答える。


 ヴィンスの回答に納得してないのかもしれない。だから私は援護射撃をする。


「そうです! 私ほどの優良物件、なかなかいないですよ!」


 他の女の子なら泣くけど!

 私は何てったって忠臣目指してますから!

 全然苦でもありませんよー!


 アルの幸せに協力するためこれくらい、頑張っちゃうよ! という訳で優秀アピールしました!


「それ自分でいうのか……」

「はい! だってアルの未来1番考えてるの、今のところ私だと思いますから‼︎」


 呆れ顔のヴィンスに、自信満々で言い切る。


 将来どういう王になって欲しい、とかじゃない。


 アルとフィーちゃんに!

 ぜひ幸せになってもらいたい!

 リアル『学プリ』をこの目で見たい‼︎


 未来が分かっているからこそ、私が1番具体的に考えている自信がある。


 ……そしておこぼれお慈悲を私に下さいっていう、自己の保身も混じってますけど!


 こっちも弟かかってますし!

 今だとお父様たちも気になっちゃうし!

 仕方ないんですって!


 この先を知ってるからこそ、みんなが幸せな世界は私が1番真剣に考えてるのだ。


「……これは愛されてるのか?」

「そうですよ! もーすっっっごい考えてますよ! 愛ですよ愛‼︎」

「……多分彼女の言う愛は、私たちの考えるものとは別ですよヴィス」


 疑問形のヴィンスに愛を語るも、アルがしらっと否定した。


 えー! 何でよ‼︎

 私キャラ愛ある方だと思うよ⁉︎


 そこに今だと実際のアルを知ってるから、愛も増してると思うんだけどなー?


 でもアル的には足りないのかな……?

 忠臣の座は厳しい道のりね!

 もっともっと、精進しないと!


「まだ足りないんですね……」

「いえ、足りないと言うか」


 ちょっとしょぼんと言うと、フォローしてくれようとする。でも分かってますよ!



「忠臣の座はまだまだだということですね! でもいつかなりますから‼︎」



 私、ゼッタイ、諦めない!


 グッと拳を握り、顔に力を入れて言いました!


「……いつから部下になったんだ?」

「……私は許可してませんが」

「許可してもらえるまで頑張ります!」


 ヴィンスがなんとも言えない表情で尋ねると、アルは首を振った。だから気合の宣言しときますね!



 そう、まだ始まったばかりなのだから!



 そう息巻いているのに、何故かヴィンスはアルを心配そうに見て、アルはため息を吐いた。仲良し2人組の以心伝心は、私にはないので理由は分からない。



「おねえちゃんは、どうしたら一緒にいてくれるの?」



 しかもリリちゃんから、悲しそうな瞳を向けられる始末。


 でも、ずっと一緒は無理だよリリちゃん……。

 まぁ子供に言っても仕方ないんだけど。


「リリちゃんはお姉ちゃんの事好き?」

「うんすき‼︎ だからずっといてほしいの!」


 元気の良い答えに微笑む。


 「私の事好き?」とか、分かってなきゃ言えないセリフだよねぇ。私の場合、リリちゃんがさっき言ってくれたから言えるセリフだ。


 ずるい私は、リリちゃんに考えのすり替えをさせる。


「私もリリちゃんが好きだよ。だから、リリちゃんに会うのはご褒美なんだよー」

「ごほうび?」


 小首を傾げるその姿に癒されながら、私は続ける。


「うん。リリちゃんと会わない間に頑張ったから、リリちゃんといるとさらに嬉しくなるっていうご褒美。リリちゃんは、好きな食べ物は先に食べちゃう方?」

「たべちゃうかも……」


 ちょっと俯きがちにそう言った。


 食べちゃうのかー! 可愛いねぇ!

 子供は我慢ができないから仕方ないんだけどね。


「でもそうすると、無くなっちゃったなぁって悲しくならない?」

「ちょっとなる」


 コクリと頷く。


「そうでしょ。それをね、頑張ったご褒美に取っておくの」

「んー?」

「例えばちょっと嫌いな物を食べた後とかね。そうすると、これを食べたら好きな物が食べれるーって、嫌いな物でも少し嬉しくなるでしょ?」

「そうかなぁ……?」


 こっちを見ながら小首を傾げる……その顔は悩み顔だ。


「うん、今度試してみてね。そうしたらリリちゃんもひとつお姉さんになれるよ」

「おねえさん!」


 子供は背伸びしたがるものだ。

 だから、それも利用する。


 諦めないなら、新しいエサがあればいい。


 要は考えを逸らしてるのだが。

 こんなに純粋に見られちゃうと、若干後ろめたいね。


「……お前頑張んないと、言い負かされるんじゃないか?」

「……なんでわかったんですか?」

「もう負けてんのかよ……」


 後ろがヒソヒソしているが、気にしない。

 言葉巧みな話術と言ってくれ!


 いいのよ。これで苦手克服もできれば『待つ』ことも覚えるのだ。大人への第一歩は嘘じゃない。


「おにいちゃん! リリーはおねえさんになるのっ‼︎」

「うん、お兄ちゃんも応援してるよ」

「私おねえさんなの!」


 むふー! と、意気込みが顔に現れている。クスッと笑ってしまう。


 あらあら。

 もうお姉さんになっちゃったよ。

 こういうところが微笑ましいけどね。


 あと気になるのはヴィンスだけど……ここじゃ話落ち着いて聞けないからなぁ。


 というわけで決意が揺らがないうちに。


 早めにリリちゃんをメイドさんに引き渡して別れ、場所を移動してヴィンスの話を聞くことにした。

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[気になる点] クリスはアルのことどう思ってるのか気になりますな。 フィーちゃんとくっつくのを願ってるみたいだけど、ほんとのところどうなんだろう? [一言] 好きなものを最後にとっておくの好き。 小さ…
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