70話 魔法使いは誰? (挿絵)
「ただいまー……あれ? どうしたのおねえちゃん」
帰ってくるなり、リリちゃんの前には。私がお兄ちゃん抱き付いているという、ショッキングな映像が……。
ブラコンに火が! 付いてしまう‼︎
「リリちゃん違うのぉぉお‼︎ 私! 私‼︎」
「おにいちゃん、どうしたの?」
「私が泣かせちゃって! 私! 私‼︎ もう、もうどうしたら⁉︎ 打ち首⁉︎ 打ち首なの⁉︎ 違うんです違うのー! ごめんアルー‼︎」
「……おにいちゃん、笑ってる」
「え?」
焦っていた私はそう言われてアルを見ると、確かにーー肩を揺らして「クククッ」と声が……。
「わ、私を騙したの⁉︎」
「騙してはいないんですけど、その、あまりにも必死すぎて……っククッ」
「おにいちゃん、楽しそう!」
体を離すと、本当に笑ってる。
いつの間にか、抑えてるけど大爆笑してる。
ちょっと! 私の動揺どうしてくれるの⁉︎
「もー! 心配したのに⁉︎ いいわ! リリちゃんお絵描きしよ!」
「おにいちゃんはー?」
「今は笑いのツボに入ってるから、ほっときましょう」
という訳で怒った私はリリちゃんと2人、お絵かきを始めた。
リリちゃんは丸に黄色でくるくるを描いている……セイレーヌ様かな?
私はというと、リリちゃんモチーフで絵を描こうとしたんだけど……クレヨン、描きづらいな!
「リリちゃん、このクレヨン今だけ描きやすく変えても良い?」
「よくわかんないけど、いいよー」
という訳で、イメージする。
色鉛筆みたいに、硬く細く……。
するとクレヨンが銀色に光り……色鉛筆になった。
うん、そっちになっちゃったかー。
まぁいいや。想像力が足りなかったね。
「えっすごい! なぁにいまの!」
「うーん……絵を上手く描くのに必要な工程だよ!」
「? よくわからない……」
「……私もよくわからないわ」
仲良くなる前に、闇の使い手とか知られるのはあんまり良くないので、誤魔化す。
そんなよく分からない会話をしながら、絵を描いていく。
「すごーい‼︎ おねえちゃん、じょうずなの‼︎」
「確かに、これは上手いですね」
私の絵を覗き込んで、2人が言う。
あれ、アルいつの間に復活したの?
「これリリー?」
「うん、リリちゃんこういうの好きそうかなって」
「すごいすごい‼︎ とってもかわいい‼︎」
そう言ってぴょんぴょん跳ねている。可愛い……。子供はこういう純粋なところが良いよね。
「ティアは想像力が豊かなのですね」
「え? そうですかね? そうだったら嬉しいですね」
私は微妙な顔で、その視線の先を眺める。
絵は、意味がない。
描くのは好きだったけれど、それに価値はなかった。親も見つけたら「ゴミ片付けてよ」って言って捨ててたしなぁ。
どんなに描いたって。
役に立たなきゃ、利益を生まなきゃ意味がない。
それが資本主義社会というものだ。
だから勉強の方が尊ばれる。
いずれ利益になるから。
そんなことを考えて、私は表情がちょっと抜け落ちていた。
「この髪もかわいいのー!」
「あぁ、三つ編みハーフアップね。それなら今もできるよ? やりたい?」
「できるのっ⁉︎」
リリちゃんの声で元に戻り尋ねれば、飛び跳ねそうなほど嬉しそうに聞いてくる。
ほっぺを真っ赤にして、眉はこれでもかとあがり。大きなおめめが、さらに大きくなっている。
リアクション可愛い〜!
ほんとは編み込みをゲームでしてたんだけどね。
私は出来ない! 不器用万歳!
「じゃあ後ろを向いてね」
「はーい!」
手を上げて返事をしながら、くるりと回る。
私は彼女のサイドの髪を掬い、編み込んでいく。片方できたところで、手首にあったゴムで仮結び。今度は逆を編み込んで、纏めて、ついでにおまけーー。
「はい、完成。本当はクシとかでやった方が良いけど、リリちゃんもともと髪綺麗だしね」
「ん、リリーみえない……」
「自分からじゃ見えないよね」
首を傾けたり回ってみたりして、なんとか見ようと頑張っているリリちゃんに、思わず笑ってしまう。
「おにいちゃん、どう?」
「とっても可愛いですよ、リリー」
そして笑いあう2人ーーここが1番可愛いです‼︎
「あ、そうだ。リリちゃん、ちょっと付け足して良い?」
「なぁに?」
「後ろを向いてね」
自分の髪から普通の百合を抜く。
本当はなくても出来るんだろうけど。私まだ無から有生み出せるイメージ湧かないんだよなぁ……。
というわけで、これは前段階のその練習だ。ここにある物を、全く別のものに変える、練習。
目を閉じて、イメージを。
この髪型に合う、ヒラヒラさせて可愛いものーー。
光をまぶたの裏に感じる。収まってから目を開ける。
よし、上手くいった!
「それは?」
「見てからのお楽しみですよ!」
アルの不思議そうな顔を横目に、リリちゃんの髪に差し込んだ。
「なにをしたのー?」
「お待たせ致しました。もうよろしいですよ、お姫様」
演技でもなく本当にお姫様なんだけど、そう声をかけた。リリちゃんが振り向く。
「あぁ……後ろから見ても可愛かったですけど、前からでも可愛いですね」
「そうでしょうそうでしょう! 今考えましたから」
「今ですか⁉︎」
まぁ、元の世界にこの形もあったかもしれないけど、私は見たことないからね。
「み、みえないー! みてくる‼︎」
またびゅっとリリちゃんが走り抜けていく。窓を鏡にしてあげようかと思ったんだけど……いやもう追いつけないな。
「あれは、なんですか?」
「ヘッドドレス……詳しく言うなら、バックカチューシャですよ。ヘッドドレスは付けている方いますよね?」
「それはたしかに……」
「ただ付け方を変えただけですよ」
まぁ詳しく言うと、それ用に金具が曲がってたりとかあるけど。そう変わらないだろう。
バタンッ! すごい音で扉が開く。
「おねえちゃん‼︎ すごい‼︎ すごいの‼︎ すごく可愛い‼︎ ひらひら! 髪がリボンになってる‼︎ すごい‼︎」
そのまま勢いよくこっちに飛び込んできた。
ぐふっちょ、勢いがね、私運動神経無いから……! でもまぁ、喜んでくれてよかった。
そこからずっと「すごい! すごい!」と言われ続け。
帰るときには「やだ! ずっとここにいるの‼︎」と泣き出してしまったので、メイドさん達に回収された。また来るよ〜。
帰りは馬車までアルに送ってもらいます。
馬車はお城のだし家まで送ると言われたけど、さすがにね。
「君は魔法使いなんじゃないでしょうか?」
「へ?」
廊下を歩く最中、アルがそんな事を言いだした。
変なの。
この世界殆どが魔法使いでしょうに。
まぁ私の知らない定義とかあるのかもだけど。
正面から、夕陽に照らされる彼に視線を移す。燃えるような赤々とした光が眩しすぎて、表情がよく見えない。
「人の心を溶かす魔法使いです。誰だって、その魔法に掛かってしまう」
うーん惜しい。私はどっちかと言うと人の心を惑わす方かな。闇使いだし嘘もよく吐くし。
「ふふっロマンチックだなー。それはアルの方だと思うけど」
どう考えても、イケメン頑張り屋ドS王子需要高い。今ならショタならではの天使っぷりですよ! お買い得だよー‼︎
「……手を」
「?」
え? 何?
迷いそうだから繋げと?
くっ前科! 前科一犯か!
だけどさすがの私でも、隣にいれば迷わないよ? まぁ忠犬なので、飼い主に従い手を乗せます。ポン。お手。
その瞬間ーー。
ちゅっ。
「願わくば、その魔法は私だけに掛けてくださいますように。婚約者であることを、忘れないでくださいね」
「……」
そのまま引っ張られて、歩き出す……。
…………え⁉︎ 今の何っっっ⁉︎
王子の婚約者としてもっと淑女になれって遠回しな言い方⁉︎ ごめんなさい!
でもこの手にちゅーは何だっっ⁉︎
魔術的儀式か⁉︎
大いなる謎と混乱の魔法にかかったまま、いつの間にか馬車に辿りつき帰路に着くのであった。




