69話 飼い主泣かせ
絵本はリリちゃんが持っている。
一応アルが読んでいるけれど、そもそも文字が少ない本みたいだ。絵がメインで、それが大人の目から見ても綺麗だ。
内容としては、生命の神セイレーヌ様と創生神マウティスの、恋愛の様子を描いたもので、神罰落されるとこの手前で終わってるハッピーなやつ。
「リリー、この女神様になりたいのー」
本物の女神様はほぼ白と言えるようなブロンド、加減によっては、プラチナブロンドにも見えた。そこに美しいアクアマリンの瞳だった。
そして素材の良さが生きる出立。
でもこれは絵本だからか、セイレーヌ様盛り盛りである。
乙姫の羽衣みたいなの付けてるし。
アクセサリーも多いし。
ヒレがヒラヒラと沢山ある。女の子好みだ。
そしてこの絵本のセイレーヌ様、ちょっとリリちゃんに似ていた。
「リリーは『愛し子』だから、良い子にしてればこんな風に素敵になれますよ」
「うん! リリーいい子にする!」
兄妹のそんな睦じい様子に微笑ましくなりながら、気になった単語について聞く。
「アル、『愛し子』って何?」
「『愛し子』は王族の中でも、風と水と火の魔力が強い者のことを言うんです。先祖返りに近いって」
ああ、神話の最初の人の子に近いってことなのかな? じゃあ見た目も近いのかなぁ?
でも見た目は、アルとリリちゃんそっくりだよね。
「……少しくらい水が使えたらよかったのに」
「え?」
「いや……なんでもないですよ。リリーは女神様にきっとそっくりだなって思っただけです」
一瞬暗く見えたその表情を逃さなかった。
尋ねても、もう元に戻ってしまったけれど。
……気のせいじゃなければ、水の魔力の話?
そう言えば、使えないって言ってたっけ。大したことじゃないと思うけどなぁ。
何か引っかかるけど、あんまり聞き出すのも……。
「ひらひらかわいいの〜」
リリちゃんは女神様の絵に夢中だ。ニコニコと笑いながら撫でてみたりしている。
そんなリリちゃんが、私は可愛いけどねー。
ちっちゃい女の子はお絵描きも好きだよねー。
従姉妹とか、可愛い女の子描くと喜んでくれてたっけ……あ、じゃあ。
「リリちゃん絵、描こうよ!」
「絵? クレヨンもってくる!」
そしてまたダダダッと走って行ったーーあれ幼女のスピードじゃないぞ?
もう魔法使ってたの?
普通の魔法って、詠唱いらないっけ?
まさかまさかの無詠唱?
困惑している私に、アルは話しかけてくる。
「……リリーはすごいんですよ。あの加速も、教える前にできました」
扉を眺めながら。アルは少し、悲しそうな顔をしている。
「でも、アルだって使ってたじゃない?」
「私は最初からできたわけでは……それに、みんなが使えるものなのに、私は水が使えませんし……」
「みんなって誰?」
「王族は使えるのが普通くらいなんです……だから」
問えば問うほど、その表情は歪んでくる。
ああ、それで気にしてるのか。一般人とか使えない人ザラにいるのに、と思ったけど。
つまり誰かがアルに言ったわけね。
何で使えないんだって。
もしかして、妹と比較されてるのかな。
うーん、分かった!
「アル」
「はい、なんですか?」
「諦めよう」
「はい?」
スッパリ言った私に、アルはポカンとしている。
驚きで時が止まっているとこ悪いけど、私は優しくないので事実は言うよ。
「あのね、使えないものはどんなに頑張っても使えないよ。羨んでも妬んでも、自分の物にはならないの」
「そ、それは……」
瞳を逸らし戸惑われても、止めない。
「私だってアルたちが使ってる風、使いたいけどそもそも風の魔力がないから、できないよ」
「……そう言えばそうでしたね」
思い出したかのように、こちらに視線を戻された。
忘れないでよー!
私にとっては結構ショック案件なんだよ⁉︎
「でも、ティアは闇の魔力を持っているじゃないですか……」
アルの悲しそうな発言に、私もなんとも言えず。困って微笑むしかない。
……これの正体知ったら、どう思うんだろうね。
少なくとも、見る目は変わっちゃうよね。はは。
だから私は、濁すことしか出来ない。
こんなのは、闇の魔力なんて、持ってない方が幸せだと思うよ。知らない方が良い事は世の中あるのだ。
まぁそれが分からないまま、生きた方が幸せだけど。
「……そうね。そう。だから私は誰にも笑われないでしょうね」
忌み嫌われる事はあるかもしれないが、とはここでは言わないでおく。
「そうですよ……だから」
「その通りよ、なら他のものでカバーすれば良いわ‼︎」
「は?」
そう、今はその話ではない。
惚けた顔は気にせず、こんこんと話し続ける。
「アルは風と火が使えるよね?」
「……火は君の前では使ってないのでは?」
「お父さんに聞きました!」
必殺! ゴリ押しアタック!
不思議そうにされてもガンガン行こうぜ!
話を遮りそのまま進むよ‼︎ 押し流すのじゃー‼︎
「それでね、その力にはどっちも限界あるかもしれないけど、組み合わせれば幅が広がると思うの」
「組み合わせ……ですか?」
「出来ない訳じゃないでしょう?」
「そうですけど、そんな人はあまり……」
そう、この国では魔力はそれぞれ単体で使うことが主流だ。
組み合わせても弱い魔力でしかしない。
単純に制御が難しいから。
だから、純粋な魔力差がモノを言うのだけれど。
よくあるじゃないですか、漫画とかアニメとかだと……!
ないなら技を、作れば良いのよ!
つまり、合体技だよ‼︎
夢とロマンの塊だよ‼︎
本家『学プリ』ではなかった展開なんだけどね。あの時のアルは、もう自分の火の魔力に自信持ってたし。
だからほっとけば、解決する問題なんだけど……私ね。困ってる人の顔、見てるの嫌なのよね。
という訳で、またもやエゴです!
闇使いらしくね!
そんな迷いは押し流してしまえ!
「魔力があれば魔法は使えるんだから、大技の組み合わせるのだってできるよ!」
「で、ですが……」
ツン!
言い訳ばっかりのお口に指でアタック!
「いいですか、女神様も仰いましたーー魔法の基本は『疑わずに出来ると信じる事』‼︎ それさえあれば、大体できるよ!」
まぁこれは闇の魔力に対して言ったことなんだけどさ。でも、アルの魔力量が少ないとはとても思えない。
なら、足りないのは自信だよ!
人は直接言われるより、人伝いに話を聞く方が信じやすい。これぞ心理学。噂話なんかそうだね。
というわけで女神様のお言葉、お借りしました!
神の言葉とか、信憑性すごいもんね!
むしろ疑ったら罰当たりだわ。
「大丈夫! アルならできる! 私が保証しましょう……だってアルが頑張り屋さんだって、私知ってるもん‼︎」
この歳にしてあの知識量なのだ。
頭が良いだけじゃない。
知識は、学ぼうとしなければ手に入らない。
だから私は、自信を持って言います!
「足りないなら、補えば良いの! 私も何かできることがあれば手伝うーーアル?」
「君はいつもそうだ……」
「え?」
「私の言うことなんて聞いてくれなくて……いつも無理やり引っぱって、予想外なことばかり言う」
そう言って……瞳からポロリと落ちるその滴はーー!
あああああ⁉︎
また子供泣かせたぁああぁ⁉︎
「え! ごめんごめんなさいアル! どうしたの? 指ツンそんなに痛かったの⁉︎ それとも私が自分勝手すぎたのっ⁉︎ そんなつもりじゃなかったのー‼︎」
一頻りアワアワした後、ええい! もうままよ! というわけでギュッと抱きしめる。
まただよ‼︎
またやっちまったよ‼︎
経験上背中に手が届かないのは知っているので、今度は頭を撫でつつ肩をポンポンしました。
私、お姉ちゃん失格かも……。
忠犬は確実に失格!
ごめんよ主ー‼︎
頑張るから捨てないでー‼︎




