5話 ゲーム説明 (挿絵)
私の前世は白澤 空璃!
しがない凡庸な高校3年生。おとなしくつつましやか(多分)で漫画命な私は、入っていた対外的には美術部で、たまたま友達が持ってきていた乙女ゲームを布教された。それが今回転生先のゲーム——。
"君と魔法で世界を変えるRPG『王立学園プリンセス〜麗しの花園〜』"!
略して『学プリ』!!!!
ファンディスクやノベライズ、漫画までメディアミックスしていた。最近の乙女ゲームと言えばコレ! と1番に上がること間違いなしの、大人気乙女ゲームの代表格だった。
私はこれにどハマりしたのだ。
だってこれ、声のついた豪華な少女漫画みたいなもんですよ!!??
イラストも美麗だし!
そしてみんな素敵なお声をお持ちでして!
突然入るドキドキイベントとスチルの素晴らしいこと‼︎
あとで知ったところ、有名声優さんばかりだったらしい。アニメとかはあまり見る方ではなかったけど、それとは違う良さがそこにはあったと思う。ゲームならではの手軽さと、いくつものルート分岐で見られる沢山のエンディングはむしろ強み。つまり、控えめに言って最高だったんです!!!!
次のアニメ化はこれだろうと噂されるくらい、人気のあるコンテンツだった。
私的に1番の魅力は持ち運べることで——親の教育方針とか頑なな反対でスマホじゃなかった私からすると、革新的な出会いだったわけ。ま、受験生的にはアウトだったんですけどね! へへへ!
『学プリ』は良く言えば王道。
悪く言えば、よくある感じのファンタジー乙女ゲーム。
ある意味そのストーリーは初心者にも優しい。
主人公はフィリアナ・ラナンキュラス男爵令嬢。
元孤児だったフィリアナは、この世界ではとても貴重な光の魔力を持っていた。その力を買われて養子になった彼女は、魔力を持つ者のみが入学できる王立学園フィンセントグローリア、通称FGに入学する。
学園内では様々なイケメンと出会う。
そうもちろん、攻略対象たちである!
これがまた癖ありなんだけどね!!!!
みんな主人公より身分が高いんだけど、フィリアナは持ち前の明るさと優しさで身分の壁も心の壁も溶かしていくんですね。そして時には彼らの過去や心に抱える問題を解決して、時にはともに魔法を磨きながら、恋と青春を繰り広げるってわけ! これが最高なの!!!!
攻略対象は主に4人。
まさに王道王子様なアルバート・カサブランカ。
お色気担当王子の側近ヴィンセント・ローザ。
明るいワンコ系王宮騎士候補ブランドン・ライラック。
そしてツンデレ天才魔術師レイナー・ゲンティアナ。
あと裏キャラがいるとのことだったんだけど、残念ながら思い出せない。というかその裏キャラは私が攻略前だった気がする……あーもう、攻略前に死んだのかと思ったら後悔が……脱線しましましたすみません。
そのゲームの主人公フィリアナちゃんが本当にいい子で!
本当に素直でいい子で!!!!(大事なことなので2回言った)。
攻略対象だけじゃなく、主人公も見どころのひとつなの!
彼女の見た目はふわふわな薄桃色の髪で、瞳はオレンジと、いかにもゲーム! ってな感じ。だがそこがいい。可愛い。ビジュがいいです可愛いは正義なので。
でもおさらいだけど、身分は男爵令嬢だからギリギリ貴族なの。
財力のない家で、その家柄はほぼ平民並み。
そのうえ彼女は元孤児の養子だから……。
そうなると逆に、平民の方が楽かもしれない肩身の狭い立場でね。中途半端に出る杭はどこでも打たれがちというか……薄幸の美少女って感じというか。特にこの舞台がね、身分差のある貴族社会の物語だから。フィーちゃんの学園生活は話だけ聞くと順風満帆。
でも異例の待遇には反感、言っちゃえばイジメもついてくるから苦労するの……。そこが応援したくなるところでもあるんだけどね‼
ちなみにその代表格が悪役令嬢。
クリスティア・シンビジウム公爵令嬢。
つまり、いまのこの私なんですよね!!!!
王子アルバートの婚約者で、それを公言するかのように、いつも王家の花である百合を髪にあしらうご令嬢。雰囲気からすでにいじめっ子〜って感じ! 自身の立場にあぐらをかいて身分の低い人たちを見下しつつ、自分が一番でないと気に食わないの。その態度もめちゃくちゃ悪くて、主人公への逆風は体感8割クリスティアのせいです……よろしくないね!
もはや諸悪の根源。
悪の権化。
見た目も、黒い髪に黄緑のつり目と、フィーちゃんとは対照的。
そう、どっからどうみても完っっっっ全に悪役!!!!
そんな彼女は色々と、それはもう暇なのかというくらい主人公に絡んできてーー具体的に言うとシナリオ中7、8回は登場するの。いっそ清々しいね!
その結果どのルートでも最終的に、『王子の婚約者であるにもかかわらず、貴族らしからぬ振る舞いで貴族全体の品位を貶めた』と見なされて、王子にことごとく断罪されるハメになるの……!
端的に言うと。
どのルートでも、クリスティアは死ぬ。
これが運命と言わんばかりに。
何故かって、攻略対象はみんな仲良しだから。みーんな、生徒会のメンバーだから。仲良しイケメン尊いね……というのは置いといて。クリスティアの悪事を訴える先は、みんなアルバート王子なの……まぁ最高権力かつ婚約者だからね。
そして王子自身も、小さいころに無理やりさせられた望まない婚約だからか、かなーり乗り気で。まーあれはうっぷん溜まるというか……彼も手を焼いてたんでしょうね。クリスティアはあのまま行くとお妃様になっちゃうけど、上に立っても悪逆非道を働いちゃうんじゃ……っていうのはみんな予想つくくらいだから、国としても悪い芽は摘んでおきたかったんだろうなって思う。
その結果が全ルート死亡オチってわけ。
一応の名誉のために言っておくけど、王子様自身はクリスティアを殺してない。
ただクリスティアは追放中に勝手に死ぬだけだから。
強盗やら暗殺やら人違いやら……その他いろいろで。
なんというか、死のバイキングといったサービス充実っぷりだったりする。
結論どれでもバッドエンドだし、その巻き添えで彼女の公爵家も爵位を落として賠償金を背負い没落していく……。ちょっとかわいそうだけど、まぁでもクリスティアの弟のセス自身も姉に先導されて手伝いしていたからしかたない……と学プリプレイヤーは思うってわけ。
まぁ、そんな悪役令嬢に私は転生したのでした。ちゃんちゃん。
……えへへ、未来が見えないなー!!!!
「つまりこのまま行くと、セスも没落エンドだからね! やったね絶望だね!」
「マジ何の独白が始まったんだと思ったけど……うわ最悪でしかない……」
アトラクションのお姉さんのようなハイテンションで説明してあげた結果、以外にもおとなしく聞いてくれたわが弟くんは頭を抱えた。でも生きてはいるからクリスティアよりはマシだよ、とはさすがに言えなかった。だってなんかすごいわかりやすい悲壮感なんだもん。反応がわかりやすいねキミは……。
だから元気づけようと、言っておいた。
「でも魔法も剣も魔物もあるよ! おめでとう冒険者も夢じゃない!」
「今はそこじゃねー‼︎」
なんだよう。望んでたでしょ、そういうの。弟はセスの顔で、およそ5歳児らしからぬ憂いのため息をついた。