65話 国家権力総動員
あの後わざと「ティア」と繰り返し呼ぶので、変な形容詞のことを思い出しては恥ずかしくなった。
あれは悪い男になるぞ!
……いやならないって知ってるけど!
むしろ超いい男になるって知ってるけど!
いや学プリでもたまにあんな感じだった……か?
結局「あ! もうこんな時間ですわ! 危ないですからお帰り下さい!」と追い出した。渋々ながら帰ってくれたよ。
はー……まだ子供だからいいよ?
私も耐えられるよ?
でも、これが大きくなってまで続いたら?
ーー私の死因が恥ずか死になる‼︎
それはやはり阻止すべきなので!
早く婚約破棄してもらわないと!
こういうのは恋人に言えばいいんですよ‼︎
……まぁまだお子ちゃまだから、分からないか。
王子を家から追い出すという、不敬極まりない蛮行に及んだ次の日。お城から遣いが来て、わざわざ手紙を渡された。
内容は、明日鑑定するから石を持って来て! みたいな感じ。
おいおいこっちの都合無視かい!
……いえ王様のご命令ですものね。
誰も逆らえませんわー! 逃げたいー‼︎
まぁこんなね、仰々しい扱いでこんなものが届いちゃね。
家の人たちにも、隠しておけなくなっちゃいまして……それはそれはもう質問攻めだよね。特にセツね。
というわけで。
世界滅亡は言わないけど。
お姫様を助けるようにと。
女神様に言われた話はしましたとさ。
無駄に心配させてもいけないからね……。
そして本日、その鑑定の日となりました。
……ねぇ私、大事にしないでって、言ったと思うのだけれど?
あのね?
確かにこの赤いカーペットの豪華なお部屋。
お城の中では小さめだし、あんまり人いないよ?
でもね?
いるのが王族と、セツのお父様と、公爵以上の爵位持ち各家から各1名なのね。三大公爵揃い踏みである。あと鑑定士数名。子供私1人だけ。
まぁうち以外の公爵ってことは、ローザ公爵とライラック公爵ーーつまりヴィンスとブランのお父さんなんだけどさ。
いやさぁ……これのどこが内々なのよ⁉︎
王族と三大公爵いたら!
ほぼ国家権力総出ですよ‼︎
これだけで国回せる規模だよ⁉︎
めちゃくちゃ大事だわっ‼︎
それだけの事なのだと、今更身に染みて理解しました……泣きそう。空気も重い。
「確認致しました……これは間違いなく、『神の涙』に他なりません……!」
モノクルを掛け、角帽と金の刺繍の百合の紋が入った紫色のローブを纏う、いかにもな鑑定士さんがそう声をあげる。
「魔力数値・強度共に最高峰のもの……この鮮やかなライトブルーの色味や複雑な屈折率ーー生命と水の神、セイレーヌ・フィン・クトゥルシア・シブニーギシュトのギフトでございます‼︎」
ザワッと空気が響めく。
ただ「いつでも来ていい」って、渡されただけなんだけどなぁ……。
まぁね、分かるんだよ?
こういう公式な場で鑑定する事で。
証人ができる。
公の記録にも記せる。
この石ーー『神の涙』が、私のものだと。ある程度私の身元も保証される。
でも考えて下さい。
私の目的ーー婚約破棄して王子とフィーちゃんの幸せを願う、この目的! どうなります⁉︎
こんなことされたら!
婚約破棄すると!
アルに傷がついてしまうんじゃないかとね⁉︎
なんか悪い噂がアルにも立ちそうで、怖いんですけど‼︎
はぁ……仕方ありません……。
そうなった時はもう全員忘却掛けてやるからな!
覚悟してろよな‼︎
……まぁ保証されてた方が、追放死亡エンドは遠のくんだけどさ。でも私は欲張りーー強欲なる闇の使い手なので、みんな幸せエンドが好きなんだよ!
そんな誰とも分かち合えない悲しみを抱えながら。
鑑定士から『神の涙』を返して貰うーーはずだったのだが。
「クリスティア・シンビジウムよ」
「ひゃい!」
突然アレキサンダー王から話しかけられて、焦って噛みました。ついでに肩も跳ねました。つらい。
「其方が神託を賜ったのは承知した。そしてこの神の涙を離さずにいるよう、申し伝えられていることも聞き及んでおる」
「はい……仰る通りでございます」
朗々と響く声に、恐縮しながら答える。
「さすれば、このままでは幼きお主には些か難しいであろう。一部であれ身に付けていれば問題ないと聞いたが、違いないか?」
「その内容で、間違いございません」
な、なんだ?
展開が読めない私は、目を白黒させながらも答えた。
「では安全の為にも、こちらで身に付けやすく一部を加工させようと考えるが、どうだ?」
そう言いながら、にやりと王が笑った。
確かに、歴代の『神の涙』を保有するお城で直々に加工発注かければ。
不審がられることもないし。
私の存在も隠せるし。
さらに盗られるリスクも減るよね。
というわけで、私はこの提案を快諾した。
デザインなどの話が出たが。子供なので分からない、シンプルで長く持ちやすいものが良い、ということだけ伝えこの謎の集まりは終了した。
「つ……疲れた……」
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
やっと解放されたので、セツのお父さんと別れアルに合流した。
「裏切りにあって、後ろから刺された気分ですが?」
ギロリとアルを睨む。
「いえ、あれは抑えた方ですよ。本来は『神の涙』を持つものなんて、国の英雄扱いなんですから。国中に通達が行くんですよ?」
そう考えると確かに。
すごーく抑えられてたけど。
でもね?
「それは勇者やら英雄やら聖女やらだからで、私何もしてないから……」
アルから目を背けて言った。そう、ちょっと世界を救う為にお姫様助けてって言われただけだからさ……。
いや、スケールは確かに大きいんだけど!
私からしたらそんなに労力要らないからね?
ていうかむしろ、こちらからお願いしたいと言うかね?
乙女ゲープレイヤー的には、学プリキャラに出会えるとかウハウハでしかない。打算しかないのだ。そんな煌びやかな美しいものと、一緒にされちゃ困る。
「まぁこれでティアにもっと、城に来てもらう理由ができましたし。護衛も大っぴらにつけられるし願ったり叶ったりですね」
「うん? どういうこと?」
「私がもっと会いたいってことですよ」
爽やかな風が、彼の美しいブロンドの髪を揺らす。
にこりと嬉しそうに笑う様はとても美しいーーけど騙されてはいけない!
「ねぇ何か企んでない?」
「悲しいですね、本当に会いたいだけなんですが」
「答えになってないのですが」
「あぁ、着きましたよ」
ギロリと睨んで尋ねるけれど、サラリと躱される。
話す気はないらしい。なんでよ!
「むくれているのも可愛らしいですけれど、妹には優しくしてあげてくださいね」
そんなにこりとしながら言う軽口に、一瞬半眼になりつつも気を引き締める。
アルが扉に手をかける。いよいよね!
さぁ待望のお姫様にご対面だっ‼︎




