表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/558

62話 悪役令嬢のお願い攻撃




 目覚めると、そこは自室だった。




 あっれー? 既視感ー。これつまり……。



 私、また気絶したことになってないですかねー。



 病弱少女かな?

 ……違う、迷惑少女だな。

 やだ、もう一回寝たいわ。


 どうしよっかなーと、ひとまず上体を起こすと。



 ボテッとなにか落ちた。



 見ると、女神様からもらったあの綺麗な石だった。


 どうしようか迷って、ひとまずベッド横のサイドチェストの中に仕舞う。私以外開けられないように、魔法もかけておく。


 それが終わったところで。ノックの音の後に「失礼致します」と言って、メイドのシーナが入ってきた。



「あら、起きられたのですね。お加減はいかがでしょうか?」



 そう淡々と、業務的に聞いてくる。


 あぁそうなんですよ……。

 悪役令嬢(クリスティア)の呪い……。

 いや、記憶のない私が好き勝手してたせいで。



 メイドさん達と仲良くできてないままです。



 いい加減どうにかしないとですよねー。自分の尻拭いだって知ってしまったし……。


 シーナは今12歳くらいかな? 昔は魔力のない孤児だった。歳の近いメイドが欲しいと私が喚いたせいで、孤児院から連れてこられた子だ。


 なんで孤児院から? って思うでしょ?

 本当はいいとこの貴族は、メイドも貴族が多いし。



 この世界の、慈善活動みたいなもんなんだよね。



 養子の時もそうだけど。

 メイドになってもらう時に寄付をするから。

 孤児院にそれはそれは、な額をね。


 それに孤児は後ろ盾がない分、ろくな職につけない。


 その点、貴族のメイドともなれば大出世だ。

 お給金も普通よりいいし、住まいに困らない。

 本人にも、決して悪くない就職先なのだ。


 あとはあまり年齢が小さいうちだと、貴族の子はまだ奉仕にでないから。私の願いを聞いてって感じだと思う。


 あ、そうだよ!

 孤児院の話も聞けるかもしれない!

 たまにはもの思いに耽るものね!


 まだうちに来てそんなに経ってないんだし、あっちにも知り合いいると思うし。


 まぁどこの協会附属かにもよるけどーーフィーちゃんのところと違っても、比較として情報になる。



 となれば、まずは仲良くならないとなので……。



「お嬢様? お加減が優れないのですか?」



 シーナが不思議そうに尋ねてくる。


 あ、いけない。

 返事忘れてた。ごめんよ。

 めっちゃ考え込んでたわ。


 私は慌てて取り繕う。


「だ、大丈夫よ!」

「それでは旦那様と奥方様に、お嬢様がお目覚めになった事をお伝えして参ります」

「ま、待って!」


 ここを逃すと話ができないと思って、思わず引き止める。


「何がございましたか?」

「あの、あのね! その……協力してほしいの!」

「……何のお願いでございましょう?」


 勢いで捕まえたので、何も考えていない。


 それを見抜いたかのような鋭い目つきと声音に、身構えつつも言葉を繋げる。



 必殺! 口からでまかせ‼︎



「私、アルバート王子にお菓子つくれるって、嘘ついちゃったの! だから、つくれるようになりたいのっ!」

「お菓子、でごさいますか……」



 勢いだけで紡がれた言葉は、焦っているから切羽詰まった感じは出てると思う。まぁ別の意味だけど。


 そして何故そんな嘘を? とシーナの目は言っている。


 そりゃそうだ。嘘だし。


 だって普通、ご令嬢は。

 スプーンフォークより重いものは持たない。

 キッチンなんて、一生縁がないだろう。



 でもここから無理やり捻じ曲げるのが、ペテン師の力です!



「その、アルバート王子がとってもおいしそうに屋台の料理をたべていてね? 私もお菓子ならつくれますって嘘ついちゃったの」

「王子が屋台を……?」


 指をちょんちょんしながら言うと、首を傾げながらも聞いてくれる。


 食べたんですよー。

 これは事実よ。

 まぁ、私が食べさせたんですけどー!



 前半は合っていて、後半は嘘。



 でも誰に嘘ついたとは言ってないよ?

 今嘘をついているから。

 ()()()()()()()()


 光使いでも見透かさない、私の矛盾しない二枚舌戦法だ。


「しかし……お嬢様を厨房に入れるわけには……私も一介のメイドに過ぎませんし」

「シーナは、料理つくれない?」

「いえ、それはできますけれど」


 言い淀む彼女に尋ねれば、結構すんなり答えてくれる。


 すごいなーえらいなシーナ……。

 私が12歳の時料理できたかなぁ。

 ……レンチンだな、多分。


 ちょっと遠い目になったので、首を振って魂を呼び戻し切り替える。



「許してもらえないの、わかってるけど……ねぇダメかしら? 1回だけ! ね? 一緒につくって、たべてくれる人が必要なの!」



 そして必死に懇願のポーズを取る。


 今までそんなお願いされた事ないーーというか、クリスティアがそんな下手に出ているところを、初めて見るだろうシーナは困惑する。


「食べるのですか? お嬢様のお作りになられるものを?」

「そうよ? だって自分だけじゃいいかわからないでしょ? 人の意見が必要だもの。うまくつくれたら、おやつになるわよ? 材料はこっちで用意するから」


 驚く彼女に「だから、ね?」と、追い討ちで可愛くお願いしてみる。


 甘いものって、メイドにとっては至高品のはずだ。

 まぁ、食べたらもう共犯者。

 言い逃れできな意立場になるんだけどね?



 これぞ悪役的戦法である。



 戸惑いながらも、彼女は告げた。


「……考えておきます。今はひとまず旦那様と奥方様へ、お嬢様が目覚められた事をいち早くお伝えすべきですから」

「あ、ごめんなさい……分かった。待ってるわ」


 そう言って、しょげておいた。

 正直ここでオッケー貰えるとは思ってない。


 シーナはそんな私を見て。


 謝られたのも初めてだったのかもしれない。少し固まった後「失礼します」と言って、どこか逃げるように部屋を出て行った。


 どうかなぁ。

 シーナが一番歳近いから。

 話しやすいんだけどなぁ。


 ぼんやりそんな事を考えていたら、ノックもせずに扉が開く。



「くー姉大丈夫かよ。熱中症だって?」



 そんな事するのは、私の弟しかいない。


「えっ私、熱中症だったの⁉︎」

「そーだよ! なんかいなくなったと思ったら、探しに行った王子がすごい顔で帰ってきてさ? 熱中症で倒れたんだって言われたよ」


 びっくりする私に、「もー気を付けろよなー」と顔を顰めた弟が言う。


 えー! 意識遠のいたのって、熱中症だったの⁉︎


 まぁ確かに……言われてみれば。

 手をパタパタさせたり走ったり。

 よく動いてたし。


 おまけにめっちゃ泣くくらい興奮してたけど……うわぁ。


 人の心配してる場合じゃありませんでした。

 さーどう思われたかな!

 知りたくないなぁ⁉︎


 目を背けたい事実に、頭痛がした。今なら私、ほんとに調子悪いわ。演技なしでいけますわー!


 はぁ……でもそれじゃあ。


 女神様と会ったの何だったんだ?

 精神だけ呼び出されたの?



 けど、石持ってきてたけど……。



 神絡みは考えても、結論でなさそうだ。

 今度会ったら直接聞くかな、と考えて気を取り直すが。



「また王子来るって言ってたぞ」

「え⁉︎ いつ⁉︎」



 そんな事は関係ないほど、気を動転させられた。

 なんで君はそう、なんでもなさそうに言うかな⁉︎


「今日」

「ええっ⁉︎ 何時よ⁉︎」

「たしか3時?」

「あと2時間しかない!」



 そうして私は、慌てて準備を始めたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ