62話 悪役令嬢のお願い攻撃
目覚めると、そこは自室だった。
あっれー? 既視感ー。これつまり……。
私、また気絶したことになってないですかねー。
病弱少女かな?
……違う、迷惑少女だな。
やだ、もう一回寝たいわ。
どうしよっかなーと、ひとまず上体を起こすと。
ボテッとなにか落ちた。
見ると、女神様からもらったあの綺麗な石だった。
どうしようか迷って、ひとまずベッド横のサイドチェストの中に仕舞う。私以外開けられないように、魔法もかけておく。
それが終わったところで。ノックの音の後に「失礼致します」と言って、メイドのシーナが入ってきた。
「あら、起きられたのですね。お加減はいかがでしょうか?」
そう淡々と、業務的に聞いてくる。
あぁそうなんですよ……。
悪役令嬢の呪い……。
いや、記憶のない私が好き勝手してたせいで。
メイドさん達と仲良くできてないままです。
いい加減どうにかしないとですよねー。自分の尻拭いだって知ってしまったし……。
シーナは今12歳くらいかな? 昔は魔力のない孤児だった。歳の近いメイドが欲しいと私が喚いたせいで、孤児院から連れてこられた子だ。
なんで孤児院から? って思うでしょ?
本当はいいとこの貴族は、メイドも貴族が多いし。
この世界の、慈善活動みたいなもんなんだよね。
養子の時もそうだけど。
メイドになってもらう時に寄付をするから。
孤児院にそれはそれは、な額をね。
それに孤児は後ろ盾がない分、ろくな職につけない。
その点、貴族のメイドともなれば大出世だ。
お給金も普通よりいいし、住まいに困らない。
本人にも、決して悪くない就職先なのだ。
あとはあまり年齢が小さいうちだと、貴族の子はまだ奉仕にでないから。私の願いを聞いてって感じだと思う。
あ、そうだよ!
孤児院の話も聞けるかもしれない!
たまにはもの思いに耽るものね!
まだうちに来てそんなに経ってないんだし、あっちにも知り合いいると思うし。
まぁどこの協会附属かにもよるけどーーフィーちゃんのところと違っても、比較として情報になる。
となれば、まずは仲良くならないとなので……。
「お嬢様? お加減が優れないのですか?」
シーナが不思議そうに尋ねてくる。
あ、いけない。
返事忘れてた。ごめんよ。
めっちゃ考え込んでたわ。
私は慌てて取り繕う。
「だ、大丈夫よ!」
「それでは旦那様と奥方様に、お嬢様がお目覚めになった事をお伝えして参ります」
「ま、待って!」
ここを逃すと話ができないと思って、思わず引き止める。
「何がございましたか?」
「あの、あのね! その……協力してほしいの!」
「……何のお願いでございましょう?」
勢いで捕まえたので、何も考えていない。
それを見抜いたかのような鋭い目つきと声音に、身構えつつも言葉を繋げる。
必殺! 口からでまかせ‼︎
「私、アルバート王子にお菓子つくれるって、嘘ついちゃったの! だから、つくれるようになりたいのっ!」
「お菓子、でごさいますか……」
勢いだけで紡がれた言葉は、焦っているから切羽詰まった感じは出てると思う。まぁ別の意味だけど。
そして何故そんな嘘を? とシーナの目は言っている。
そりゃそうだ。嘘だし。
だって普通、ご令嬢は。
スプーンフォークより重いものは持たない。
キッチンなんて、一生縁がないだろう。
でもここから無理やり捻じ曲げるのが、ペテン師の力です!
「その、アルバート王子がとってもおいしそうに屋台の料理をたべていてね? 私もお菓子ならつくれますって嘘ついちゃったの」
「王子が屋台を……?」
指をちょんちょんしながら言うと、首を傾げながらも聞いてくれる。
食べたんですよー。
これは事実よ。
まぁ、私が食べさせたんですけどー!
前半は合っていて、後半は嘘。
でも誰に嘘ついたとは言ってないよ?
今嘘をついているから。
嘘じゃないでしょ?
光使いでも見透かさない、私の矛盾しない二枚舌戦法だ。
「しかし……お嬢様を厨房に入れるわけには……私も一介のメイドに過ぎませんし」
「シーナは、料理つくれない?」
「いえ、それはできますけれど」
言い淀む彼女に尋ねれば、結構すんなり答えてくれる。
すごいなーえらいなシーナ……。
私が12歳の時料理できたかなぁ。
……レンチンだな、多分。
ちょっと遠い目になったので、首を振って魂を呼び戻し切り替える。
「許してもらえないの、わかってるけど……ねぇダメかしら? 1回だけ! ね? 一緒につくって、たべてくれる人が必要なの!」
そして必死に懇願のポーズを取る。
今までそんなお願いされた事ないーーというか、クリスティアがそんな下手に出ているところを、初めて見るだろうシーナは困惑する。
「食べるのですか? お嬢様のお作りになられるものを?」
「そうよ? だって自分だけじゃいいかわからないでしょ? 人の意見が必要だもの。うまくつくれたら、おやつになるわよ? 材料はこっちで用意するから」
驚く彼女に「だから、ね?」と、追い討ちで可愛くお願いしてみる。
甘いものって、メイドにとっては至高品のはずだ。
まぁ、食べたらもう共犯者。
言い逃れできな意立場になるんだけどね?
これぞ悪役的戦法である。
戸惑いながらも、彼女は告げた。
「……考えておきます。今はひとまず旦那様と奥方様へ、お嬢様が目覚められた事をいち早くお伝えすべきですから」
「あ、ごめんなさい……分かった。待ってるわ」
そう言って、しょげておいた。
正直ここでオッケー貰えるとは思ってない。
シーナはそんな私を見て。
謝られたのも初めてだったのかもしれない。少し固まった後「失礼します」と言って、どこか逃げるように部屋を出て行った。
どうかなぁ。
シーナが一番歳近いから。
話しやすいんだけどなぁ。
ぼんやりそんな事を考えていたら、ノックもせずに扉が開く。
「くー姉大丈夫かよ。熱中症だって?」
そんな事するのは、私の弟しかいない。
「えっ私、熱中症だったの⁉︎」
「そーだよ! なんかいなくなったと思ったら、探しに行った王子がすごい顔で帰ってきてさ? 熱中症で倒れたんだって言われたよ」
びっくりする私に、「もー気を付けろよなー」と顔を顰めた弟が言う。
えー! 意識遠のいたのって、熱中症だったの⁉︎
まぁ確かに……言われてみれば。
手をパタパタさせたり走ったり。
よく動いてたし。
おまけにめっちゃ泣くくらい興奮してたけど……うわぁ。
人の心配してる場合じゃありませんでした。
さーどう思われたかな!
知りたくないなぁ⁉︎
目を背けたい事実に、頭痛がした。今なら私、ほんとに調子悪いわ。演技なしでいけますわー!
はぁ……でもそれじゃあ。
女神様と会ったの何だったんだ?
精神だけ呼び出されたの?
けど、石持ってきてたけど……。
神絡みは考えても、結論でなさそうだ。
今度会ったら直接聞くかな、と考えて気を取り直すが。
「また王子来るって言ってたぞ」
「え⁉︎ いつ⁉︎」
そんな事は関係ないほど、気を動転させられた。
なんで君はそう、なんでもなさそうに言うかな⁉︎
「今日」
「ええっ⁉︎ 何時よ⁉︎」
「たしか3時?」
「あと2時間しかない!」
そうして私は、慌てて準備を始めたのであった。




