60話 命運を握るお姫様
「この世界の人間が滅んでしまう原因はーー王家の隠し子のせいだと思うの」
「せいだと思う?」
なんだろうかその曖昧な言い方は。
「毎回見ているときに邪魔が入るのよ。あれは、多分光も闇も持ってる」
「はっ⁉︎ え、ちょっとまって下さい! そんなの、可能なんですか⁉︎」
憂いの表示で語る女神に、慌てて突っ込みを入れる。
光と闇ーーそれはどちらも互いに相容れぬ魔力のはずだ。
2つもつなんて信じらんないよ⁉︎
だって聞いたことないよそんなチートキャラ!
「先天性の魔力はどちらかだけーーけれど闇には、抜け道がある」
「抜け道?」
「恨みつらみを集めればいいの……まぁ、いわゆる儀式ね。私のところに返ってこない魂が沢山出るわ」
つまり魂を消費して、儀式、を……。
あー! 黒魔術ですわー!
そりゃ闇が恐れられるわけですわー‼︎
そう思うの何回目だろうね⁉︎
「その人の名前は?」
「名前は……その時によるのよね。こっちの考えを読まれてるから」
「神の考えを読むとな⁉︎」
女神も困り顔であるが、驚かずにはいられない。
そりゃそうだよねぇ!
神様の思惑を知り得るとか⁉︎
なんじゃそりゃ意味わからんよ!
「光と闇は相容れないもの。互いに潰し合う、互いに優位で弱点であるから、まぁ、言うなれば弱点がないーー神に準ずる存在になるのよね」
はい⁉︎ 何それこっっっわ‼︎
「違うのは寿命の制約だけれど……まぁ上手く闇を使いこなせば、それだってないようなものだし。本来なら、儀式したってここまでにはならないのだけれど」
「せめてどちらかだけでも弱ければ」と、女神様が溢す。おまけに、ため息を吐いた。
「あのー……確認したいんですけど」
この空気で言うのもなんだけれど、私は聞いておきたいので挙手をする。本当はアルに聞こうとしてたけど、ここで聞いちゃったほうが良さそう。
「光の魔力って、癒し以外に何が出来ますか?」
私が把握しているのは治癒と浄化、あと多分心が読めることかな。答え合わせだ。
「治癒に浄化、読心ね」
さらりと解答頂きました。合ってましたね……ところで。
「何で心理が読めるんですか?」
小首を傾げて尋ねてみる。地味に気になってたのだ。
光は希望。
そこに読心術って、ちょっと想像できなくて。
「だって、それが一番闇を抑え込めるじゃない」
汚れた心は闇の温床。それを照らし出す、と。
あーなるほど。
対闇のためでしたか……ってあっぶねー!
私何気にフィーちゃん、危ない綱渡りしてたのでは⁉︎
「それでその人は……私より闇の力が強いんですか?」
「どうかしら。あの子の場合、それだけで判断はできないから……」
まぁフィーちゃんより新手さんが問題だなと、問いかけてみるも女神の解答は芳しくなく。
ねぇ迷うほど私は恨みつらみの塊なの?
ヤバくない? 溜めすぎじゃない?
儀式で魂消費したのと同等なの?
逆にそっちが気になった……まぁそれは置いておいても。
「あの子ーーって子供ですか?」
いや女神様からしたら、みんな子供かもしれないけど。
念のために言ったんだけど。
「そうね……おそらく、あなたたちくらいじゃないかしら」
女神様の顔色はあまりよろしくないです。
それすら分かんないのか。
相手のジャミング術高いな!
いや、でもそれって。
「王立学園で会ったりとかありえると……?」
「ええ、いつもそこは確認できるわ」
王立学園フィンセントグローリアは、『学プリ』の舞台だ。
一定以上の魔力を持つ年頃の子達は、みんな集められることになる。ただ平民と貴族はクラスも校舎も違うんだけどね。
「でもそれだけ分かってても、女神様手が出せないんですね」
「自分の子供たちには、直接命に関わるような手出しをしない制約があるのーー人間は元を辿ればあたしの子だもの」
不思議に思って言うと、残念そうにされた。
あぁそういう制限なのか。
確かにそれは無理なんだろうなぁ……とすると。
「えっと……まさか、その人を私に倒すようにとか?」
言わないですよね?
「そんなの無理に決まってるでしょ‼︎ あなたなんて光の魔力で浄化されておわりよ!」
あーひどい。それはそれで傷付きますよ?
「じゃあどうしろと……」
「あなたと一緒にいた……あの男の子、妹がいるのだけれど、その子の死の運命を止めて欲しいの」
傷ついた私は表情筋が死んだまま問うと、真剣そうに返事をされた。
えっアルの妹ってーーあの?
私は『学プリ』を思い出した。
それはアルバートルートの、難関とされるキャラ。
通常個別ルートに入ったら、そのまま好感度を上げればゴールインなんだけど。
アルバート王子だけは違う。
アルバート王子の妹……リリチカ・カサブランカと仲良くならなければならない。
これが実は。特定の時間に特定のところに何回か行かなければ会えないという、結構難易度が高いキャラだ。
しかも最初に会わないといけないのは、個別ルートに入ってからではない。個別ルートで名前が明かされるのだが、その時点では遅い。
そこで会う時までに。
彼女と会って仲良くなっておかないと。
何かと邪魔が入りうまく行かなくなる。
何故って彼女、ブラコンキャラなのだ。
しかも通り名が『凍れる白百合』、または『氷華』と言われるくらい……心を開いてくれにくい。
だからよく知らない女の子に、お兄ちゃんをとられたくないがために、色々とーーそれはそれは、お姫様なので色々、悪役令嬢以上にしてくれる。
ここは本当に泣きを見るプレイヤーが続出してた。
うまくルート入ったと思ったら。
ベストエンドにいけない、みたいな。
永遠に友情エンドから抜け出せない地獄。
初回は、攻略サイト必須と言われていた。
仲良くなっておけば、渋々ではあるが邪魔はしないでくれるし。とっても可愛いキャラではあるんだけどね。
ちなみに。
可愛いもの大正義の私はリリちゃんと呼んでいる。
彼女の愛称、本当はリリーだけどね。
百合のお姫様だからぴったりネームね。
そんなリリちゃんを、アルバート王子も可愛がっているのだけれど。
「リリちゃん、死んじゃうんですかっ⁉︎」
衝撃的である。
ゲームにそんな描写なかったけど⁉︎
「ええーーリリチカ・カサブランカは病死の運命にあるのだけれど、新種の病でね……この世界の技術では治せないの」
「!」
そう言いながらも、何か言いたげな目配せをされる。
この世界の医術で無理でも!
私なら治せるってことですね⁉︎
「彼女が生きることで、その後の展開が随分変わるの。けれどあたしでは、妨害もあってその未来が掴んでも変えられてしまうから……」
「やります! リリちゃん助ければ良いんですよね⁉︎」
頬に手を当てて瞼を伏せて、困ってますアピールしている女神様に。手を挙げてぴょんぴょんして、自分から立候補する。
「そうね、近くにいれば妨害があっても対処できると思うのだけれど……」
「まず仲良くならないとですね!」
リリちゃんはアルバート王子より2歳下なので、今4歳だろう。
ちっちゃいリリちゃん! 見たい‼︎
私の頭の中はそんな欲望が渦巻き、それが態度にも出ていたことだろう。声は弾んでいるし、口角も上がっている自信がある。
リリちゃんは、アルが可愛い顔なのからもわかるように! めちゃくちゃ可愛いのだ‼︎
お姫様への期待を裏切らない可愛さ‼︎
それを失うなど世界の損失‼︎
可愛いは大正義なのだから‼︎
それに小さいなら、私のお姉ちゃんスキルが使えるはずだ‼︎
というわけで闇の使い手である私は欲深いので、この件を快諾しました! 待っててリリちゃん!




