58話 前世からのフラグでした
嘘も誠になるとはよく言ったもので。
それは相手が自分自身であったからなのかーー特に苦労もなく、攻撃対象の変更は完了した。
けれど今度の風船は容量が小さかった。
あの時最善の選択だと思ったこの選択は、進んでみれば最悪よりはマシ、というだけの選択だったわけだ。
その時はどうにかなっても。
その道はそんなに長くは続かない。
次の選択肢はもう来ない、そして戻れもしない。
そんな選択。道の先は、ただの奈落。
「あたしがこっちに連れてきてあげなきゃ、あなたはただ終わるだけだったんだから。感謝してくれてもいいのよ?」
「……嘘。頼み事があるって、言ってたでしょ。そのために必要だから呼んだくせに」
「ま、まぁそれも1つではあるけど。理由が1つじゃなきゃいけないなんてこともないでしょ!」
冷たく出鼻を挫かれた女神は、ちょっとムキになって言った。
本当にそれだけなら。
セツはいらなかったはずだ。
だから、信じない。そんなもの。
代わりに出るのは、ため息だけだ。
「はぁ……じゃあつまり、私が誰よりも欲を溜め込んでる人間だから、闇の魔力が強いんですか……」
めちゃくちゃ不名誉である。
しかも、だから連れてこられたんだとしたら、前世からフラグ立ててた事にならない? やだ、私フラグ立てすぎ?
「そういうこと! まぁ、欲って意味では光だってそうよ? だから対になる訳だし」
「何の欲ですか光は……」
「全てを許し、信じ、救いたいという強欲」
期待せず胡乱げに聞けば、なんとまぁ。
めちゃくちゃ聖人じゃないですかやだー。
ほんとに正反対ですね!
個人の願望と他者への願いとか……。
どちらが綺麗かなんて、明らかすぎる。同じところに並べちゃいけないくらい、違う。
でもこれで分かった。
私、やっぱ婚約破棄しなきゃダメだわ。
強欲の妃とか、生み出しただけで災厄ですわ……。やっぱ主人公はなるべくして主人公なのね。うんざりするほど、出来た人間。どこまでも綺麗だ。
「それのどこが強欲なんですか……いいことじゃないですか」
「強欲よ。だってそんなこと、できるわけがないじゃない。出来てたら、あたしがしてあげてるに決まってるでしょ」
女神はそう鼻で笑ってみせた。
んー……まぁその点に関しては、否定できない。神の上を望むってことだし、そう言われると強欲なのかな。言い方が悪すぎだと思うけど。
それにそもそも人が個をもった形で、生きている以上は無理だよなぁと私は思う。
個人であるからこそ、個性が生まれる。
沢山の考えがうまれるから、成長が早くなる。
多様性がありきのものだ。
代わりにどんどん分かり合えなくなる。
考えが違うから。
そして争いや排斥が起こる。
ただ1つの正解をもとめて。
そんなものは、唯一個体じゃない限り有り得ない。
そしてそれが、正解とも言えないと思う。
同一の、うーんと。例えばサーバーは1つだけで、遠隔操作で動く複数のロボットみたいな生物だったら、考えは同じだろう。
全てが自分なので、争いなんか起こらない。
その代わり、成長は遅い……いや疑問を唱える者がいないから、そもそも成長するかな?
なので人間が人間な時点で。
全てを許すとか、できない。不可能。
だって同一の存在にはなれないから。
これが私の考え。
まぁだからこそ、分かり合おうとすることが大事なんだけどね。それをやめたら争いと排斥の連鎖だ。
「え、でもその考えだと、そのシナリオライターさんより私の方が力上ってことになりません?」
「上に決まってるでしょ?」
そんなまさか。
「私5分しかできないですけど……?」
「だからそれは、自分ができないって決めてるからだって言ってるでしょ!」
疑って聞けば、ムキになって否定された。
ええー。だってできないよ?
「どうせ最初に、子供だし5分くらいかなーとか思ったんでしょう⁉︎ 闇も光も、1つだけその魔力以外に条件があるのよ!」
「えっなんですか?」
初耳だし、いつもなにも考えずに使えてたのに?
「決して疑わないことーーつまり出来ると信じる、できて当然だと、普通だと思ってなきゃ……魔力があっても使えないわ。あんたが自分の未来変えられてないのと一緒!」
なんか突然怒られました。
「あんたが出来るって思えば、別にあの子たちと仲良くなったりなんかしなくったって、死にはしないの! そういう力なの! それをあんたが信じられてないだけなの‼︎」
手をブンブン振って抗議されたが。
いや、だってねぇ?
フラグ拾えてないのにうまくいくなんて、そんなの信じられないよ。人生そんな甘くないよ。そんなスキップ機能、ゲームじゃあるまいしね?
「あぁ! あんたは記憶思い出さなきゃあーなるし、記憶あればそれが足枷になるしで……面倒くさいわね!」
「記憶を思い出さないと……?」
「記憶を思い出さなかった時のあんたは、あんたが別人呼ばわりしてるやつよ! 弟の存在がないとこうも違うかとびっくりしたわ‼︎」
引っかかる言葉に、追求した結果。
つまり?
「……セツの記憶のない私は、欲に目が眩んで悪役令嬢って事ですか?」
「そうだって言ってるでしょ!」
えぇ……マジですか、あれ私なんですか……。
キレられているのが些細なことに思えるくらい、ショックだ。
「……でも、私の方が魔力使えてません?」
「それはあんたが制限かけてたせいよ! 勝手にお父さんはあれくらいだったから、とか思って!」
悪あがきは徒労に終わる。
あー……把握。つまりこの力は思い込みが落とし穴な訳ね……。私は悪役令嬢じゃないと思ってるから、使えたのか。
私の想像力の許す範囲で。
「いやでも、同一人物っていうならセツは? 弟が私がクリスティアーー記憶がない時って記憶セツもなかったんですか? 性格が違いすぎるんですけど」
「そんなのあんたが都合の良いように、操ってたからでしょ! 私はあの子の記憶消したりはしてないわよ!」
うへーほんとですか……それはヤバい。そういえば闇の魔力って幻惑……頑張れば人操れちゃうんでしたね。全然意識してなかったけど。
まぁ、たぶんこれクリスティアーーいや記憶のない私は、無意識でやったんだね……。
うわ、穴があったら入りたい……。
むしろ自分で掘って埋まっていいかな?
あぁ〜! ため息しか出てこない〜‼︎
だけどまだ全部の確認が終わってないので。唇を噛むだけで我慢し、まだ出てくる疑問を女神様にぶつける事にした。