529話 見えてくるもの
「とりあえずまとめよう!」
頭がこんがらがる時は書くにかぎる! ということで、気になることをいくつか書き出してみる。
「えーと、そもそも二重人格っぽいところから? うん……全部書き出さなきゃだから……」
思いついたことから順に書いていくと、ちょっとだけ気になっていたところがわかりやすくなった。
〈裏ノア君の気になるところ〉
・二重人格? 双子キャラ?
→イケメンだし学プリ裏キャラっぽい
悪ぶってるけどいい子っぽい
・最初話す気なかった
→私の大捜索が必要だった? なぜかは不明
・神様になりたい
→ノア君のため? 体が1つしかないから?
でも終わりが見えてる
なんとなくヤケになってる気がした
・あの鏡の先の家を知られたくない?
→闇魔法か魔石がないといけない場所
家は事件があったように荒れてた
「うーん……書き出したけどわかんない……!」
持ち上げてみても、当然ノートの文字は変わったりしない。思わず頭をかしげるけど、思いついたりは——。
「ん、いやちがう? 裏キャラルートって、クリスティア絡む……?」
なんとなく浮かんだことをとっかかりにしてみる。そういえば彼は言っていた。
『それで他の人間の運命が変わるとか、考えたことないの? ——たとえば人が死ぬとか』
『お前が死なないと、ノアールが死ぬんだ』
『だからさ……戻してよ、自分の手で』
この流れを考えると――。
「——正規ルートのためには、悪役が必要……ってこと?」
この世界はゲームではない。
だけど、確かに『学プリ』は予言なんだ。
それは女神様も言っていたこと。
予言は後に響きにくい出来事ほど、変えるのは簡単。それは水面に石を投げるようなもの。小さければ被害は少ないけれど、大きければ。
「どう考えても、裏ノア君の起こそうとしている波は小さくないよね……クリスティアより」
ゲームのクリスティアは意地悪だし。
いいとこは正直ないようなキャラ。
彼女自体は小物だけど——。
「それでも、クリスティアってどのルートでも死亡エンドだったよね。名言はされてないけど――」
だけど人に影響力があるから消された?
乱雑に思うことを書きながら、大事そうなことにぐりぐり丸を書く。
今の私の立場よりは控えめだとしても——不穏分子で社会に影響力あるんだから、それはそうなりますよねという感じ。
公爵家の娘、王子の婚約者、それで闇魔法が使える。そこには幻惑も含まれるわけで。
「うーん、クリスティアってゲームで思ってたよりヤバい存在だったんだな……」
と改めて思いつつ。
それよりさらに力も立場もある私。
……なんか転んだら怖いねー!
けどこれは今考えても仕方ない、ということにしておきまして! 一旦忘れて、考察の方に集中する。
ここに、ひとつの予想がある。
私は『学プリ』プレイヤー。
しかも重度のオタク……だからこそ。
攻略してなくてもわかることがある。
それはキャラクターの性格や、物語のお決まりの流れみたいなものだ。
「どのエンドでも悪役が死ぬってことは、裏キャラルートでもそのはず――悪いものは排除されて、正しいものが残る」
ゲームは、何度もやり直せる。
セーブして、ロードして。
ハッピーエンドを
矢印と図を書きながら、頭を駆ける思考の端を捕まえていく。『学プリ』はそういう運命の話じゃないかって。
それを望むのは誰だろうか。
プロデューサー、シナリオライター。
だけど、この世界なら。
「……どこでも神様の意識が働いてる? 結局、人はこの監視からは逃れられないから……」
ゲームの裏ルートのバッドエンドは、きっとみんな滅ぶこと。
どれだけ裏ノア君が頑張ったとしても、神様たちには勝てないから――神は全てを正そうとし、人もそれに従うのが基本。
それがこの世界における正義?
『学プリ』は恋愛ゲームである前に、勧善懲悪が根底にあるのではないか——飛躍しすぎかもしれない、でも。
ゲームの登場人物を思い出す。
友達を見るのではなく。
キャラクターとしての構造を。
アルバート王子は神の血を引く者。
いうまでもなく、神の血を濃く残すキャラクター。完璧主義と正義感をもつ、やがて人を統べる冷静で高潔な王になる器。
「……それでもって、たぶん悪役令嬢にも制約を施してる」
ブレスレットを思い出す。
きっと何度も繰り返された契約。
首輪で制御できないものは——。
そして主人公のフィリアナは。
「聖女様は、公平神様の使いでもあるもんね」
悪事も悪も許すはずがない。プレイヤー目線だってそう。私の知るフィーちゃんは、優しいけれど芯のある女の子。
嘘もつけないのが光使いなら、正しい行いはひとつ。
「みんなを滅ぼそうとしてる人間を止めないわけないよな……悪役のルートは」
死。それだけ。
だけどノア君が攻略キャラクターなら、何か抜け道があるのかな。そこに私が絡んだりするってこと?
でも裏キャラルートは基本アルバートルートをなぞるはずだから……私は普通に断罪で終わるはずなんだよな?
……それにこういうものの定石は、裏キャラは消えること。
「まさかノア君の魂が転生して解決……みたいになったりは……」
しない。
と、言えないのが怖い。
女神様理論だと『それも本人』……。
フィーちゃんの魂派閥どっちだ……⁉︎
だけどこればっかりは聞かないとわからないので、後で聞くとメモして考察を再開する。
「……でも神様の意思が人に影響するとか操るってよりは、そういう人が上に立ちやすいって感じ? 操れるなら女神様は私に頼んだらしないし……」
それは例えば信仰心。
そして、魔力や血筋のようなものか。
それが全てではないけど、その傾向はある。
けれどそれが直接的に操られて作られているかというと、ちがう。女神様は人間の自主性も尊重してる感じはあって干渉を必要以上にはしない。
だけど、女神様は闇の魔力の根源なのに――どうして操らないなんて言えるんだろう?
闇魔法が人も操れる力がある。それなら女神様だってそれができるはず。それをしない――ここがたまに引っかかる。
「『ルールがあるから』、かなぁ」
神様たちはそのルールを破れない?
それを罰するのはアミトゥラーシャ様。
でも、アミトゥラーシャ様が決めたのか?
「話し合いとか……しそうにないんだよなぁ。あの2柱は仲悪いし。でも従うのは、まるで誰かがルールを作った感じというか……」
人間でいうならルールを作るのは偉い人。
アミトゥラーシャ様が従える側に思えない。
従えるのは公平から1番反するから。
でも実際ルールはあって、神様たちは基本従ってる……。
「もっと上がいる……とか?」
そんな事、あるんだろうか。
少なくともゲームではなかった。
考えすぎなら別にいい、けど。
「……私の勘ってそこそこ当たるんだよね〜」
これの原因は、無意識の予知らしいけど。
「いやさすがにないか……神様のことに関してなんて、魔力どれだけ使うことになるんだか」
自分の中の魔力量は意識したらわかる。
別に、気になるほど減ってはいない。
考えすぎだ、そうに違いない。
だけどこれは思考整理だからということで、一応ノートには書きこんで。
「……無意識に人を操るとか、女神様もできるのかな……」
さすがにそれはないか、とペンを投げてごろんと布団に転がる。そんなことをするのは私だけ、なんだろう多分……。
「無意識に操る……ね」
目を閉じると、頭の中で声がする。
『周りを巻き込んだお人形遊びは楽しかった?』
それを望んでないと、私ははっきり言えなかった――それがほしいと、誰よりも望んだだろう過去がよぎったから。
「……私はもう空璃じゃない」
あんまり思い出したくもない。考えすぎて疲れたのか、頭がぼーっとしてきてまぶたが重くなる。逃げ出したくて、それに身を任せた。
まさか悪夢を見るとは知らずに。
先にお知らせします。
次話とその次くらいまでが重めなので、精神的苦痛の表現が苦手な方は避けていただいても構いません。物語としては、流れがなんとなく察せます。
ただ読んだ方が後が面白くなる――それも物語の味です。




