528話 1人反省会
シンビジウム家に連行されたフィーちゃんは大歓迎された——まぁそれもそのはずで。
なんか知らないうちにうちの弟、フィーちゃんと婚約してたんですけどっ⁉
聞いてないよってなったし!
というか道中その話もされなかったし!
誰からも報告受けてないの私だけだし⁉
しかしまぁ屋敷中みんなにこにこで——そりゃこんなに可愛くて、しかも聖女様ってなったら誰だって大歓迎だよね。
なんか夕食もパーティー状態で。
それもそのはず。セツはもともと「私を回収してうちに来れば?」とフィーちゃんに言っていたらしい。
いやそれなら迎えに来いと思ったけど。
たしかにいつ帰るか不明だったけどさぁ!
ていうか先に姉に報告しなさいよ!
そんなわけで食卓で談笑するシンビジウム家の面々と、ヒロインを眺める夜になりました。微笑ましく、なぜか寂しい。
「いや、普通にお祝いしなよって感じなんだけどね……」
全てが終わった就寝前。面倒な私は、誰もいない部屋でベッドに寝そべりながらもだもだタイムに突入していた。
「いやいや、めでたいよほんとに。これで我が家と弟は確実に幸せになるし、フィーちゃんもうれしそうだし」
なのになんで、こんなに。
感傷的な気分になるのか。
自分が、とてもめんどくさい。
私の方がフィーちゃんを先に知ってたのになとか、セツは大人になって私をいらなくなっちゃうのかなとか。
シンビジウム家の人々は、当たり前に、血のつながりとか関係なく、優しいのは知ってるし。
2人は幸せな家庭を築いていって。
私はいつか家を出なきゃいけなくて。
そうしたらこの光景が日常なのかとか。
本当に——ほんっっっっとにいらないことばっか考えてしまって!!!!
しかも一瞬、帰ってこないでアルのところにいたらよかったかもとか、考えて——いや自立しなきゃと葛藤して。
「もぉ~私がダルすぎる~~~~!!!! 今日はもうなんかダメだー!!!!」
足をばたつかせて枕に顔をうずめて、ばすばすベッドを叩きながらバカみたいに唸る。何とかとりつくろえていたとは思う、けど。
あんまりな態度すぎる〜〜〜〜! 自分の1番嫌いなとこ出てる〜〜〜〜!!!!
なので1人で落ち込んでいる。
絶賛脳内反省会開催中です。
心の底からいい子になれない……はぁ。
「これは悪役になる気持ちわかるわー……」
だけど反省会はやりすぎもダメ。だって明日から学校があるから。ちゃんとしないといけないし……。
「あぁ〜もう今日は無理やり寝るしか……でも裏ノア君のことも考えなきゃなんだよなぁ」
絶対寝る前に考えることではないのだけれど。どうせ寝つけそうにないので、ごろごろしながらぼんやり考える。
裏ノア君の言っていたこと。
きっと全部に意味がある。
本当に目的がないわけじゃなかった。
祝賀パーティーを壊すこと——それが1番の目的だと思っていた。
けど、本当にそうだったのかな?
肯定はした。でもあの時の反応は——他の言い当てた時より、余裕があった気がする。
そう、笑っていた。
言い当てた時は怒ったのに。
これは思惑通りの回答だったから?
裏ノア君の力なら、パーティーをめちゃくちゃにすることはいくらでもできる。物理的でも、人を操っても。
でもそれをしなかった——私に要求を出すため、でもあるけど。
「裏ノア君は同類なんだよな……うーん」
仰向けになって、天井を眺める。シンビジウム家だって立派なのに、昨日のせいで少し天井が低い気がしてしまう。
闇使いは予知ができる。
なら、パーティーの成功も見えてた?
じゃあなんであんなこと言ったの?
祝賀パーティーを台無しするなんて——。
「ん……あれ? 言ってないな? 私が言いだしたのか」
そう、にごしてかわされて——だから私は“読む”方に集中したんだよね。
思い返す。あの日のことを。
彼の返事は「どうだと思う?」だった。
そもそもそれを聞いたのって——。
「……大捜索が関係ある? んー……それじゃまるで、私がさらわれたことに意味があるような」
いや、意味はあるのか?
話をしたかったから?
……でも最初は「暇つぶし」って。
「……だめだこんがらがってきた! とりあえずまとめて紙に書く⁉」
がばっと起き上がってなにかないか見る——でもきれいに整理された部屋にはなにもない!
ぬぁ~! いま欲しいのにっ‼
けど思い立っちゃったのが夜!
誰か呼ぶほどのことではない!
あとなんか見返す可能性があるから、手軽なとこに書きたい! できれば持ち歩いて思いついたときにメモりたい!
しかし失くしたくない!
ドレスにポケットとかないしなぁ⁉
ペンダントはもう装備枠がない!
闇魔法で出して亜空間とかにしまう? いやなんか私の記憶力次第でメモ内容変わりそうだし……。
「自分の想像力に自信が持てないの嫌すぎる……いや記憶力が正しい? なんかもう変わるかもって思ったら、確証なくなっちゃうんだよなぁー……」
人の物や、詳細を知らない物ならそのまま保管できると思う。けど、自分に関わる物――とくに思考に影響されそうな物は自信がない。
意外とみんな知らないだろう闇魔法の弱点。
想像を疑ったら失敗なんだよね……。
今、それがとても憎いです。
絶対変わらない確信が持てて、絶対忘れず持ち歩いて、絶対人にとりあげられず、絶対人が疑わない物……うーん、そんな都合のいいのは……。
と思って、ひとつだけ思いついた。
「……いや~あれ使ったら怒られるかな? でもでも、身に着けるよう言われただけで、形を変えるなとは言われてない……よなぁ」
ちらり、とチェストの方を向く。
視界の端で美しく咲いていた花。
いうなれば私の首輪のような。
忠誠と契約の証は存在感を示している。
「……今かかってる魔法に干渉しなければ……いける?」
まぁもうすでに、この百合の花は魔道具だから……そして1番イメージを失うこともないし、元に戻せる自信もある。
「なんか悪いことしてる気分だけど」
だけど、特大級の秘密だ――漏らせば誰か死ぬかもしれない。
でもこれなら誰にもバレないだろうし。
シーナだって気づかない。
変に新しいものは怪しまれるから完璧!
挿してある花瓶から抜き出して、おそるおそる形を変えてみる――そう形だけだから。他は変えないから大丈夫――!
想像は銀の光になって、白百合の形を変える。
「いけちゃったな……凝りすぎ? いやせめて見た目くらいはね。さすがに勉強用ノートとかにするわけにいかないもん、気持ち的に……」
手元には、表紙が白百合を模ったステンドグラス風のノートが1冊。
ついでに転生前によく使ってて好きだったボールペンを闇魔法で作り出して、寝っ転がってノートにまとめはじめる。あの違和感を捕まえないと!




