524話 夢見心地
「その服じゃ寝にくいかな? じゃあ着替えよっか!」
そのまま意志確認せず指パッチンを決め、強制的に部屋にあったであろう服に着替えさせてしまう。……なんか真っ白でアイドルの衣装みたいだな。
はっ! ダメだ止まるな私!
押し流すのだ‼︎
じゃないと追求がまた始まるっ‼︎
「どうせベッドは3人くらい寝れそうな広さだから大丈夫でしょ! ほらほら‼︎」
お布団をめくって手招きすると、アイドルだったら不合格な険しい顔がこちらを見ていた。
「……これで寝られると思ってますか?」
「寝られるよ〜疲れてるはずだから。そもそも誰も来ないもん。あぁでも、一緒に寝て怪しまれるとアルが困るのか。誰かに部屋にいてもらう?」
そもそもこの世界、自室に男女がいたらいかがわしい! って感じだし。その常識で生きてるアルとしてはバレた時の抵抗もあるのかも。
だからシーナたちも渋ってたし。
でももう部屋いるから今更じゃない?
さっきまで気にしてなかったのに変なの。
それに追い出しちゃった誰か呼び戻すのもな……と考えかけてやめた。
「いいや。眠いしめんどくさいから部屋に帰ったように見える幻惑かけとくね!」
「⁉︎⁉︎」
「まぁ一応バレるといけないから朝には戻らなきゃだけど。クロ、あなた寝なくても大丈夫でしょ? 悪いけど、少し早めに起こしてくれない?」
「にゃ」
「実はずっと見てるぞ」と言わんばかりの鳴き声。瞳をキランと煌めかせた猫の姿のクロが、扉の前に座りながら返事をした。
魔獣は別に睡眠必要じゃないんだよね。
魂があるわけじゃないから。
それは擬似魂持ちでも変わらない。
眠る真似事をする時もあるけど、あくまで真似、ということらしい。まぁブレスレットのままでいる時さえあるしね……。
アルも声でクロを思い出したのか、振り返ったらずっとそちらを向いたままでいる。クロの猫姿が気になるのかな?
そんなちょっと光景を眺めつつ声をかける。
「さぁこれで寝られるよね! 今から寝ても睡眠不足は確実だけど、でも寝ないよりマシだし。ほら早く寝ないと朝になっちゃうよ!」
そういって押し切ると、「……まぁ監視があるならなんとか……」とか、謎に渋りながらベッドに上がった。とりあえず布団をかけてあげる。
うーん、私の信用がないのかな。
寝相悪そうだと思われてる?
もしくは寝顔見せたくない……とか。
あぁ、それならわかるかも。私も寝顔はあんまり見られたくないかも。じゃあ気にしなくていいように一声かけておこう!
「アルは誰かの隣で寝るの嫌なタイプ? なら隣にいるのは犬とでも思えば大丈夫だよ! 私、ちゃんと窓側向いて寝るし!」
私の提案はうやむやにしたかったのが目的だけど。アルが寝られる事も本当に望んでるので——じゃないと気になって私も寝られないし‼︎
というわけで宣言してくるっと反対を向く。
ついでに窓側に寄ってあげる。
誓いますよご主人様! 寝顔、見ません‼︎
「……なんだかずっと考え続けている自分が馬鹿らしくなってきました」
「そっか! よかった! よく寝れそうだね‼︎」
「……。」
静かになったから寝れそうかなー? と、背後の気配をさぐっていたら。
「ひゃ⁉︎ あ、アル……?」
何かあったのか、イタズラなのか。
突然肩の方に腕が回ってきた。
び、びっくりした〜〜〜〜!!!!
「何もしませんよ。ご主人様と犬なのでしょう? この方が安心できると思いませんか? 君がいなくなったらすぐわかりますから」
「そ、そっか……? そこまでいるかな……?」
「合理的ですから」
合理的……まぁそうかなぁ?
安心しないと寝てくれないから。
しかたない……かなぁ。
背中に熱がじんわり伝わってきて、ほっとして急に疲れを実感する。頭がぼんやりしてきた。
「そっかぁ……んー……でもたしかに、あったかいし眠くなってきたかも……」
「本気で言ってますか?」
「だって今日、やっと安心できたから……」
なぜか驚いてそうな彼に働かない頭で返事する。
色々ありすぎた。
朝から儀式があって、変な家見つけて。
パレード見て、祝賀に出て、誘拐されて。
ありすぎてる……自分で思ってる以上に限界だったらしい。
さっきまで心配していたアルがもう大丈夫そうだと安心して、糸が切れてしまった。ふわふわベッドの中で私は無力だ。
「あの……あんまり寝顔見ないでね……ちょっとたぶんひどいと思うから……ふわぁ」
近づいてきたからには、アルは大丈夫なんだろうけど。疲れ果てて泥のように眠るだろう私の方は全然大丈夫ではない。
しぱしぱしてくる目をむりやり開けようと頑張っても、睡魔には逆らえない。
「も、だいじょぶだから、ね……あるも、ねて……ね……ねないと……しんぱい、で……おき……ちゃう……」
先に寝るのはなんとなく申し訳ない。
でもアルが安心して寝れたらいい。
そう思って、少しだけ指先で手首に触れた。
でも全然意識は保てない。
眠りに落ちる中で最後に感じたのは、頭を撫でられた感触と。「おやすみなさい。私のーー」と、途中で消えた声だけだった。
***
「お嬢様、起きられますでしょうか?」
「んー……ん?」
朝?
シーナの声?
……やばい!
「アルは⁉︎⁉︎⁉︎」
ガバッと布団を押しのけて起き上がって、右を見たけれど影も形もなかった。
代わりにクロが隣で、まるで本物の猫のように丸くなって寝ていた。私が急に動いたからか、一緒に起きて伸びをしている。
……あ。ひょっとして私、夢見てたかな?
でも部屋が私の部屋じゃないし。
間取り違うし、豪華すぎるから……。
えっと、どこから夢?
「殿下はもう起床されておられます。先ほど廊下でお会いしました」
きょろきょろする私に動揺する事もツッコむこともなく。いつもと変わらないシーナは、いつもより丁寧に答えてくれた。あ、お城仕様だ。
「おぉ……さすが……あんなに忙しかったのに」
「お嬢様のことはよく寝かせておくように申しつかりましたので、現在は朝ではなくブランチの時間ですね」
「えっ⁉ お昼ですらない⁉︎」
「午後3時になっております」
「えぇっやばいやばい早く起きなきゃ‼︎」
ひぃぃ〜!
人様の家でめちゃくちゃ寝ちゃった‼︎
やだー! 私の怠惰がバレバレだー‼︎
だって王様にもお后様にもご挨拶しないまま寝てたってことだよ!
やばいよー! 今回はさすがにご挨拶しないとマズいのに‼ この部屋の使用許可に絶対絡んでるもん~‼
「うわーん! もういざとなったらみんな記憶を改ざんするしかない~‼」
「不敬罪ですよ。もう着替えられますか?」
「まさか私がこのまま寝続けるほどのんきだと思ってるっ⁉」
「では殿下がご用意されたドレスをお持ちいたします。それと昨夜のドレスは殿下の命で廃棄いたしました」
「……ん? なんか今色々情報混ざってなかった?」
しかし我がマイペース侍女シーナさんは私の問いには答えず。廊下に待機していたらしい王宮メイドさんたちに指示を出した。
次回更新はいつも通り日曜夜です。




