520話 アドバイス下手
主にフィーちゃんとリリちゃんにもみくちゃにされながら、とりあえず手錠外れたし帰ろうかなと思っていたんだけど。
「ダメです。その状態で帰せると思いますか?」
「えっ帰れるでしょ元気なんだから……」
「ダメですのよ! 朝になったら精密検査をするべきですの‼︎」
「いやだー! 帰らせてー! さすがに疲れたのにー‼︎」
「安全考慮したら今日は泊まるべきです」
えー! 安全ってなに⁉︎
私が消えたのはお城の中だったのに⁉︎
いや言わないけどさぁ‼︎
しかも相手は裏ノア君である以上、警戒してもしかたないし今回はもう来ないと思うけど……という説明もなかなか難しい。
わかるよ。心配してくれてるんだよね?
でもさすがの私もちょっと頭を冷やしたい。
考える事たくさんあるし1人になりたいの!
しかし私の意見は全然通らない。
うちの薄情な弟は文句だけ言って帰ったのに、私だけはまだここに留め置かれている。
レイ君は「まー心配しても仕方ないんで、とりあえずクロはこのまま渡しておきますねー」と言って帰宅したし。その通りなんだけど!
ブランは犯人搜索隊に行っちゃったらしい。こういう時こそ癒しのお兄ちゃんに会いたかったんだけど……。
フィーちゃんも泊まりらしいけど疲れてるせいか、私の隣でひっついたまま寝始めてしまった。忙しかったのに無理させちゃったな。
そんな中でアルとリリちゃんからかろうじて1人部屋を確保したのは良いけれど、なんかとんでもない貴賓室に通される予感がしている。
待機する時間が1番落ち着かない!
ていうかいいじゃん帰ろうよ‼︎
警備とかあんまり意味ないからさぁ‼︎
「ま、諦めるんだな。あぁなったらあいつら聞かねーから。ま、当の本人は案外ケロッとしててよかったけどな」
「……ヴィンス」
もんもんとして脳内で文句を垂れ流していたら、彼が肩を叩いてきた。
あわただしく準備がされる中で、落ち着くまで付き合ってくれる気らしい。多分これも励ましてくれてるんだろう、調子が軽いけど。
ヴィンスは誰も見てないのを良いことに、お行儀悪くソファの肘掛けに軽く腰掛けた。もう今日の営業モードは終了らしい。
「まーあれでアルバのやつもショックだったんだろ。身内にしかわかんねーと思うけど、そこそこ酷い顔してたんだぜ」
「うーん……。突然飛び出しちゃったのは私だし、迷惑かけて申し訳なかったとは思うけど……」
「はぁ。クリスって鈍感だよな〜」
「え! 勘はそこそこ働くよ⁉︎」
「ズレてんだよなぁ」
「そ、そんなことないと思うんだけど……」
やれやれと首を振る彼を見て、こちは不服顔です。それに。
「……どちらかというと、今変なのってアルの方じゃない? なんか、大丈夫かな?」
アルが出て行ったドアの方を見る。もちろんいないんだけど。
そう、なんかおかしい気がする。
いつもの冷静さがちょっとないというか。
私が帰ってきたのに、焦ってるような?
いつものアルなら、見送るくらいはしても帰してくれそう……たとえそうじゃなくても、もうちょっと話聞いてくれる気がするんだけどなぁ。
そう思っていたら、渋い顔した彼が言ってくる。
「なぁ。クリスは、アルバがいなくなったらどうするんだ?」
「え? 全力で探すけど」
「全部ほっぽり出して?」
「うん」
「はっ、単純脳」
「ねぇ今なんかバカにしなかった?」
鼻で笑われた気がして抗議する。それを無言で見つめてくるのにたじろぐ。な、なによ?
「お前はさ、アルバがどんな身分でも、クリス自身がどんな身分でも、同じ行動とるんだろうな」
「? 当たり前では?」
「だから周りは振り回されるんだぞ」
「それに関しては大変申し訳ございません」
「お前な〜。謝ればみんな許してもらえるって思ってるだろ?」
そんなことはないので首を横に振る。
思ってないよ、ほんとに。
でもその時はその時かなとは思ってるけど。
しょうがない、物事は優先順位があるから。
私にとっての優先順位が、1番大事なものを守ることってだけ。そしてそれは人によって違う。それも、理解してる。
そして王子であるアルにとって1番大事なのは、この国そのもの。
「もしかしてアルやヴィンスは、立場によって変わるって話してる?」
「……それが普通だろ」
「そうかもね。2人は契約結婚とかも全然受け入れるタイプだしね」
「上に立つ者ならそりゃそうだろ。役に立たないものは意味がない」
「うん知ってる。別にいいと思うよ、私が異端なんでしょうし」
「自覚あるのか……」
ひどい言われようだ。でもその通り。
社会的には地位や名誉は大事。
人々が大事だと思うからそれに価値がある。
知ってはいる。ただ私の大事なものはそこにはないから、地位や名誉が大事な世界では普通じゃないという扱いになるのも。
「……お前は自由でいいよな」
「なに突然」
ずいぶん感傷的だなぁと思いながら、首をかしげる。
「たまに面倒になるんだよ。全部投げ出して楽になれたらなって。……ま、金がなきゃ何もできないから地位を捨てるとか絶対ごめんだけど」
「うん? うんそうだろうね」
「でもクリスはそうじゃないだろ」
「まぁ私は心が庶民なので……」
「闇魔法でなんとでもなるしな」
「そうだね。まぁズルいからあんまり使わないけど……」
「その狡いが意味わかんねーけどな。使えるもんは使うだろ」
「それセツも言ってた気がする……」
やっぱ私がおかしいのかな……でもズルいはズルいなんだよなぁと唸っていたら。
「ただ……だからこそ人のために使えるんだろうな。オレならそんな使い方ごめんだけど」
びっっっくりした〜〜〜!
びっくりしすぎて、じろじろ見てしまった!
ヴィンスがそんなこと、言うんだ⁉︎
「おいなんだよ。オレだって成長するぞ?」
「いや……1番縁遠い言葉聞いた気がして」
「お前ほんっっっと失礼だよな!」
率直な感想に、ケラケラ笑い出す。なんだろう、やっぱヴィンスも疲れてるのかな……と思ったんだけど。
「まぁそういうところがさ、憧れるっていうか。あいつも好きなんだろ」
「あいつ……?」
「いやどう考えてもアルバの話だろ⁉︎ 話聞いてたか⁉︎」
「聞いてたけど……アルはどーかなー……」
憧れはないんじゃないかな……と、思い浮かべて考える。
アルは私が好きではあるだろう。
人として。私に利用価値がある限り。
あと私が指示に従う限り、かな。
優しいようで打算的。人の上に立つのが当たり前だと思ってる人。身内には甘い。自分よりすごいと思える人とか、優れた魅力がある人が好き。
それでもって、完璧主義者の彼は振り回されるのは本当は好きじゃない、はず。
だからなんというか、今って奇跡みたいなバランスで成り立ってるだけというか。たまたまうまく重なった積み木の上というか。
私もそう器用ではないから。
何かが間違えばきっと崩れる。
隣にいる限り覚悟してないといけない。
……それは私がアルを好きとか、そういうのとは別の部分の話だから。だから間違っても憧れとかは……ないなぁ〜。
「ヴィンスはまぁ、自分と違う人は面白いと思うタイプなんでしょうけども」
「お前、ほんと自己評価低いな〜」
「そっちが高すぎるんです〜」
「そういうのダルいぞ……」
「もーうるさいなぁ。デリカシーない人はリリちゃんに嫌われちゃうんだから」
「ぐっ」
苦しんでるけど自業自得です。
ヴィンスは言い方を学んだ方がいい。
励ましが励ましに聞こえないから。
「……まぁとにかく! お前らもっとちゃんと本音話せよな‼︎」
どうやらそれが本題だったらしい。
そう言うなり、立ち上がった。
しかもそのまま部屋を出て行こうとする。
頭だけ回してその背を見送りながら投げかける。
「ヴィンスって器用なのに、こういうの不器用だよね」
「うっせぇぞ! オレ帰るからな‼︎」
「ふふ、うん。ごめんね、ありがと」
ドアの隙間からこちらを少しだけ振り返った彼は、「……上手くやれよ」と言ってドアを閉じた。




